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What to do and why

シスターの年齢を十代後半に変更致しました。

スイマセン。



 ハンバーガーショップから数十分で街中ある普通のビルの前で八神たちは車から降りた。

 神父はバールを腕に引っ掛けて、ハンバーガーの袋片手になおもハンバーガーを食べ続けており、シスターは初めて会ったときと変らずに本を両手で抱えていた。

「こっちです。ついて来てください」

 八神は二人を先導していく。教団の日本での本拠地は街の真ん中にある。それも傍目から見ればただの高層ビルだ。そしてそのビルには、教団とは何の関係もない企業が多数入っている。

 八神はそんなビルの中を明らかに風変わりな格好をした二人を誘導して、三人でエレベーターに乗せる。

 先ほどの事件のあとずっと機嫌の悪い八神は仏頂面のままエレベーターの緊急ボタンをためらい無く押す。

「緊急センターです。なにかトラブルでもあり――」

「『真理を証するもの三つあり、すなわち天然と人と聖書』」

 スピーカーから聞こえて来る声をさえぎって八神が言う。するとエレベーターはパネルには表示の無い地下に向かって動き出した。

「ふーむ。日本支部は地下を拠点にしているのかい? 精神衛生上よくないと思うのだが?」

「気にしないでください神父、目立たない場所を選んだだけですよ。日本の教団は肩身が狭いですから」

 顎を触りながら神父が八神に話しかける。どう考えても精神に疾患を抱えている『狂犬』にだけは言われたくないと思った八神だった。


 この国にもかつて妖怪と呼ばれる大量のモンスターがいた。そのモンスターを退治する一部の陰陽師達が戦国時代の宣教師達との密約により教団の日本支部が発足した。

 しかし、妖怪達は明治以降急速に姿を消していった。妖怪たちは人間の世界に混ざり込む道や減り始める自然とともに朽ちる道を選び始めたのだった。

 そうなると、次に問われるのは教団の日本支部の在り方である。各国に存在する教団は基本的には政府と深いつながりを持っており、教団の掲げる「化物根絶」に賛同するスポンサーから多大な援助を持っているのが普通である。

 だが、日本支部では政府からないがしろにされ、資金の援助も集まらないお荷物的な存在だった。


「君はハンバーガは食べんのかね?」

 スミス神父は大量のハンバーガーの一つを八神に差し出す。けれど、何も言わずに身振りで断った。スミス神父は不満げそうに八神に差し出したハンバーガーを自分の口の中へ運んでいった。

 八神はずっと考えていた。この辺境の地にA級ハンターを送り込んで一体何をするつもりなのか? 彼らの様な爆弾まがいな人材を送り込まなければならないような化物がこの日本にいるというのだろうか?

 とりあえずは日本支部の上司の話を聞かなければならない。場合によっては力ずくでもだ。

 難しい顔をしていると、チーンという音が鳴りエレベーターがようやく止まる。

「こちらです。ついてきてください」

 八神は先行して二人を教団の会議室へと連れていく。教団の中ですれ違う同僚達はみな珍しい外人に好奇の目を向けていた。

「うーん。どうやら私は日本人にはやけにモテるみたいだな! みな足を止めて私の方を見てくるぞ!」

 さぞ嬉しそうにスミス神父は言う。けれども、機嫌の悪い八神はお世辞を言う事なく直球で返答した。

「単に珍しいだけですよ。外国人が」

「何!」

「えっ!」

 スミス神父とシスターテレサが同時に驚きの声を上げた。そして二人は同時に顔をうつむけ落ち込んだ。

 (シスターも思ってたのかよ! わからないなこの人達は)

