短編小説 「沈黙の期待」
私は今日も満点を取る。
誰も驚かない満点を。
#短編小説 #創作
満点を取れば、誰かは驚いてくれると思っていた。きっとそれは、誰かに認められたいからだ。相手は親でもいい。先生でも友達でもいい。
「期末のテスト、三十八点だったよ」
五十点満点の中学の試験。私の成績は、そこそこだった。親に点数を報告しても怒られることはない。けれど、褒められることもなかった。
「うんうん、頑張ったね」
その言葉を聞くたび、どこか物足りなさを感じていた。周りでは上位を争う友達が点数の話で盛り上がっている。私はそれを横で聞きながら、どこか他人事のように感じていた。
そんな私を変えたのは兄だった。兄は勉強が得意な方ではない。少なくとも私は、ずっと自分の方が上だと思っていた。
正月、兄は祖父母にお年玉を渡していた。
「今までありがとう」
祖父母は嬉しそうに笑い、親も誇らしそうに兄を見ていた。私はその光景を黙って見ていた。
それから私は勉強した。専門科目にも力を入れた。資格も取った。ボランティアにも参加した。できることは何でもやった。
「お前すごいな。またかよ」
そんな言葉を聞くことが増えた頃、私はテストで九十八点前後を取るようになっていた。私の高校は世間的に見れば偏差値は高くない。だが授業の内容は充実している。その中で高い点数を取り続けていた。
テストが返された日、私は答案用紙を見た。満点だった。私は少しだけ、周りを見た。
「お前また満点か」
それだけ言って、友達はすぐ別の話を始めた。
「お前何点だった?」
「三十二」
「やば、俺三十」
二人は笑いながら話していた。私は答案用紙を机の上に置いた。
私は今日も満点を取る。
誰も驚かない満点を。
満点を取れば、誰かは驚いてくれると思っていた。
けれど返ってくるのは、いつも同じ反応だけ。
努力すればするほど、何も変わらなくなっていく。
短編小説「沈黙の期待」を書きました。
よければ読んでみてください。




