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宴の痕(あと)

まだ、完成してない作品ですけど、

何となく頑張って行こうと思います。


汚い駄文ですが、よろしくお願いします。



 夜空を見上げる、明日にも満月になろうという月は丸々と輝き、星は空を所狭しと輝いている。そんな夜に男と女が肩を並べて歩いている。女は月明かりでもしっかりと輝いて見えるほどの美しい髪を持ち、きりっとした目に、小さな口、整った鼻立ちといった顔のパーツが計算されたように並べ、十人が十人ほど美人と答える美女だった。男の方は、ダボダボの制服をだらしなく着用し、ボサボサの髪をしており、男女共に地元の進学校の制服を着ていた。きっと、普段ならその二人を第三者が見ればあまり釣り合っていない高校生カップルに見えるだろう、だが今の状態を見ればきっと、怪訝な顔をして通報されるであろう。

 和歌や俳句でも作られそうな美しい夜に、きっと物語のヒロインであろう美女は電信柱に向かって胃の中身をリバースしていた。

「うえぇぇぇっ。気持ちわる」

 彼女は美しい顔をぐしゃぐしゃに崩して、真っ青な顔をしていた。男はあきれた顔をしながら、彼女の背中をさすっていた。

「飲み過ぎなんだよ。お酒飲んだ事も無いのに、あんなハイペースで飲んでたらつぶれるに決まってるだろ」

「だって、酎ハイ飲んでたら気分がよくなってきて、それにみんながどんどんお酒をすすめてくるから」

 男はため息をつきながら、彼女を見つめる。他の同級生が彼女に酒をすすめた理由が、彼女を酔わせて彼女の痴態が見たいからだと言ったら彼女はどんな反応をするだろう。きっと「そんな卑屈な事を考えるのは白夜くんだけだよ」といって彼らの肩を持つのだろうな。そんな事を考えながら、彼女が落ち着くのを待つ。

 全て吐き出して落ち着いてきた彼女の肩を再び持って、男と女は再び帰路につく。

「今日はありがとう、そんでごめんね」

 彼女の言葉を聞きながらどうしてこんな事になったのかを思い返す。

 男の名前は犬神白夜いぬがみしろや、高校三年生で帰宅部歴三年目だった。そして本日は文化祭だった。本来進学校の三年生が文化祭などに力を注ぐことなど無いのだが、今年は犬神の隣で酔っ払っている女、神宮綾芽じんぐう あやめが、学校生活最後に面白い思い出を作りたいと言い出し、学校中の男たちが一斉にやる気になり、かつてないほどの熱気に包まれた文化祭になった。なにがすごいかというと、わざわざたこ焼きとお好み焼きを作るためだけに、関西に修行に行った奴がいたり、ただの金魚すくいじゃ面白くないからと人面魚をわざわざ手に入れにいったり。文化祭の宣伝のために選挙に使う車を借りて、他県まで宣伝に行ったり、ステージの部のために人気アーティストを呼んだりと、男たちは学園のヒロインに対して全力で媚びを売った。まあ結局誰にもにはなびかなかったわけだが。

 そういった男たちの報われない行動のため、文化祭は大盛況のまま幕を閉じた。そして当然のごとくおこなわれる打ち上げ会に犬神と綾芽は参加したのだが、普段優等生で通している綾芽は飲み過ぎてふらふらになったのでほぼ強引に犬神が宴会から連れ出して送る事にして今に至っている。

「まあ、別にいいけど」

 犬神は綾芽に肩を貸しながら歩いて行く。彼は綾芽に対し肩を貸して歩いてはいるが、彼は決して綾芽の彼氏というわけではない。家が近所の幼馴染という奴である。まあ物語によくありがちなパターンである。

「だけど、白夜クンを強引に打ち上げに誘って良かった。一人じゃ帰れないところだったよ」

 酔っ払いながらこちらを向いて話かけてくる綾芽に向かい犬神は笑いながら答える。

「まあ俺がいなくても、紳士の皮をかぶった狼たちが、綾芽を送り届けてくれるさ」

「そしたら、明日から私のあだ名が『ゲロ女』になってるよ」

 その言葉を聞いて、犬神は、俺が綾芽を送って良かったと心から思った。なんせ学校の奴らの綾芽の崇め方は異常である。清く正しく美しいそれが学校のヒロインである綾芽へのイメージである。それを真っ向から否定する(たとえば目の前でゲロを吐く)なんて事をすればそいつに一生残るトラウマを与えかねない。やっぱりいつの時代のアイドルもうんこはしないものなのだ。そいつらの幻想を守ってやっただけでも犬神はいい仕事をしたと思った。

