ディアマイフレンド
スレッタ村のノエルを探しに森に入った私は、どんどん森の奥へと進んでいった。
木の密度が濃くなり、生い茂る葉と枝に太陽光が遮られて暗くなってきている。ここはもう森の深部だ、モンスターも闊歩する領域。
我が友人ノエルがグレートソードを持ってれば戦えるだろうけど、スレッタ村で流行ってたりしないかな。
「ノエル! ノエルー! どこにいるー!」
ここまで奥に来たら、そろそろ姿が見えていいはず。
と思って大声を張り上げて呼びかけてみたところ、
「誰? ……ううん、誰でもいいノエルを助けて!」
返事だ。
本当にこんな奥まで来てた。にしてもなぜ。
声の方に歩いていくと、木が何本もなぎ倒されている景色があった。
自然災害、には見えないな。こんな一部だけということはないだろうし。
「助けてー!」
と、再び声が聞こえた、木の下から。
地面に伏せて低い位置から見てみると、
「あ、いた」
倒れた木が重なった間にできた隙間に、黒髪の女性がいた。年は10代後半くらいで、真っ青な紐で腰のところをとめた麻の服を着ている。
この青色、記憶の中のスレッタ村の旗と同じ色だ。
間違いない。
「スレッタ村のノエル!」
「うんそうだよ! 挟まって出られなくなったの。引っ張ってー」
ノエルは手をこっちに伸ばすが、私は離れて、グレートソードで折れ重なっている木を切り割った。
「ひいぃぃっ!? 切らないでぇ!」
「そんなことしない。ほらもう出られるよ」
「え? え? ……やったあ! ふぅー、死ぬかと思ったよ。私の顔のこんなすぐ側をそのおっきい剣が通ったんだもん」
頬にちょっとだけ開いた指をあてて震えるブルブルノエル。
心配なんてご無用なんだけどな。今の私なら、それくらい正確な位置に、刃先をぶれさせずに切ることもできるようになったんだから。
「なかなか帰ってこないから何かあったのかも、って鍛冶屋さんが言ってたよ」
「鍛冶屋さんが? あははー、心配かけちゃった」
「ところでなんでノエルは木の間に挟まってたの?」
「それは……」
ズン、と地響きがしてノエルがびくりと肩をすくめた。
おそるおそるノエルが振り向いた視線の先にいたのは、
「ひいぃ! でかいやつまた来たぁ!」
「サイクロプス! こんなところにも出るんだ」
それはあの1つ目1つ角の巨鬼サイクロプスだった。
魔物の領域の山に住んでいるはずだが、森に降りてくることがあるなんて。
「あいつが暴れて木が倒れて! 葉っぱも舞って! 私挟まって! でもうまく隠れられて!」
「だいたいわかった。大丈夫、あの子なら何度も斬ったことあるから」
「だから逃げないと! ……え? 斬っ――」
ノエルが言い切る前に、私はこの前と同じようにしてサイクロプスを一刀のもとに斬り伏せた。
もちろん、角と目はちゃんと採っておく。放置したらもったいない精神。
「にしても本当に楽勝だったなー。やっぱり、負荷を与える装備は必要だね」
「あ……あの……あの大きな魔物を一瞬でやっつけちゃった?」
「うん、ご覧の通り」
「え、ええ? えええ? こんなちっちゃい子が? 私より子供なのに?」
「うん、ご覧の通り」
「ここの森もここの村も、なんかすごい……」
ノエルは私とサイクロプスを見比べながら、そう呟いた。
「そそ、キノコを採りに来たんだけど、つい奥まで来ちゃって。あんな化け物に出くわすなんて思わなかったよ~」
私はノエルとともに森を引き返しながら、”あんな化け物”について考えていた。
サイクロプスに不覚をとることはないから平気だけれど、それにしても森に強めのモンスターが出てくるのは不思議だ。私が小さい頃はそんなことはなかったと思うんだけどなあ。なんか私が成長するにつれ、強いモンスターが出るようになってる気がする。
もしかして……世の中で何か起きてるのかな。
ずっと僻地の村にいるから世界の事情には全然疎いけど、知らないうちに実は魔王軍がモンスター軍団を率いて暴れてる影響とかそういうのがあったりして!