 日本支部のハンターとして八神が憧れたA級ハンターはとってもお茶目で、とっても壊れていた。



「つきました」

 大きな扉のある部屋に着くと八神はそのまま壁をノックし返事も待たずに中へ入った。

 中は大きな机が置いてあり、上座に一人の老人が座っていた。

 年齢は軽く還暦は超えており頭には毛の一本も生えてはなかったが、その目付きは年齢に比べても十分に覇気があり日本支部の最高責任者としての風格を漂わせていた。

「わざわざイギリスからこんな極東の島国までようこそお越しくださいました」

 男は座りながら神父とシスターに語りかける。

「いやいや、日本に来るのは楽しみでね。この国に関しては何の不満もないさ」

「私も別に不満はありません」

 神父とシスターが返答すると嬉しそうに老人は微笑み、口を軽やかに走らせ始めた。

「いやいや日本を気に入っていただけてありがとうございます。日本の文化は他の国から見れば不思議にあふれています。いろいろと体験してもらいたいものです。かく言う私も昔貴殿の国に仕事で言った時には鼻をすすっているだけで怒られて、「さっさとハンカチでかめ」なんて言われて「ハンカチは手を拭くためのものだろ」って言い返したら信じられないといった表情で「馬鹿をいうな、ハンカチは鼻をかむもので手を拭くものじゃない。あんな鼻水がついた布で拭けるか!」と言われて国が違えば些細なことでも常識が全然ことなるのだなとしみじみ感じたものです。もしかするとあなた達にもいろいろと不快な思いをさせてしまうかもしれないが、そこは一つご容赦を頂きたいと思う。ちなみに、会議終了後に日本料理を食べに行こうと思っているんですが、どうでしょうか? ちなみに日本では中華や洋食なども本国などとは大分味付けが異なっています。だから、日本での中華や洋食を食べるのもなかなか面白いと思いますよ。そしてですね……」

 長い! 得てして老人の話は長引くものではあるがどうでもいい話を長引かせるのは辛いものである。そんな空気に耐えかねたのか、話を遮るように神父が咳払いをした。

「ゴホン! えー、日本食を食べに行くという件に関しては是非ともお願いします」

「まだ食べるんですか!」

 神父がそろそろ会議の本題について催促してくれると思っていたのに、出てきた言葉が食事の同意だったことから、思わず八神が突っ込んだ。

 というより山のようなジャンクフードを平らげた後でよく食事の話ができるものである。

「あー、私も御一緒したいです」

 シスターも手を上げて同意した。その言葉で八神は今日だけで何度目かわからない心労を感じた。

 コイツらの感覚にはついていけない。

 

「有栖川司教、スミス神父とシスターテレサに自己紹介と今回の任務の説明を始めてください」

 ボヤボヤしていたらいつまでも話が始まりそうに無かったので、八神が強引に話を前に進めさせる。

「そうだな、そういえばまだ自己紹介すらしておらんかったな。私が日本支部の最高責任者である有栖川龍元やがみりゅうげんだ以後よろしく」

 そう言って手を差し出すと二人はそれぞれ握手しながら自らの自己紹介を行った。

 自己紹介ののち、ようやく有栖川司教が今回の主題について話し始める。

「今回あなた方業界の有名人に来てもらったのは、ある情報が手に入ったからだ。君たちは『血の円卓同盟』は知っているかね?」

「私は知らん」

 スミス神父は頭を横に振って否定し、シスターは頭を立てに振って私は知っているとアピールしていた。

「君はどうだね、八神くん」

 有栖川司教が八神に話を振り、八神が答える。

「その昔、教団の力がヨーロッパ中に広がり化物狩りに躍起になっていた時に生まれた吸血鬼達の同盟ですよね」

 八神の答えに有栖川司教は大きく頷いた。

「そう。教団の力に危機感を覚えた吸血鬼達の同盟だった。プライドの高い吸血鬼達をまとめるために上下関係を一切排除し、一人のモンスターをシンボルとしてまつった。そのモンスターを見たものは一瞬で自らの非力を悟り膝まずきこうべをたれたという」

「ちょっと待ってください。僕は血の円卓同盟のシンボルの話は知りませんよ!」

 話の途中に八神が割り込む。血の円卓同盟自体はわりと知られている話である。吸血鬼達の団結のせいで教団との全面戦争へと発展し、ヨーロッパの地図から幾つかの村が消え、政府が国民よりもモンスターの殲滅を優先していた教団自体をモンスター同様恐れ始め、政府とのつながりが多少ギクシャクし始める。そののち、教団内部からも人命第一という考え方の幹部が増え、次第に教団は力を衰え始めたというものである。

 けれども、血の円卓同盟に吸血鬼に祀られた存在がいるなんて聞いたことが無い。

「いるのだよ、八神くん。夜の支配者とまで言われた吸血鬼すら崇める存在が……。名をレイル=カーミラという。彼女の存在は教団の中でも極秘とされその存在自体迷信のようなものだ。けれど、教団の保管している書物には彼女の存在はハッキリと認められている」

