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 ここでキャスティングを発表する前に、いい加減に俺が今回書き下ろした原稿の、中身について軽く説明する。できれば最後まで教えたくないんだけどさ。恥ずかしいから。でも、これ以上内容を伏せたまま話を進めるには、無理があるんだよ。

 ざっくり解説すると、この春高校に進学した男二人と女一人が、アパートに下宿する、という話だ。

 どうだ、さっぱり分からないだろ? それでいいんだ。書いた俺にもよく分からないんだから。

 で、全員のキャスティングと、役割分担なんだけど。

「どうして俺が主役になってるんだよ!」

 いきなり叫んでしまった。

 今回、キャスティングは小野寺に依頼した。メンバーのキャラクターを意識した上で、適任を充ててもらったのだ。

「まあまあ。俺が思うに、河野が主役の男に適任だと思うんだよね」

 そう言われてしまうと、なんとなくそんな気がしてくる。

 特に、物語の語り手としては、俺が最適な気がしてならない。何故だろう。

「で、もう一人のアホ男のほうが、大垣ね」

「その人選に少なからぬ悪意を感じるのはどうしてだろうね?」

「気のせいだよ。で、ヒロインの女の子は、村主ね」

「え~、はずかしいな~」

 両手を頬に当てて恥ずかしそうにしている村主。やたらかわいい仕草しやがるな、ちくしょう。

「っつっても、篠原が目立ちたくないらしいからさ。村主、任せた」

「ん~、わかった、やってみる~」

「で、篠原には撮影とかの裏方と、モブで出演してもらうから」

「それは構わないのだけれど、それではあなたは何をするつもりかしら?」

 篠原が長い髪を指先でくるくるしながら尋ねると、やたらと張り切った小野寺が、鞄の中から赤い腕章を取り出した。

「俺、超監督やるから」

「超監督って……」

 その腕章、アニメのグッズショップで買ったやつだろ。そんなもん持ち歩くな。そしておもむろに装備しようとすんじゃねえ。

「あなたが監督? 信じられないほどの一抹の不安を覚えるわ……」

「ま……まあでも、こう見えて小野寺はいい意味で変態だから、きっと凡人には理解できない才能を開花させてくれるんじゃないか。変態だからさ」

 我ながらフォローになってないと思うが。

「変態……」

 その言葉に、村主が若干身の危険を感じたらしい。大丈夫、心配ない。ここに集まってる男どもは、至って安全な、人畜無害な連中だから。まあ、ある意味では危険かも知らんけど。


 所変わって、俺たちが今いるのは、国道沿いにある、誰でも知ってるディスカウントストアだ。

 キャスティングは決まったことだし、膳は急げでとりあえず小道具の類を揃えておこうって話になったのだ。

 ここでちょっと補足なのだが、やたらと国道沿いのと冠する施設が登場する。それはここが二本の川に挟まれている土地で、そこを縦に貫く国道沿いにしか何も無いからだ。田舎って言うな。

「とりあえずここに来れば、一通り揃うからね」

 郊外の店舗だけあって、広々とした店内には所狭しと怪しげな品物が陳列されている。

 捜し求めているものは、撮影に使う衣装だ。学生という設定だから、制服を着てれば高校生に見えるだろ。

「俺、一度でいいから学ラン着てみたかったんだよな」

 なんせ俺は中学も高校もブレザーだったから、学ランに憧れみたいなものがある。

「あ~、そういえば、私もセーラー服着てみたいな~」

 そういう村主も、境遇は俺と同じらしかった。

 考えてみれば、仕事中に多くの高校の生徒を目にする機会があるが、けれどその殆どがブレザーだ。今となっては、学ランにセーラー服の高校は珍しいのだろう。

 売り場には、それこそいろんな種類の衣装が並べられていたが、飛びぬけてバリエーションが豊富なのは、やっぱり女物の制服だった。

 半袖長袖に、襟の色も紺、白、赤、青、リボンだったりスカーフだったり、アニメの衣装そのままなんてのもある。

 ……いかんいかん、自分の欲望に表情筋が緩みまくりだ。間違っても、そんな変態的な趣味趣向を満たすために来たわけじゃない、はずだ。

「とりあえず、一番普通なデザインのやつがいいでしょ。その方がリアルだし」

 という小野寺の提案に、村主が選んだのは、本当にどこにでもありそうな、長袖、紺色に赤いスカーフのセーラー服だった。胸のところには、いかにもそれっぽい校章のワッペンが貼ってある。

「これなんか~、すごく普通だと思うけど~」

「お、いいんじゃないか? ほんと、どこにでもありそうな制服って感じで」

「サイズは~、どうだろう? 何種類かあるけど~」

「適当でいいんじゃないかな。ほら一応、身長の目安が書いてあるじゃん」

 商品のパッケージにはSMLのサイズが書かれたシールが貼ってあり、その下には身長何センチから何センチまで、と参考が書いてある。

 割と背の低い村主は、自分の身長と照らし合わせて、Sサイズを手に取った。

「多分これくらいで大丈夫だと思うけど~」

 村主はセーラー服を胸の前に掲げてみるが、いまいちサイズが分からない。

「あ、試着とかしてみたら? あっちに、試着室があるみたいだよ?」

「ほんとだ~、ちょっと試着してみようかな~」

 言った大垣が指差すほうには、洋服屋ならどこにでも置いてありそうな、カーテンで仕切られた電話ボックスサイズの試着室がいくつかあった。

「篠原は? サイズ」

「……私も着るの? セーラー服」

「だって、女友達役やるのに必要でしょ」

「仕方ないわね……。不本意だけど、あなた達がそこまで言うなら着てあげるわ」

「じゃあ~、ちょっと待っててね~」

 そう言って試着室へと消えていく村主。後を追うように、篠原も同じデザインでワンサイズ上のセーラー服を持ち、同じようにカーテンを閉めた。

 と同時にカーテンの隙間から、篠原の頭が飛び出してきた。

「一応念のために釘を刺しておくけれど、覗いたら……分かるわね?」

「覗かねーよ」

 タチの悪い冗談はやめてくれ。呪われるかと思った。


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