表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

坂の上の蜘蛛

 学校へと向かうための長い坂を犬神はひたすら走り続けた。今宵は満月ではなく、自らは白狼へと変化はできないことを悔やみながらも犬神は幼馴染がいる学校を目指して走り続けた。

 忍び込んだ学校は校庭からみるとどの部屋も電気がついてなかった、ただ自習室を除いて。

「あそこか」

 犬神は急いで、自習室へと向かって行く。全てが杞憂に済む事を祈りながら。自分が急いで自習室に入れば、綾芽が自分の事を馬鹿にしながら笑ってくれる事を信じながら。

 しかし、その想いとは裏腹に胸騒ぎの方が大きくなっていく、満月の夜、初めて、レイル=カーミラに出会った時の感覚。人間とは全く違う存在感を強く感じた。

「頼む」

 初めて本気で神に祈りながら犬神は、自習室の扉を開ける。一瞬、暗闇から明るいところに出たため目がくらんだ。そして目が慣れてきたときに瞳に映った世界は最悪の光景だった。

 生徒が七十人ほど自習できる割と大きめな教室に、真っ白な糸が所狭しと張りつめていた。そして、普通の蜘蛛の糸とは明らかにサイズ違いの蜘蛛の巣に生徒が貼り付けられている。どの生徒も気絶しているのか、目をつむってうんともすんとも言わない。

 犬神は素早く辺りを見渡し綾芽の姿を見つけようとする。だがすぐに見つからない。

「綾芽どこだ!」

 声をだしながら自習室を走り、一人一人蜘蛛の巣に罹った人間を確認していく。

「違う。違う。違う」

 見慣れた幼馴染の顔はなかなか見つけられず、犬神は焦りながら教室を回って行く。いっつも呼んでもないのに声を掛けてくるのにどうしてこっちが探してる時はすぐに出てこないんだよ、と思いながら、焦りはだんだん恐れへと変わり始めていた。嫌でも最悪の結果が頭に浮かび始めた時。

「いた!」

 教室の隅でようやく綾芽を見つける。犬神は大きく安堵の息を吐きながら、少し安心した表情で、蜘蛛の糸から綾芽を外そうとする。だが蜘蛛の糸は予想以上の粘着力で、綾芽の体から全く離れようとしない。

「なんだよこれ」

 それどころか糸から外そうと糸に触った犬神の手が糸から離れなくなり始めていた。犬神はいったん綾芽を糸から外すことをあきらめ手を離す。

「どうすりゃいいんだ」

 頭をひねりながら唸っていると。

「うーん」

 綾芽の口からかすかな声が聞こえ、体が動いた。わずかに瞼が上がりかける。

「綾芽?」

綾芽が目を覚ましそうになり、犬神は彼女を起こそうと体を揺すろうとした。だが、その瞬間後ろから殺気を感じ、急いで地面を転がりその場から離れた。

 ドンと今まで犬神のいた場所から大きな音が響き、辺りに粉塵が舞う。

「綾芽!」

 犬神はあわてて叫ぶ、とっさに避けたがあの場所には綾芽が動けぬまま捕まっている。

「心配しなくていいわ。彼女は餌だから、喰べる寸前までは命は大丈夫。私新鮮なうちに喰べるのが好きだから」

 粉塵がはれると、さっきまで犬神のいた場所には、犬神の学校の冬用の真っ黒な制服に身をつつんだ、長い黒髪の女が立っていた。その後ろで、綾芽が先ほどと変わらずに眠っている。犬神がさっと綾芽の全身を見渡すが、どうやら怪我をしている様子はない。犬神は安心と共に目の前の黒髪の女に視線を戻す。

 改めて対峙した瞬間、ハッキリと確信する。こいつは人間じゃない、化物だ。それと同時に、公園で感じた人肉のニオイが嫌というほど鼻についた。

 ただその女はそのニオイが不似合いで妖艶と言うのが正しいほど美しかった。大女優の貫禄をまとい、全身から死の香りが色濃くただよう、うっすらと顔に浮かべる妖艶な笑みは、その場から直ちに逃げ出したくなるほどの威圧感を感じさせる。

 どうやら、この教室にいる連中はこの女の出す死の恐怖から逃れるために、自ら意識を絶ったのだと思われた。おそらく10秒も耐えられなかったのだと容易にイメージできるほどこの女は死を連想させすぎる。