「ハッ! それはすごいな。化物たちが崇める存在か。それ是非とも殺してみたい」

 有栖川の話を聞いていた神父がニヤリと顔を歪めて笑みを浮かべる。先ほどのフザけた中年の顔はどこにも無く、目に狂気を浮かべていた。

「それこそが、今回の任務だよ。スミス神父」

「有栖川司教、何を言ってるんです? 例えば、レイル=カーミラという存在がいるのはいいとして、そいつが何故日本などにいるのです」

 思わず有栖川の証言にわりこむ八神だが彼の言葉は正論である。わざわざヨーロッパの吸血鬼達の王が日本などに来る理由が無い。

「それはワカラン。けれども、つい先日国内で大きな力が観測され様子を見た同志達の証言をまとめて教団本部に報告したところレイル=カーミラと一致する可能性が極めて高いと判断された。そのため、優秀なハンターである、スミス神父とシスターテレサが教団本部から派遣されてきたわけだ。そして、教団からの任務を今伝える。『レイル=カーミラを殺せ』ただそれだけだ。方法などに関しては君たちのやり方に任せるらしい。あと、我が日本支部のハンターである八神昌真を君たちの案内人としようと思うがどうだろうか?」

「ハハハ、了解した。無事殺すことを約束しよう。あと、八神くんの協力については喜んで受けるよ」

 笑いながら教団からの正式な命令を受けた神父は有栖川司教に向かって話を続ける。

「さし当たっては、今夜から早速動き始めるとします。とりあえず、荷物を置きたいので部屋の方へ案内して頂きたいのだが?」

 神父は八神に向かって微笑みながら言う。暗に八神に案内しろと言っているのだ。

「八神くん、すぐさま来客用の部屋へ案内して差し上げろ。部屋の準備自体は終了している。ではスミス神父、お食事の時間になれば八神くんを向かわせますのでそれまでおくつろぎ下さい」

「ではスミス神父シスターテレサ、自分が案内するのでついてきてください。あと有栖川司教、後で話があるのでこの部屋でお待ち頂けないでしょうか?」

「ああ、構わんよ」

 その一言を聞き二人を引き連れ部屋から出ていった。



「なかなかに面白い話だったな」

 神父はとても聖職者とは思えない発言を平気で八神に投げかける。

「未熟者である僕には、全てが恐怖としか思えませんよ。なんでそんなすごい化物が日本にきているのか? 目的は? 勝算は? 考え始めるとキリがありません」

「まあ、若い内は悩むといい。そして、人生が終わるまでに一つでいいから揺るぎない信念を持てばいいさ。信念は迷いを消す。それがフラフラしながら生きてきたナイスミドルである私のアドバイスだ」

 一瞬だけだが、悲しそうな目になり八神の肩を叩きながら話しかける。狂ったように化物を殺す時とは百八十度違う、優しさが垣間見える悲しい目だった。

「老害のセリフほどマトモに受け取って損なものはありませんよ。八神くん」

 神父が真面目に喋ると、今度はシスターが茶化す。

「辛辣なセリフだなシスター、君は若いが信念をすでに持っているのかね?」

「いーえ、今日を生きることに必死なので信念なんて二の次です」

「そうか、まあいいさ君も若いしな」

 答えあるのかどうか分からない問答に笑いながら、茶化しながら二人は歩く。八神は極力関わらないように部屋まで二人を案内した。

「こちらの右側の部屋がスミス神父、左側がシスターの部屋です。何か必要な者があれば部屋の中にある電話を利用してください。あと、これが私の携帯の番号です」

 紙に書いた電話番号を二人に渡す。

 仕事を終えた八神はすぐさま踵を返し、司教との話に向かおうとする。その後姿に神父が声をかける。

「もしだ。もし君が何か迷っているのなら、悩んでいるのなら、初心を思い出すことだ。君が銃と剣を手にした最初の理由をな。答えなんてものは、悩み歩いて一周してスタート地点に再び立った時に見つかるようなんものさ」

