バカス
ふんわりとしたイメージを感じていただけたら幸いです。
「また狐が悪さしょる。」
毎日じぃちゃんに聞かされる朝のフレーズ。
正直うんざりだ。
ここでいう狐の悪さは、畑を荒らすことで、作物が食べられてしまい、この頃は雨が降らず、じぃちゃんは四苦八苦している。それをすべて狐のせいにするのだ。
だが、警備を厳重にしても、なかなか狐が捕まらない。
狐の頭が良くなっているのか。警備を怠っているのか。わかったものではない。
冬の夕暮れ時は凄く寒く、ストーブが恋しくなる。
そして、最悪の事態で雨が降ってきた。
運良く折り畳み傘が鞄の中に入っていた。
“ラッキー”
心の中で呟いた。
ふと傘を開いて前をみると、女性がたっていた。白いワンピースに裸足。ずぶぬれなのにただ道路の真ん中で仁王立ちをして前を見据えている。
いつもならどんな不思議な光景でも寒さにはかえられないので、無視して立ち去るのだが、何故だか足がとまってしまった。「あの…ここで何をしているんですか?」
ワンピースを来た女性はこっちを見た。
「…お前は?」
「俺は家に帰るところです。」
女性はこっちを見ずに無表情で空に顔を向ける。
「いいお天気ね。」
彼女は切ない表情を浮かべている。雨のせいで泣いてるのか笑っているのかわからない。
「雨が降っていますが…」
「これは恵みの雨じゃない」
そう笑って応える彼女。何故だか俺は目がはなせなかった。ありのままのそのワンシーンがゆっくりゆっくりながれていき、俺はその場面に釘付けになった。
「これできっと…いつも子供たちがごめんなさい。」
空から目を外し、申し訳無さそうな目でこちらをジッと見ている。
いつも…?
俺はこの女性を知らない。
「またね。高木那緒くん。」
突然の出来事だった。風が吹くのがわかっていたかのように笑い、俺が目をつむった瞬間に消えたのか、魔法のように彼女の姿は跡形もなくその場から消えていた。どうして俺の名前を知っているのだろうか…?
その後ろに広がっていたのは、いつの間にかあがった雨の後の青空だった。
傘を閉じ、ふと下を見ると葉っぱが一枚落ちていた。この時期この周辺に落ちているはずがない緑の葉っぱである。
その葉っぱを拾おうとしたら跡形もなく、彼女の様に消えた。
「これはもしかしたら…」空を見つめた。
この雨は誰が降らしたのか…あの女性はいったい…
じいちゃんの言葉を思い出した。
“また狐が悪さしよる”
頭の中にガンガンその言葉が響いた。
畑はしばらく荒らされることはなかった。
じいちゃんは
「助かった。女神様のおかげだ」
と天を見ながら手をあわせていた。
恵みの雨を降らせたのはきっと女神様ではなく狐の母様だ。
俺はあのときから考えにふけることがおおくなった。いついかなるときもあの女性を考えてしまう。
これがいわゆる“化かされた”と、いうこと。
今度あうときは多分、狐の姿で…あうだろう。
どうだったでしょうか。コンパクトにまとめたぶん、何か繋がりがなくなってしまったような気がする現在です。ご感想等お待ちしてますっ。