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 で、だ。

 お互いの作品を読み終わるまで、時間にして十数分。そんなに長い小説じゃなかったからね。

 でも俺には、その十数分が永久に感じたよ。

 なんというか、非常にコメントのしづらい作品だった。

 小野寺の友達とやらが書いた邪気眼小説を読まされたときとは、また違う感じだね。別に、ひどい訳じゃないんだよ。小野寺の書くものは。

 ただ、何と言うか、人類には早すぎるんだと思う。ゴッホの作品が、彼の死後に評価されたようなもんかな。あと二百年くらいすれば、こいつの作品が評価される時代が来るね。

 俺が思うに、小野寺は天才なんだ。こいつ。天才ってか、もはや鬼才だね。

 発想が常人の斜め上を行ってる。

「どうだった?」

 一番困る質問来たよ。なんかワクワクしながら、小野寺が聞いてきやがる。

「どうだったって、いや、ね。すげーよ、お前。相変わらず」

 いっぺん、こいつの頭の中を覗いてみたいよ。ほんと。

 こいつの作品は、所謂シュールレアリズムなんだ。独特の世界観で、奇想天外な内容の小説を書きやがる。美術館で小首をかしげながら眺めるような絵画を、そのまま文章で表現したような感じだ。

 これを口で説明しろってのが難しいよ。

 しかも感想を求められたって。俺の少ないボキャブラリーじゃ対応しきれないね。

「ちなみにそれ、今度サークルで作る紙芝居の脚本なんだよ」

「どんな紙芝居だよ!?」

 俺が当然のツッコミをいれると、小野寺は一冊のスケッチブックを取り出した。

「これ」

 受け取って、ページを捲る。

「お前、画家にでもなった方がいいんじゃないか?」

「俺には絵心は無いからね」

 もう絵心とかそんな次元を軽く超越してやがるけどな。

 そのスケッチブックには、暗い色彩のクレヨンで書かれた、子供のラクガキみたいなものが描かれていた。

 一枚一枚は本当に、子供が戯れで描いたような当たり障りのない絵なんだが、けれどページを捲るごとに、実は一連のストーリーみたいなものを感じ取れる。

 色使いもあいまって、まるで予言の書みたいだ。世界の終焉までを描いているようにも見える。

「なるほどね、これが今の脚本と繋がるわけか」

「そう」

 紙芝居って言うよりも、インチキ臭い新興宗教の布教活動じゃない、それ?

「なんかこれ、病んでる人が自殺間際に書き残した絵みたいだな」

「でしょ? 結構そういうの、意識して描いたんだよ」

 なんかニコニコしながら解説してきた。

「どうでもいいけどさ、お前。死ぬなよ」


「で、どうだったんだよ、俺のは」

 とりあえず今日は、こっちが本題だ。これを元に映画を作るって話なんだからな。正直、勘弁して欲しいけど。

「うん、いいと思うよ。まだ途中みたいだけど、これから先がどうなるのか、すごく気になる」

 とりあえずはこれで良かったらしい。小野寺は意外と沸点が低いんだよな。俺が駄作だと思って書いたやつでも、ゲラゲラ笑いながら読んでるし。

 ただ、この段階で既に、重要な問題にぶち当たっていた。

 書きながら、ああこれどうしようなんて思ってたわけだが、案外に楽天家な俺は、何とかなるさと筆を進めていたんだ。

「キャスト、ね。大問題だよ」

 そう、出演者の問題だ。

 今の参加者は、俺と小野寺の二人だけ。

 しかし、俺の書いた小説には、現状で男二人の女一人が必要なのだ。

 しかも、三人が同時に画面に映る場面も少なからずあるので、カメラマンも含め、最低でも残り、男女一名ずつが必須なのだ。

 それも、こんな下らない事に付き合ってくれる人間なんて、そうそういないだろ?

「心当たり、ある?」

「うーん、男のほうなら」

「俺も、男なら何とかなるんだよな。一人、暇そうな奴がいるじゃん」

「「大垣だろ?」」

 こんな所でハモってしまった。

 思考回路が似たり拠ったりというか、交友関係が狭いというか。

 というより、お互いの友人で、暇そうで、ノリが良くて、参加してくれそうな人材といえば、思いつく限りで一人しかいなかった。

 大垣強志。名前だけ聞けば、柔道部の主将みたいな名前だが、実際はただのひょろいあんちゃんだ。しかもニートとフリーターを行ったり来たりしている暇人である。

 俺と小野寺の共通の友人で、中学時代のクラスメイトで、部活仲間だ。

 誘うなら一番楽だし、どうせ年中暇だろうし。

「あいつとも最近会ってないけど、何やってるんだろ?」

「さあ? 相変わらずニートじゃないかな。半年くらい前に、一回だけ一緒に短期のバイトやったけど」

「あれ、前は牛丼屋でバイトしてなかったっけ?」

「辞めちゃったみたいよ」

「……とりあえず、電話してみっか」

 一年近く会っていない旧友の現在に一抹の不安を覚えながら、俺は携帯の電話帳から大垣の番号に電話をかける。すると、わずかワンコールで電話は繋がった。

『お前、人がエロ動画見てるときに電話なんかしてくんなよ!?』

 ちなみに時間は真昼間の二時ちょい前だ。なんというニート。

「昼間っから何やってんだよ?」

『……ナニやってたんだよ』

「いいから粗末なのしまえ」

『なっ……、俺のメガキャノン砲を粗末だと……? ってか、俺の姿が見えてるのか!?』

 見えなくても何となく想像はつく。想像したくもないけど。

『賢者タイムに電話掛かってくる悲しさがお前に分かるか!?』

「いいから、ちょっと来いよ。どうせ暇だろ?」

『暇じゃねーよ、忙しいよ』

「忙しいのは右手だけだろ? いいから」


 電話を切ってから、十分そこそこで大垣が現れた。

 とりあえず小野寺家の玄関前で待っていたのだが、辿り着いた大垣の姿に、会っていなかった時間の長さに愕然としたね。

 やっぱ時間ってのは人を変えるんだね。

 まあ前から大垣はこんな感じだったけど。たった一年で、輪をかけて廃人になってやがる。……人のことは言えないけどさ。

「「痛バイク!?」」

 大垣が跨っていたそれは、某有名同人STGのキャラクターが、でかでかと描かれた原付だった。

「しかもスーパーカブかよ!?」

「ああ、もう、カブの燃費は最高だね。リッター五十キロも走るんだぜ? 俺みたいなニートにはうってつけだよ」

 なんかもう、悲しくなってくるよね、色々と。

 いつの間にか金欠ニートに成り下がってた友達とか。昭和を代表するバイクに描かれてるウサミミブレザー少女とか。

 とりあえず男三人は用意できた。後は女一人なんだけど。

 こんな残念な野郎共に付き合ってくれる奇特な女の子なんて、果たしてこの世に存在するのか。

 不安しかないね。


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