「あなたは、どうやら教団のハンターじゃないわね、というかそもそも人間じゃないわね」

 女は犬神に向けて話かける。一歩一歩犬神の元へと近づきながら。

「ピンポン。正解なら次の問いです、俺は何の種族でしょう?」

 犬神はふざけた調子で、女に向かって問いかけ、女が一歩一歩近ずくのに合わせて、教室の出口に向かって後ずさりしていく。

「なにかしら、この国にいっぱいいるのは鬼だけど、どうもそんな感じじゃないわね。感じだけで言えば吸血鬼に一番近いかしらね」

「残念。俺は吸血鬼ではありません」

 犬神はこの教室で戦う事だけは避けたいと考えていた。この教室には生徒が他にもたくさんとらわれており、巻き添えにしてしまう可能性が高かった。そのため、出口まで逃げる事を考え、後ずさりしていく。くだらない事を喋っているのは、自らの恐怖をを押さえつけるためだった。くだらないことでいいから考えて喋らないと全力で学校の外へ逃げ出したい衝動に駆られて仕方なかった。だが、逃げるわけにはいかない、どうにかしてみんなを助けなければならなかった。

「じゃあ何かしら。難しいわね。私の同族でもなさそうだし」

 女はうっすらと浮かべた笑みを崩さずにどんどんこちらへ近づいてくる。犬神は後ずさりしながら、彼女をよく観察する。彼女の両手は、手のひらから指が伸びる代わりに鋭い爪のようなものが生えていた。どうやらそれ以外は人間と比べて大差はなかった。

「ちなみに、1つ聞きたいんだけど、あんたは蜘蛛なのかな」

「そうよ。今では、ほとんど同族はいなくなったけどね」

 まあ予想どうりだと犬神は考えながら、自らが立っている場所を再確認する。今立っている場所なら、背を向けて教室の出口に逃げ出しても間に合いそうである。後はタイミングである。できれば、相手が隙を見せた瞬間がいい。でなければ今のままのように、後ずさりでドアに近づいて行くほうがよい。そう考えながら、相手を注意深く観察しながら後ずさりをしていく。

「あのわからないんで、ヒントもらってもいいかしら」

 女は右手を挙げて、犬神に問いかける。犬神は少し混乱しながら答える。

「あんまりうまいヒントがぱっと浮かばないんだけど」

「大丈夫。私が自力でヒントを手に入れるから」

「えっ」

 犬神は女の答えに驚ききょとんとすると、女は続けて言う。

「少しだけ協力してね。少し痛いけど」

 そう言って女は犬神に向かって飛び込んでくる。そのスピードは速く、並みの人間では反応すらできないであろう。だが、犬神は今は人狼、瞳に女が飛びかかるのを映す、そのあとすぐさま猛スピードで教室から出ようとする。しかし、犬神は前に振り向き、一歩を踏み出した時点でその場に立ち尽くした。顔には絶望が浮かんだ。

 教室の出口のドアが、あの厄介な糸できっちりと封鎖されていたのだ。すぐさま、犬神は次の脱出場所を探そうとするがそれは遅すぎた。

「私そういう絶望に満ちた顔が好きなの、そして、それを苦痛に満ちた表情にするのも」

 飛び込んできた女はわざわざ、犬神の正面に回り込み、そして犬神の顔をまじまじと見ながら、右手の爪を深々と犬神の腹の中へ突き刺す。その上突き刺さった爪をぐりぐりと腹の中でかき回す。

「ぐぇっ、……がはっ……」

 犬神には当然のことながら激痛が走る。口から血を吐きながら倒れそうになる、が女がそれを許さない、突き刺した右手で犬神をしっかりと立たせて犬神の苦痛に満ちた顔をまじまじと見つめる。

 犬神の目に映った目の前女性は美しい笑顔を振りまいていた。

「残念ね。もっと大きな声で哭いてくれると思ったのに。それとも気持ち良すぎてすぐにイッちゃった?」

 女は下品な笑みで犬神を見つめる。犬神は虚ろな瞳を女に向けながら、もう一度口から、今度は派手に血を吐いた。吐かれた血は女の手にかかるが、女は気にせず、もう一度爪で犬神の腹の中を抉りながらゆっくりと引き抜く。犬神は、またしても激痛が走るが、今度は声も出なかった。そして、支えを失った犬神は地面へとうつ伏せで倒れこむ。女は血と臓物のこびりついた手を口元に持っていき、子供が手についたクリームを舐めるように、おいしそうに味わっている。