 犬神は綾芽とずっと一緒に育った。幼少の頃は二人で悪戯ばかりして、近所の悪ガキの筆頭だった。小学校の頃は二人して、暴れまわり、小六の時には、近所の中学生に対して大人が仲裁に入るほどの大喧嘩を起こした。中学生になり、綾芽は犬神と一緒に悪戯や喧嘩などを起こすことは無くなったが、相も変わらず女とは思えないほど活発で犬神と一緒に遊んでいた。犬神は最初のうちこそ喧嘩ばかりしていたが、半年もするとおとなしくなり、大きな事件も起こさなくなった。二人の関係が少しずつ変わり始めたのは高校に入ってからだった。今まで男のように活発に暴れまわっていた、少女は、弓道を始め急におとなしくなった、いやおとなしくなったというより女の子らしくなった。そして彼女の過去を知らない周りの人間たちは彼女を学園のアイドルとして持ち上げ、今に至っている。幸い彼女の過去を知っているのは、学校では犬神ただ一人だった。高校になって彼女とはあまり遊ばなくなり、また周りの目が怖くてあまり声をかけれなくなったため、彼女の素が出ることはめったに無くなり、犬神自身も彼女の事を周りに話さなかったため、彼女は今日までずっとヒロインでありアイドルだった。

「今日は楽しかった?」

 もうすぐ彼女の家が見えてくる所まで来ると、綾芽は犬神に対して尋ねた。

「そりゃ楽しかったよ、どうしてそんなこと聞くんだ?」

 犬神は若干ひねくれながら答える。どうせそんな事を聞くということは彼女の悪い癖が出ているに違いない。

「だって、今回の文化祭にしたって、今夜の打ち上げもかなり強引に参加さしたし」

 少し声が小さくなりながら犬神に答えていく、酔いのせいか、若干泣いているようでもある。

「バーカ。そりゃ面倒臭いと思っていたけど、楽しく無けりゃ最後まで付き合わないよ。それにみんな打ち上げの時みんな笑ってたろ、楽しいから笑うんだよ。楽しくなきゃみんな愚痴しかいわねーよ。綾芽はいろいろと気を回し過ぎなんだよ」

 彼女は頷き、下を向きながら、無理やり笑ったようなほほえみを浮かべている。

 彼女は弓道部の主将になってから、いろいろと気を回すことばかりしている、綾芽はもっと肩の力を抜いたほうがいいと犬神は考えていた。

「綾芽は楽しかったのか?」

「そりゃ、楽しかったよ」

 うつむいていた顔を急いで上げて犬神に答える。

「だったらみんなだいたい楽しいさ、それに今回の祭りの主役は綾芽だろ、主役がそんな顔されたら最後の最後で失敗って言われちゃうぜ」

 犬神の言葉を聞いた綾芽は笑顔を浮かべながら、「わかった」と頷いた。そして家の前に到着すると一人で立って、犬神に向かって話かける。

「今日は本当にありがとう。明日からもよろしくね」

「了解」

 そう言って答えると、彼女は家の中に入って行った。そして彼女の母親のどなり声が家の外まで響いてきた。彼女の母親の厳しさを知っている犬神はご愁傷様と思いながら、ほんの少ししか離れていない自分の家へと向かった。

 犬神は空を見上げる、まんまるとした月を見て、明日ぐらいが満月かなと考える。空には無数の星がある、しかし、彼の目に真っ先に飛び込むのは月である。月の美しさの前には、全てが引き立て役にしか見えなかった。一日一日変化していく様も犬神は大すきだった。常に変化し、変わらない物など無いということを暗に示しているように思えた。変化の中で新月となり月が姿を見せなくなったときも、月の偉大さ、月の美しさを再認識するすばらしいスパイスだと思えた。太陽が周りをかき消しながら目立っているとすれば、月は他の物を自らの引き立て役にしながら輝く、そういった所も月に惹かれる理由だった。