 神父の言葉に八神は振り向かない。けれども、その言葉は胸に刻んだ。

「ありがとうございますスミス神父。では急いでいるので失礼します」

 そうして、八神はさっきまでいた会議室へと歩き始めた。


「有栖川司教、八神です」

「入りたまえ」

 声を確認すると共に室内へ入る。有栖川司教は先程の会話の時とは違い至って真面目な顔で八神の方を向いていた。

「まずは君の感想を聞こうか。彼らはどうだった? ここまで来るまでにひと暴れしてきたらしいじゃないか」

 八神はそのことについて報告しようと思っていたのに、目の前の老人はすでにその出来事を知っていた。全く、油断ならない老人である。

「二人とも実力に関しては、文句のつけようがありません。ただ……」

「ただ――どうした?」

「彼ら、特に神父は一般人に危害を及ぼす可能性があります。というより彼は狂っています」

「なんだそんなことか」

 老人は肩透かしとでもいいたげに椅子に全体重を預けふんぞり返る。

「あの男が危険人物なのは知っておるよ。教団としても扱いに困るレベルらしい。だが、今回の任務に関して言えば適任であるさ。化物を殺すことに関しては右に出る者はおらんからな」

 八神は納得はいかないが、無理矢理次の話題へと移行した。

「次にですが、司教はレイル=カーミラを殺した後のことについては何か考えられておるのでしょうか?」

「と言うと?」

 八神の問いに不気味な笑みで有栖川司教が答えを催促する。

「吸血鬼が崇める存在をこの日本で殺してしまえば、日本を中心にして『血の円卓同盟』との戦争になるのでは無いのでしょうか? 血の円卓同盟自体かなり古いものですが、消滅しているとは限りません。この日本で吸血鬼が暴れまわる戦争になれば大量の犠牲者が出ますよ!」

 八神の主張を聞いた後有栖川司教はゆっくりと立ち上がる。

「では君は、レイル=カーミラが何のためにこの日本に来ているのか説明できるのか? カノ生きる伝説がただの観光のためにこんな極東に来たと考えるのか? もし、かつての戦争の続きをこのアジアで計画していたらどうする? 物事には最悪に対して万全の体制で望まねばならない」

「しかし、それならば何故いきなりレイル=カーミラの抹殺という判断に至ったのですか!? 様子を見でもよかったのでは?」

「彼女が観測されることは教団の資料から見ても多くは無い。のんきなことは言わず、やれる時にやらねばならぬのだよ」

 司教の主張はある程度理解はできる。けれども、素直に同意することができない。目の前の老人には何やら裏がありそうな、現段階では勘でしかないがそんな気がした。

「分かりました。今回の任務全力でやらせてもらいます」

「ウム、気をつけることだな」

 とりあえず、無理やり不満を心のなかに押し込んで会議室を出た。

「自分のやることに納得は出来た?」

 会議室を出ると廊下にシスターが立っていた。

「盗み聞きでもしてたんですか?」

「別に? それにこの部屋防音でしょ。声は聞こえてこなかったわ」

「なら何で、納得なんてセリフが出てくるんですか? それとも俺がそんなに迷っているように見えました?」

「ええ、それはもう。なんてったってあの神父が心配するくらいです。気づかない方が馬鹿ですね」

 先ほどまでと打って変わってえらくおしゃべりである。一体どうしたわけだ。

「それで? 何のようですかシスター」

「とりあえずこの場所の案内をお願いするわ。 後、あの司教には気をつけた方がいいわ」

 どうやら八神同様、あの司教には裏があるとシスターも感じているようだった。

「あなたのパートナーも気をつけないと怖いんですけどね」

「彼はいい意味でも悪い意味でも純粋よ。だから私は彼の隣で戦える」

 そういうものなのであろうか? 八神にとっては狂ったようにしか見えないのだが……そんな人間に命を預けられると目の前の少女は言い切った。

「まあそんなことより、案内してくれませんか? どうせ食事までまだ時間あるのでしょ」

 片手に例のごとく巨大な本を抱え、もう片方の手で八神は引っ張られた。初めてあった時はおとなしい人で、あまり人と関わらないタイプだと思ったけれど案外積極的に人と関わり振り回すタイプらしい。



 今夜からはじまる任務に不安を抱きながら、マイペースな人物に振り回される八神だった。


キャラが安定しません。


なかなかに大変です。


頑張ってみます。

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