「うーん。すごくおいしいわ。最高級レベルよ」

 そういってとりあえず手についている血と臓物を舐めきると、少女のような満面の笑みを作る。さらに、犬神を味わうために犬神を仰向けにひっくり返し、ぽっかりと空いた血の池になっている穴へもう一度手を突っ込もうとする。

 犬神もまだ意識が残ってはいたが、もう一度あの激痛が来ると思った瞬間意識を失った。





 だが、女は犬神に向けて伸ばしていた手を止めた。そして、辺りを見渡す。

 瞬間、校舎を覆うほどの大規模な結界が張られ始めた。十中八九教団の人間だと思われる。

 もともと、先進国で大喰らいなんてことをするというのは、教団に退治してくださいというのと同じことである。いくら日本の教団の力が弱いといっても、教団としての役目は十分に果たしていた。

 女もその事は十分に理解はしていた。けれども、ある変人に捉えられ死の直前まで奴の実験に利用された体を癒すためには、人を喰らうしか無かった。それも少量では足りない。先日ようやく、美味くもない中年のホームレスどもを十数人喰らい、ようやく力が戻り始めた。

 しかし、まだ足りなかった。けれどもようやく、本日五十数名の若い血肉と飛びっきりのメインディッシュが手に入った。

 もはや、ハンターであろうと誰であろうとコソコソ逃げまわる気は無かった。

「いいわ。誰が敵でも相手してあげましょう。それに私は蜘蛛よ。そしてここは蜘蛛の巣。どちらがハンターか教えてあげるわ」

 そう言って食べ掛けていた、犬神に手から出した蜘蛛の糸をかぶせていく。またたく間に犬神の姿は見えなくなる。犬神自体はまだ息があったが、蜘蛛の糸をかけられ糸越しにわずかにピクピクと動くのが確認できるだけであった。

「ホントは、温かいうちに食べたいんだけどゴメンナサイね。できるだけ保温しておくから」

 そういって糸をかけ終わると、今度は真剣な面持ちになり、女は辺りの気配を探していく。

 恐らく結界の中にいるハンターの数はそれほど多くはなさそうだった。

 この程度の数で日本のハンターなら何とかなるかも知れないと女が思った瞬間、けたたましいエンジン音が響いた。

 爆音が辺りにとどろき、それがこちらにまっすぐに近づいて来た。

 バリーン!

 自習室の窓から、一人のフルフェイスヘルメットをかぶってバイクに乗った男が飛び込んでくる。そのライダーは窓ガラスを木端微塵にしながら飛びこむとバイクから飛び降りる。バイクは派手に横倒しになりながら教室の机とイスをはじき飛ばしながら転がって行く。だがそんなことはお構いなしに、着地したライダーは腰にぶら下げている銃を引き抜いて、この空間で唯一動いている女に向かってためらうことなく、銃弾を発射していく。銃弾は三発は女に直撃し残りの三発は女が右手の爪ではじいた。男は自らの手に持つ大口径のリボルバーを全て撃ち尽くすと、すぐさま冷静にリロードを始める。

「ぐぎゃぁぁ」

 女は焼けるような痛みを感じ、すぐさま近くの机に自らの体を隠した。自分の爪で銃弾が貫通していない左肩に突っ込み銃弾を取り除く。

 力を取り戻しかけた体に再び傷をつけたこと、あまりに安易に教団のハンターの侵入を許してしまったことに対し彼女は自分自身に腹を立てた。

「ぐぅぅ」

 女の痛みは激しく鋭く続く。もともとただの人間の武器など、驚異的な身体能力と回復力を持つ人外にとってあまり怖くは無かった。だが、教団のハンターたちはそれらの武器に術式や銀などの化物を殺すことに特化した武器を利用する。これにより様々な効果を持った人外専用の武器が生まれた。そのため、人外にとって人間でありながら教団は厄介だと思われているのだ。

