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異世界拒否

作者: 黒留ハガネ

 ある日高校から帰り、自分の部屋のドアを開けるとベッドの上に銀髪の幼女が座っていた。

 ドアを開けた姿勢で呆然と固まっていると幼女がこちらを向いてフレンドリーに話し掛けてくる。

「おお、帰って来たか。唐突な話で悪いのじゃがぬしに頼みが――」

 全て聞く前に一歩下がってパタンとドアを閉めた。部屋の中から驚きの声が上がり、数秒間を置いてドアノブがガチャガチャいいはじめるが背中でドアを押して開かせない。

 さて、落ち着いて整理してみよう。

 平凡な高校生がいつもの様に帰宅。我が物顔で部屋で待っている髪の色がおかしい幼女。今時ねーよ、と言いたくなるほど古めかしい口調で頼み事。

 まさかこれは……この展開は!

「なるほど不法侵入か……」

 頭の可哀相な幼女が泥棒ごっこでもしているのだろうか。そういえば今日は家を出る時に鍵を閉め忘れていた。ごめん母さん、これからは戸締まりの確認忘れないよ。

 俺はドンドンと叩かれ始めたドアを背中で押さえながら携帯を取り出した。

「もしもし警察ですか?ウチに不法侵入者がいまして――――」












 半泣きの幼女が「違うのじゃ! 違うのじゃ! 妾は選ばれし勇者の(ry」などと電波を撒き散らしながら警察に連行されて行った翌日。

 今度は徒歩で登校途中にトラックが突っ込んできた。

 おい待て信号無視してんじゃねぇ! と心の中で絶叫したが運転席の運ちゃんは船をこいでいた。トラックに乗りながら船を漕ぐとはこれいかに。

 素早く左右を見る。トラックは真正面で俺を捕らえており、生涯最高のジャンプ力を発揮したとしても回避できそうにない距離だ。後ろに跳んで勢いを殺すのは論外。漫画じゃないんだから。

 そこで出した結論、ここは大人しく――――

「下だぁ!」

 俺はべたりとアスファルトに這いつくばってトラックをやり過ごした。頭上を鉄の塊が猛スピードで通り過ぎ、全身の毛が逆立つ。

 車体の下の空間が広かったお陰でなんとか一命を取り留めた俺は、人殺しになりかけた事に気付かず走り去って行ったトラックに罵声を送った。










 トラックに轢かれかけた次の日、土曜日。学校が休みだったため修理に出していたパソコンを取りに商店街へ行った帰り道、突然目の前に鏡が出現した。等身大の楕円形の鏡だ。

 思わず一歩飛び退いて周囲を見回したが、俺以外の通行人はこの鏡に気付く様子が無い。俺にしか見えていないらしい。

 何度も瞬きして目を擦ったが、鏡は依然としてそこにある。どう考えてもおかしい。

 常識では考えられない、物理現象とは思えない物がここにある。つまり、

「疲れてるんだな、俺……」

 二日連続で危ない目に合って自分でも自覚できない精神的疲労を貯めていたのだろう。幻覚まで見え出した。

 俺は一応鏡を避けて通り過ぎ、家に帰ってゆっくり休み早めに寝た。










 幻覚を見た次の日、日曜日。俺は友人との遊ぶ約束をキャンセルして家でまったりしていた。修理されたパソコンを回線に繋いでネトゲをする。

 今やっているのは古き良き冒険ファンタジーで、捻りの無いスタンダードな世界観がかえって分かり易いとそれなりの評価を得ている。俺も一時期どっぷりハマり、最高レベル最高装備のキャラを二体持っていた。

 久し振りにログインしてみたらつい数分前のアップデートで新ダンジョンが追加されたらしく、一番最初にクリアした方には素敵なプレゼントを用意しております! という広告が画面で踊っていた。

 ゲーム魂に火がつく。俺は夢中になってモンスターを殲滅しながらダンジョンを降りて行った。

 やがてたどり着くラスボス。時空魔法を使ってくる厄介な奴だったが、高価なアイテムを湯水の様に使い何度も殺されかけ、ギリギリで倒す事が出来た。

 プレゼントは何だろうとワクワクして待っていると、スタッフロールの後にゲームマスターを現す青い文字でメッセージが流れた。

 長々と書かれていたが、要約すると「倒した時空の魔王の力を使い、二つの世界(ゲームと現実)の肉体を融合させ更なる力を手に入れる事が出来る」との事。

 要はキャラ強化だ。もしくはレベルキャップが外れるのかも知れない。

 俺は何にせよマイナスは無いと判断し、「受諾しますか?」の問いにイエスを選択した。

 すると突然画面からヌルゥ、と腕が出て来た。細い指を蠢かせ俺の服を掴もうとしてくる。

「うわあああああ!」

 絶叫した。俺はほとんど条件反射で思いっきりのけ反って腕を払い除け、反射的に机の脇に置いてあった分厚い百科辞典をひっ掴み、パソコンに叩き付けていた。

 割れるディスプレイ。飛び散る部品。壊れるハードディスク。

肩 で息をしてパソコンから離れしばらく用心深く観察してみたが、もう何も動かない。画面から飛び出した腕は消えていた。

 パソコン、沈黙。

 今度は修理ではなく買い替えになるんだろうな、と軽く絶望した。

 しかし幻覚もここまでくるといよいよヤバい。恐らくはゲームマスターのメッセージを脳内の無意識が「現実の肉体がゲームの中に入る」ものと解釈し、錯覚を起こしたのだろう、が、素人考えは危険だ。

 俺はその日の夜に両親とよく相談し、次の日に学校を休んで精神科へ行った。









「という話だったのさ」

俺 はほとんど十日振りに登校した高校で友人に事の顛末を話す。

「処方された薬を一週間飲み続けて温泉旅行でゆっくり自然に親しんで来たらもう幻覚も見えなくなった。人間ストレス貯めたら駄目だな。お前も気をつけろよ」

「……そこまでチャンスを逃すって逆にすげぇよ」

「ハァ?」

 訳が分からなかった。



 ふと思いついてから書きあがるまで二時間弱。似たような題材の話がありそうで投稿しようか迷ったが、つい投稿してしまった。

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― 新着の感想 ―
なんという的確な状況判断! なんという反射神経! 異世界に行ったら無双できる器ですね! おもしろかったです!
[良い点] 主人公がロリだったら大変なことになってたな(´・ω・`) [気になる点] トラックの下面で後頭部刈り上げられなかったのかなーとかw
[一言] なんといそうな感じの人間なんでしょう。僕はこの主人公が好きですよ。 彼でなくても、僕だったらたぶん同じような反応をすると思います。 まず第一の例ですが、自分ならこの幼女を警察を呼ぶどころか罵…
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