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俺が終始そわそわしている内に、全員が大体同じくらいのタイミングで読み終わり、顔を上げる。
「どうだった?」
俺は自信満々に聞いてみる。ハッタリだよ、どうせ。自信なんかこれっぽっちもありませんって。ドッキドキです、はい。
「ん~っとね、すっごく面白かったよ~」と村主。
こう素直に褒めてもらえると嬉しいね。ただこいつの場合は、何を読ませても面白いって言いそうだけど。
「そいつはどうも。そう言ってくれると、お世辞でも嬉しいよ」
「えへへ~。でも、ホントに面白かったんだよ~」
満面の笑みでいわれると、なんかこう、くすぐったいな。女の子に褒められる機会なんてほとんど無かったから、余計に照れる。
「面白かった。なるほどね~って感じかな。よくもまあこのタイトルで書き上げたもんだね」と小野寺。
相変わらず沸点の低いやつだ。
「他に使えそうなタイトルが無かったからな」
「一つ不満を言わせてもらうと、俺としては後日談みたいなのが欲しいかな」
確かに俺も、完結の仕方には若干納得がいってなかった。
強引過ぎたというか、綺麗にまとまっていない。
「一応、完結編って言うか、アフターストーリーみたいなのは考えてはいるんだ」
「んー、じゃあ、今度それも読ませてよ」
「ただね、個人的にずるい内容かなって思ってさ。後日談に、「五年後」とかってのを持ってくるのは、個人的に嫌いなんだ」
といいつつ、そういう完結の仕方が結構好きだったりする。
「えーっと、難しかった」と大垣。
「そんなに難しい内容だったか? もろにコメディーなんだけど」
「字が読めない」
お前は小学校からやり直せ。そんなに難読漢字とか使ってないぜ。
「だって普段、小説とか読まねーからさ。慣れてないんだよ」
「せめてラノベくらい読もうぜ?」
「無理。頭痛くなってくるんだよ。字しか書いてないページ見ると」
そして最後に。
「陳腐ね」と篠原。
ばっさりと切り捨てられました。
「陳腐とはまた……。よかったら、もうちょっと具体的に指摘してくれないか?」
すると篠原は、ふんと鼻を鳴らしてから言う。
「まず、キャラクターの設定がステレオタイプなものばかりで、斬新さが足りないわね。キャラクター個々が立っていて、人間として生きている点は評価に値するけれど、それにしても真新しい感じが一切ないわ。それに、内容が媚び過ぎ。偏りすぎよ。大きなお友達ばかりが喜びそうな設定ばかり羅列されても、一般人はまず付いて来れないわ。何より、節々から萌えを狙った要素が多すぎ」
うっ……、グーの音も出ねえ。俺自身でもよく分かってる欠点をズバズバと言い当ててきやがった。
いや、分かっちゃいるんだけど、どうしてもさ、周りの影響をモロに受けちゃうんだよ。仕方ないだろ?
ちょっと前に見たアニメや読んだ小説の影響なんて、すぐに出てきちゃうんだよ。
「所詮あなたの様な萌え豚に書けるのはこの程度かしら? まあ、それが悪いとは言わないけれど、何でもかんでも萌えに走る現状には嫌気がさすわ。この作品に直接的にそういった表現は入ってはいないけれど、それでもそれに近い空気を感じるわね」
「へっ、確かに仰る通りだわ。何も言い返せねえ」
豚って言われたよ。ブヒ。
もう半分涙目ですよ、俺。
なんとか受け答えをするが、けれど俺の心は崩壊寸前だ。
こうやって批評されるのが嫌だから、作家デビューなんてしたくないんだよ。面白いって褒めてくれる人ばっかじゃないんだから。
ええ、どうせチキン野郎ですよーだ。
しかし、この様子じゃ、篠原は参加してくれない、かな? まあ、人が全く足りないわけじゃないから、構わないっちゃ構わないんだけど。でも、これだけの指摘ができる人材は、居てくれると非常に助かるのも事実だ。
何とか取り込めないものだろうか。引き換えに俺の自我が崩壊しそうだけど。
「地の文がお座成りなのは、映画脚本用だからかしら? これじゃああなたの小説家としての実力は測りかねるけど。……だとしたら、一度あなたが本気で小説として書いたものを読んでみたいものね」
「まあ、そんなとこだ。今日は何も用意してないけど、今度機会があったら持ってくるよ」
「その必要は無いわ」
「と言いますと?」
「別に今、無理してあなたの他の小説を読む必要は無いと言ったのよ」
つまり参加する気は無いって事ね。残念だ。
「……今日はこの後、何をする予定だったの?」
「ああ、とりあえずキャスティングぐらいはしておこうかと」
「それで?」
「……何が?」
「だから、私はどの役を演じれば良いのかしら? このモブキャラの女友達? できれば裏方の方が良いのだけれど、どうしてもと言うなら、ヒロインを務めても良いわよ」
ん?
もしかして、やる気になってくれてる、のか?
「えっと、参加してくれるのか?」
「ええ。お邪魔だったかしら?」
え、だってさっき、ボロクソにけなしてたじゃん。
「いや、すっげー助かるけどさ。その、……どうして?」
すると篠原は赤と青の冷たい視線を俺に投げかけた。
「どうしてって……。一つだけ言っておくわ。私は、自分で面白くないと思ったものを、最後まで読むほど暇じゃないのよ」
じゃあ最後まで読んでくれてなかったのかよ。
俺があからさまにがっかりしていると、篠原はさらに怪訝そうな顔をした。
「どうしてそんなに落胆しているのよ。面倒臭い男ね」
だからその目が怖いんだって。せめてカラコン外せよ。