「全くいつでも教団の人間は、女の扱いをわかってないわ、会ってすぐに名乗りもせずにいきなりぶち込んでくるなんて、論外よ」

 女は痛みを紛らわせるかのように、侵入してきた教団の男に言葉をかける。男は女の言葉を聞くと被っていたヘルメットを脱いで、女が隠れている机の辺りをにらんで

「これは、失礼。僕は八神昌真です。短い間だけどよろしく」

そういって、銃口を机に向ける。

「私も一応名乗っておくわ。ナクアよ。この国では、跡烙那久亜あとらくなくあって名乗ってるわ」

 女が自らの名乗りを終えると、続いて八神がまた喋り始める。

「悪いけど人間以外に知り合いを作るつもりはないんだ」

 そういって、また銃を撃ち始める。的確にナクアいる場所を撃ちぬいていく。ナクアは体を小さくしながら銃弾をやり過ごす。多少かすって行く銃弾は気にせずに。鳴り響く銃声を数えていく。ナクアは大きく息を吐き体を落ち着かせ、六発目の銃声が響いた瞬間、勢いよく八神と名乗ったハンター目がけ飛んでいく。

 蜘蛛は一般的に巣を張ってそこに獲物がかかるのを待つというイメージが強い。だが、巣を作らずに獲物にとびかかる事で狩りをする蜘蛛もいる。その時の蜘蛛は高速といっていいほどのスピードで飛びかかる。今のナクアもそんな蜘蛛と同じように高速でハンターという、自らを狩るものに対して飛びかかった。そのスピードは確かに速かった。目にもとまらぬスピードと例えるのが正しく。凡人なら、ただ黙って立ち尽くすしかないほど。

 だが、八神は冷静に自らの腰にぶら下げている銀でできた剣を逆手で素早く引き抜き、自らの心臓を狙ったであろうナクアの右手の爪を止める。

「なっ」

 銃撃の合間を縫う完璧なタイミングで襲いかかったとナクアは考えていた。だが、八神はあっさりとナクアの爪の一撃を止めた。ナクアはこれまで、接近戦が得意な教団の人間には出会ったことがなかった。そのため、爪をあっさりと止められた事に驚き次の対応が遅れる。八神はそんな隙を見逃さず、すぐさま銀刀を逆手で片手のまま華麗に操って、受け止めていた右手を切り落とす。そしてそのまま、ナクアの左手の一撃をバックステップでかわし相手と距離をとる。

 次に銃をしまって、刀を順手で持ち直し、刀についた血を払う。

「がぁぁぁ……」

 ナクアは切り落とされた手を抑え、呻き声をあげながら相手を見る。さっきまでのお喋りをしていた余裕は全くなかった。目は血走り、苦しそうに肩で息をする。

「決めたわ。あなたは、できるだけ生きたまま喰ってあげる。私が今味わってる痛み以上の苦しみを与えてあげるわ」

「もう喋らなくていい。そろそろ楽にしてあげるから」

 そういって、八神は慈悲深そうな顔をすると、剣を構える。ナクアはその姿を確認しながら自らの体の状態を確認する。傷の治りが遅い、銀の弾丸か術式の刻まれた銃弾だったらしい。右手からは強烈な痛みとおびただしい量の血が滝のように流れていた。それよりも考えなければならないのは、現状の打破である。しかし、先ほどの剣さばきを見る限り、普通に戦っても勝てないであろう。そうなれば、能力を使うしかない。ただ、今のような自身が弱り切った状態で能力を使うことは寿命を縮めるようなものである。それになによりきちんと発動するかどうかも自信は無かった。だが、勝つための方法が他にナクアには思いつかなかった。ナクアは覚悟を決め、八神に対峙する。 左手をゆっくりと相手に向ける。八神は相手の不審な行動に眉をひそめながらもう一度しっかりと刀を持ち直す。

「私に身を任せなさい。初めは痛いかもしれないけどすぐによくしてあげるから」

 そう言った瞬間左手から糸が放たれる。弾丸にも等しい速度でまっすぐに八神目がけて飛んでくる。だが、八神はいたって冷静なままであった。 

 飛んでくる糸を刀ですっぱりと切り落とす。その程度の攻撃では八神はビビりもしなかった。だが、全く動じてなかったのはナクアも同じだった。そして、ほんの少し、表情を緩ませると、