ま、何が起きてようが私はグレートソードにより相応しい存在になれるように自分を鍛えるだけだから関係ないけどね。
「そういえばグレソちゃんって何歳?」
とその時、ノエルが質問してきた。
「11歳だよ」
「やっぱりそれくらいかあ。だったら…………ほら、見て!」
ノエルはカゴから形のいい傘の丸っこいキノコを五個取り出した。
何に使う気かと思っていると、それを天に向かって次々と投げ上げた!
そしてキャッチするとすかさずまた上に投げる。一個落ちるとまた次!そうして五個のキノコが常に宙を舞い続ける!
これはお手玉だ! キノコお手玉だ!
「す! すごい!」
……だが、なぜ?
お手玉を見事完遂したノエルは「どやぁ……」という顔で私を見ている。
「ふっふっふ、面白いでしょ」
もしかして子供を喜ばせようと思ってやってくれたのかな。
だとしたら目論見通り感心しちゃったよ。
だってキノコでお手玉だよ、しかも5個だよ。
大人だってすごいと拍手喝采するよ。
と思っていると、今度はノエルがかがんでいる。
覗き込むと、タンポポの綿毛を摘んでいた。
「ほらグレソちゃん、タンポポの綿毛だよ~。ふーっ! ほらほら! グレソちゃんも!」
空を舞う綿毛を私にめっちゃ見せて、私にもタンポポの綿毛を渡してくる。
子供が喜ぶにしろこれは11歳よりもっと若い子向けじゃあないか? もう5年くらい若いと思うタンポポの綿毛飛ばしてはしゃぐ年齢層って。
と思いつつ、まあせっかく喜ばせようとしてくれてるので付き合ってフーフーしておいた。
11歳ともなると大人に気を使うことも覚えるんだよね。
「ほんとはね、迷ったわけじゃないんだよねー」
ノエルが空を舞う綿毛を見上げながら、独り言のように呟いた。
「なーんか、スレッタ村でずっと同じような毎日過ごしてるのがなんか……なんかなあ~って気になってさ。どこか遠くに行きたいな……って、グレソちゃんにはまだわからないか」
わかるよ、我が友ノエル。
子供とか動物の前って心の鍵が緩みがちなんだよな。
普段言えないこととかやれないことであればあるほど。
「わかんないけど、私はやりたいことはやってるよ。超重いグレートソード使えるようになりたいから、超力持ちになれるよう特訓したり」
「そう簡単にはいかないんだよ、子供にはわからないかもしれないけど……けど、グレソちゃんはあんな化け物倒したんだよね。それに比べれば私のやりたいことの方がずっと簡単だよ、ね。……本当は、あの大きい魔物をグレソちゃんが斬った時に思ったんだよね、私もやれるんじゃないかって。うん、これではっきり言葉にできた」
立ち上がったノエルはすっきりした顔になっている。
私は感動していた。
グレートソードは魔物を斬ると同時に一人の若者の心を救ったのだ。
さすがグレートソードだ。
武器であり同時に心の救急箱でもある。こんな武器がこの世に他にあるだろうか?
やっぱりグレートソードは至高。なんならグレートメディスンボックスに改名してもいいくらい。
ゴメン嘘、改名しないほうがいい。グレートメディスンボックスはちょっとださい。
まとめるとそんな素晴らしいものを扱う私も、もっと高みに至らなければ、ってこと。
そのために必要な物、そろそろできてるかな?
「よーし! 我が友ノエルちゃんダッシュで帰ろう!」
「え? ええ!? 待ってグレソちゃん!!!」
私たちは鍛冶屋へと二人で走った。




