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 とまあ、ダメ人間が三人も集まってしまったわけだ。

 とりあえずこの三人で、最後の一人、女の子をどうするか話し合おう、ってことになったわけだ。

 三人寄れば文殊の知恵って言うだろ? あれは嘘だってことがよく分かった。

 三人寄っても猿の知恵。これが正しい。

 俺たちは場所を移し、近場のファミレスで遅めの昼飯を摂りながら、女の子のアテについて話し合っていた。

 中途半端な時間だからか、国道沿いのファミレスの店内は、俺たちの他に客の姿はほとんどなかった。

 手っ取り早く、誰かの彼女でも連れてくれば楽だって結構本気で思ってたんだけどさ。冷静に考えれば、それは無理だったよ。最初から気付こうよ、俺。

 まず小野寺。可能性としてはこいつが一番高かった。意外に社交性が高いし、なんたって華の大学生だしね。なのに、なんでこう、こいつの周りには女っ気がないのかね。どうやらこいつは恋愛対象としては見てもらいにくいらしい。女心は俺には分からん。

 次に大垣。そもそも、奥行きのある女の子には興味がないらしい。いや、うん。それはいいんだけどさ。そんなもん個人の勝手だろ? でも、ここまで声高らかに宣言されると、さすがの俺も引くぜ?

 二人とも、黙ってたらけっこういい面してるんだぜ? イケメンとまでは言わないけど、標準以上だとは思うんだけどね、男の俺から見ても。残念なイケメンってとこか?

 そして俺。……察してくれ。俺の口からは言いたくない。死にたくなるから。

 女友達はいないのかって? いるわけないでしょ、俺たちにさ。まあゼロって訳じゃないんだけど、連絡先を知らない。なぜなら中学を卒業した段階で、俺は携帯を持っていなかったからだ。今連絡のできる女の子もいなくはないけど、こんな下らないことに巻き込める娘なんて、いる訳がない。

 誘ったところで、「え~、ばっかじゃ~ん。私そんなに暇じゃないし~」って言われるのが目に見えてる。ヘタしたらもっとヒドイ言われ様されそうだし。

 もっと怖いのが、「いかがわしいもの」の撮影だと思われること。だって考えてみろよ。いきなり「映画撮ろうぜ」なんて言われて、警戒しないほうがおかしいって。

 どうだ、こうなる事なんて企画段階から十二分に予測可能だったんだぜ。なのに全然気付かなかったってさ、俺の脳みそのチープっぷりに泣けてくるね。どうして男しか出てこないものを書かなかったんだろう。画面に男しか出てこなくても、それはそれでむさ苦しいかもしれない。でも、役者が揃わないでお蔵入りするより、よっぽどマシだと思うけどな。

「はぁ~あ」

 出てくるのは名案どころか、ため息だけだ。

 なんとかこう、上手い事できないもんかね。そもそも社会適応性の低い俺たちに、人集めなんてできるわけがない。

 三人が三人とも、ない知恵を搾り出して知恵熱を出してオーバーヒート気味になった時だ。

 いかにもバイトって感じのウエイトレスさんが、食器を下げにやって来た。

「こちら空いてるお皿片付けてよろしいでしょうか~?」

「ああ、はい、お願いします」

 テンプレートな接客に適当に対応する。いくら接客業とはいえ、やたらと笑顔が輝いてるウエイトレスさんだ。作り笑いじゃない、素の笑顔を振りまきながら仕事をする彼女。しかしこのウエイトレスさん、どっかで見た記憶が……。

 誰だったかなーと拙い記憶力をたどるように、ウエイトレスさんの顔をまじまじと眺める。なんとなく思い出しかけ、胸のネームプレートに書かれた名前を見て、俺は確信した。

「お前、村主じゃん」

 名前を呼ぶと、彼女はぴくりと反応して、俺たち三人の顔を順番に眺め、そして、

「あああ~っ、河野に小野寺に大垣じゃ~ん! ひっさしぶり~!」

「お互いな。同窓会以来だっけ? 元気そうじゃん」

「ん~、見ての通り、超元気だよ~」

 やっぱり間違いなかった。まあ村主なんてここらじゃ珍しい名前だし、間違いないとは思ったけど。

 村主綾音。こいつもやっぱり、俺たちの中学の同級生だ。なんかこう、いつも底抜けに明るくて、常に笑ってたイメージが強い。俺なんかとは大違いで、すごく愛想のいいやつだ。

「しっかし、変わってねーな。もちろん良い意味で」

「そ~かな~?」

 女友達なんて俺には数えるほどしかいなかったけど、その中でも村主は、特に仲が良かったと思う。なんで高校に上がってから疎遠になったのか、どうにも理由が分からない。まあ仲が良かったって言っても、女友達の仲では、ってだけで、そこまで仲良しこよしだったわけじゃないから仕方ないのかもしれないけど。

 ただ、すごく懐かしかった。村主綾音が、俺の知ってる村主綾音のままだったから。

 なんて言ったらいいのかな。それなりに時間が過ぎれば、人なんて変化しちまうもんだと思ってたんだけどさ。

 外見はもちろん変わってるよ。そりゃ中学卒業してから、もう六年も経ってるんだから。でも、本質は何も変わってないね。明るさとか、笑った表情とか、やたらと伸ばす口調とか。

 実は去年の暮れに同窓会があったのだが、その時の記憶が、俺にはほとんどない。なぜなら酒に弱い俺は、早々に酔いつぶれてしまったからだ。

 だから俺にしてみれば、卒業以来会ってなかったのと一緒だ。だからこそ、村主が俺の知ってる村主だったことに、なんかすごく安心した。それはまあ、ついさっき、たった一年で変わり果てた大垣の姿を見たからこそ、そう思うのかもな。

 気が付けば、仕事を忘れた村主と四人で、思い出トークに花が咲いていた。そりゃ、旧友が揃えば、こうなるのは当然だろ?

「今何やってんのよ、村主は。大学行ってんの?」

「んーん、短大卒業して~、今はフリーター」

 って事は、村主も割と時間に余裕はあるのかね? なら、またこうやって四人で集まって談笑できるな。……お前は社会人だろって? 確かに週五日間きっちり働いてるけど、実は結構暇してるんだな。夜勤なもんで。

「ところでさ~、三人で~何やってたの~?」

「何って、飯食いながら話し合ってたんだよ」

「今後の人生についてさ」

「何かまた悪巧みしてるの~?」

 悪巧みとはまた人聞きの悪い。俺は訂正の意味で言ってやった。

「そんなんじゃねーよ。……映画作ってんだ、映画」

 そう言って、小野寺の家で印刷しておいた原稿を村主に渡す。原稿といっても、A4の紙っぺら三枚だけだけど。

 村主はそれをふむふむ言いながら熱心に読んで、そして、目を輝かせた。

「すっご~い! これ、誰が書いたの~!?」

 テンションMAXでここまで絶賛されると、なんか恥ずかしいな。俺が黙ってると、なぜか小野寺が偉そうにして言う。何でお前が得意気なんだ?

「どうよ、すごいでしょ。実はこれ、何を隠そう河野が書いたのさ」

「え~、河野クン、小説なんて書けるんだ~、すっご~い!」

 そんなに褒めてくれるな、俺のワナビ小説を。恥ずかしくて死にそうなんだけど。

「で、これを映画にするの~?」

「んん、まあな」

 俺が照れ隠しに視線を逸らしながらコーヒーをすすっていたら、予想外の言葉が村主の口から飛び出した。

「私も混ぜてもらっていい~?」

 ブーーーッ! 思わずコーヒーを噴き出してしまった。


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