「『爆糸』」

 と叫ぶ、すると八神に切られた糸が一瞬で爆発する。周りにあった机やイスは吹き飛び窓ガラスを派手な音をたてて割れていった。八神は全く意図していない攻撃に完全に不意をつかれ、ほぼ直撃を受ける。だが、傷はそれほどは大きくない。ただ、視界は反転し体は動いてくれなかった。爆風によって、生徒がとらわれている蜘蛛の糸に頭が地面、足が天井に向いて絡まってしまったためである。何とかして足掻いてみるが、糸を揺らすだけで剥がれない。体全体が綺麗に糸に張り付いてしまっているため、自力での脱出は困難だった。

「うまく能力が発動してくれてよかった。どうやら、あなたが来る前に食べてた人外の肉が予想以上によかったみたいだわ」

 ナクアは、蜘蛛の糸に囚われた八神を見下しながら近づいてくる。そして、少しも動けないようにさらに糸をかぶせる。それが終わると切り落とされた右手を拾い、切断箇所に合わせると自らの糸でグルグル巻きにする。今すぐには無理だが、ナクアの再生力ならばそう遠くない内に動くようになるはずである。ただ、教団の人間の武器で切られているため、長引く可能性はあったが。後自らを貫いている銃創にも、自らの糸をかぶせて強引に血止めした。それが終わると、動けなくなった八神を見つめながら喋りかける。

「そうね、あなたは最後に食べてあげるわ。目の前で人間を食べるところ見せてあげるから、ゆっくりと自分の番を想像してね」

「うるさい。僕はは教団に入った時から死ぬ覚悟はできてる。恐怖を煽っても、望むような反応はしてやらないよ」

 そう言って八神は自らの運命を受け入れながら、静かに瞳を閉じた。ナクアは、もう一度辺りの気配を探り始める。何人かのハンターがこの教室に近づいてきているのを感じたが手を負いの今連続して戦うのは下策だと感じ、教室中何処からも入れないように糸を撒き散らし繭を作り始めた。

 強固で粘り強い繭を作り上げれば多少は時間が稼げる。その間に自身の体力の回復を図ろうとした。

 ひと通り作業が終わり、緊急の体力回復として犬神のところへ向かう。メインディッシュに取っておくつもりだったが、少しでも体力を回復させるため精のつく肉から喰べることにした。

 けれど、犬神を閉じた繭に近づいた瞬間ナクアは驚く。

「驚いた。まだ生きてるの!」

 それは非常に弱々しい気配ではあったが、死にかけの気配というよりは息を吹き返す時の気配に似ている。だが、ナクアは一向に慌てない、犬神には糸を何重にも重ねてある。あの糸は、刃物で切るならまだしも、引きちぎろうとすることはほぼ無意味である。それほどまでに糸の強度には自信があった。

「よかったわ。かえって好都合、今度こそおいしく頂いてあげるわ」

 ナクアは獲物は温かく新鮮なうちに喰べてしまうのが好みである。そのため、犬神が生きている状態にただ感謝しており、先刻喰らった血肉の味を思い出しながら近づいて行った。腹に穴を空けられて生きている事については、吸血鬼か何かの親戚、例えばリビングデッドか何かの種族だと考える。ただ、過去に喰べた事のある吸血鬼と比べると味は大分違ったが。

 真っ赤に染まった繭に近づきとりあえずナクアは完全に止めを刺すために糸の塊に飛び込み左手の爪を糸の中に突っ込む。だが、彼女の爪が犬神のいる繭を破ろうとした途端、教室内に突風が吹き荒れた。

 彼女の目の前の繭が無数のナイフで切り裂いたように切れ込みが入って行き、手が繭の中から伸びナクアの首を掴む。さらに繭は切り刻まれていき、あたりに糸が舞っていく。そしてゆっくりと中にいる男がナクアを捕まえたまま、繭から体を起こし立ち上がる。捕まえられたナクアは一瞬目の前の男が誰だかわからなくなった。服が血に染まって真っ赤になっているから、目つきがさっきまでと違っているからわからなくなったのではない。さっき仕留めた時には真っ黒だった髪の毛が立派な白髪になっていた、それも全てである。さらに、自らの血で白髪が雑に赤黒く染まっていた。

「さぁヒントタイムは、終了だ。大ヒントで俺の体まで喰わせてやったんだ。見事正解してくれよ」

わりと頑張って書いて見ました。


あと、僕の中での終わりがようやく見えてきたのでもう少し頑張ります。


あとちょっと、もうちょっと……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