 月を見上げていると、一瞬影が月を横切った。

「えっ」

 驚きもう一度月周辺を見上げる。一瞬ではあったが人型の何かが月を横切ったように見えたのだ。だが見直してみても何も映っていない。いつもと変わらぬ月だった。

「そこのキミ少しいいかな」

 犬神は空を見上げながらさっきの影に不思議に思っていると不意に肩に手が置かれた。そして、彼の経験で日付が変わろうとするこんな時間に、学生服を着た人間に話かける人種を一人しか知らなかった。

 やばいおまわりさんだ。彼はそう思って体を固くした。なんせ現在彼は補導されるための条件が揃いまくっている。深夜徘徊、未成年飲酒、まあ普段ならおとなしくおまわりさんの言うことを聞くのだろうだけれども、今日はいやだった。犬神が捕まれば、学校に連絡が行き、クラス全員が怒られること必至である。最後の最後でそれは避けたい犬神は、肩に置かれた手を払って逃げようとした。だが、逃げようとしても足が前に動かなかった。

「えっ」

 犬神が驚いて声をあげ、後ろを振り返ると案の定そこには、警官が立っていた。再度逃げようとしたが体がピクリとも動かない。

「逃げようとしないで、おとなしくしてください」

 警官は犬神に向かって話かける。やさしくやさしく。犬神はどうやっても動かない体に恐怖を感じながら、警官に頷いた。犬神は逃げるのをあきらめたのではなく、逃げるタイミングをつかもうと考えていた。しかし、体が動かないため、どうしようも無くなっていた。

「あーあ、えーと、まずいくつか質問させてもらうよ」

 警官はポケットから手帳を抜き出し、ペンを持って彼に話掛ける。犬神はどうにか警官の方向に向き直る事はできたが、相変わらず足は動かない。生まれてからこんな事を一度も経験したことのない彼にとって、言い表しがたい恐怖が彼を包んでいた。

「キミは高校生かな」

 犬神は尋ねられてもまともに答える気が無かった。体が動くようになるまで時間を稼ぎたかったし、第一自分の学校の事を知られるのは良くない。幸い男子の制服は他の学校ともかなり似ているためうまくすればごまかせるとも思っていた。

「うーん、シャキシャキとこたえてくれないといけないな、お願いだから。私も面倒だからね」

 犬神は警官の面倒という言葉に反応した。これはうまくいけば誤魔化せる。そう思って犬神は口を開いた。

「はい、高校生です。近くの工業高校です」

 犬神は自分の通っている学校と全く別の場所を答えた。彼は勤務を面倒臭ってる相手なら詳しくは聞いてこないと思ったのだ。

「了解、高校生っと」

 しかし警官は、メモ帳に高校名を書き込んだ様子はなく、高校生という部分だけを手帳にチェックしたようだった。犬神がおかしいなと思った時、次の質問が飛んできた。

「キミ今日アルコール摂ったかい」

 犬神は高速で首を横に振って「飲んでません」と否定した。まあこのことについて否定をしない高校生はきっといないだろう。

「嘘はよくないな、僕は鼻が聞くからわかるよ、キミがお酒をのんだ帰りだって事ぐらい。本当は汗を舐めて嘘か本当か判断してもいいけど、キミがいやがるだろ」

 警官は犬神に向かってくだらない嘘をつくなと軽く睨んできた。犬神もさっきから続く金縛りと相まって警官の睨みが非常に恐ろしく感じられた。

「今さっきお酒を飲んでました」

 犬神は正直に答えた。ほぼ無意識に答えてしまった。恐怖がだんだん膨らみ始めている。

「OK、飲酒っと」

 メモ帳にまたチェックを入れている。そして犬神に向かって、からみつくような嫌な笑いを浮かべながら、口を開く。

「最後の質問だ、正直にそして正確に答えてね。今日二十四時間以上起きてる?」

 犬神はぽかんとした、警官が聞くような事では到底無かった。確かに犬神は昨日の夜から文化祭の準備のために徹夜で作業したため、二十四時間以上起きてはいた、だが警官がそんなことを知ってどうするのか? 最近の警官は市民の健康状態もチェックするのだろうか? 疑問が膨らみながら犬神は考えた。

「うーん、思い出したかな、これが最後の質問でこれを答えてもらえたら解放するからちゃんと答えてね」

 警官は笑いながらこちらの返答を待っている、犬神は自分を包んでいる空気に耐えられなくなって、解放してほしさに答えた。

「昨日からずっと徹夜で寝てません。もう帰っていいですか?」

 犬神が答えると警官は、笑い始めた。真夜中なのに人目も周りの迷惑も省みず、大声で、盛大に、狂気と狂喜を交えながら。

「あははっはははっははははっはは、グッド、エクセレント、マーベラス、最高だね、うん、最高のモルモットだ、やっぱり私は運がいい、やはり月の輝く夜には幸運が降って来るね。あははっはははびゃびゃやははぁひゃぁ」

 警官とは思えない狂った笑い声、というより人間かどうかも怪しい。目の前の狂った笑い声を繰り返すものに犬神は、恐怖が危機へと変わったのを感じ急いで、振り返って逃げだした。さっきまでピクリとも動かなかった足は、さっきの金縛りが嘘のように軽快に動き始める。自分が走れていることに、安堵しながらとりあえず警官から離れようと、犬神は行き先も何も考えずに走った。

「あーあ、逃げちゃった。いけないな、どうも集中力が切れると能力も切れちゃうな、もう少し練習しないと……」

 警官は彼を追いかけようとはしなかった。ただ、腰にぶら下げた拳銃を取り出して、ゆっくりと、必死に走る犬神の背中、いや、体の中にある心臓に狙いをつけていく。その拳銃は普通の警察官の持っているものとは違った。まず第一に大きい、犬神は気づかなかったが、日本の警察に許可されている銃と比べふた回りほどは大きかった。次に弾が特殊な形をしていた。カプセルのように二つの部品を組み合わせたような形状だった。そして、その銃が心臓という狙いと重なった時、銃声が響いた。

 空気を引き裂く轟音が響いたとき、犬神の体に銃弾を撃ち込まれた、犬神は自分に弾が当たった事より、銃声が響いた事に驚いた、そして、振り向くなと頭が命令しているのを無視して、警官の方へ、振り向く。警官は相変わらず気味の悪い笑顔を向けながらこちらに拳銃を向けていた。撃たれたのか!? そんな事を頭で考え始めた時ようやく痛みが体から伝わってきた。

「痛っっ!」

 小さく呻きながら自分の胸のあたりの痛みが体を支配し始める。すぐに犬神は痛みに耐え切れず倒れこんだ。その光景を確認した後、ゆっくりと警官がこちらに近づいてくる。犬神はなおも必死で逃げようと体を這わせながら移動しようとするが、大した距離も稼げなかった。

「うーん。どうやら無事に心臓に当たったみたいだね。銃弾も貫通してないし完璧だね」

 警官のセリフに絶望的な気分に犬神はなった。

「心臓!、俺は死ぬのかよ」

 どんなフィクションでも心臓を撃ち抜かれたらまず助からない、現実ならなおさらだ。犬神は徐々に意識が薄らいでいくのを感じた。

「あはははっは、逆だよ。心臓だから死なないんだよ。それに僕はキミを殺す気なんてこれっぽちもないよ」

 笑って手でcのサインを作りながら楽しそうに話かけてくる。明らかに狂人のそれである。テンションはハイ、闇夜に笑い声が響きわたっている。

「それに僕はいったよ質問に答えてくれたら、解放すると」

「解放!? どこがだよ、完全に殺しにきてるじゃねーか、畜生、それとも介抱でもしてくれるってのか!」

「違う違う、僕は君たち人間の窮屈な世界から解放さしてあげるって言ってるのさ。人間の世界からの解放、つまり、生まれ変わりさ、さあ次に目を覚ました時キミの世界は変わっているよ。そして最高に楽しもう。キミは「新しい世界」というより「見え方の変わった世界」で好きに行動してくれ、一ヶ月後に経過を見にくるよ。それでは良い夢を」

 そういって警官は、今度はとてつもなく小さな銃で犬神を撃った。撃たれた犬神は何かを言いたそうに口をパクパクさせながら意識を失った。

「明日はちょうど満月だな」

 警官はそう呟いて、夜空を見上げた。

「もうすぐ会えるといいね、かぐや姫。ひゃははぁぁぁびゃはぁぁはははぁっぁっはぁ」

 そして、真夜中に銃声が響いたというのに誰も様子を見に来ない明らかな異常な状態の中、男は再び狂ったように笑いながらたった今自らが撃った少年を担ぎその場を去った。


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