ブッシュのノエル
「ふぅん、鍛えるための道具ねえ」
爪にヤスリをかけながら鍛冶屋は言った。
今日は、鍛冶場じゃなくて隣の家の方に彼女はいた。私が早く来すぎなだけです。
「鍛冶屋さんなら作れるんじゃないかって」
「鍛えるためにウェイトをつけるっていうのはまあよくある話ではあるし、そのための重い剣なんかも鍛冶屋のレパートリーにはあるもんだけど……」
「あるんだ!」
「あんたはちょっと力が強すぎんのよね。そのあたしより重い鉄の塊をぶんぶん振り回す人にとって重いものを作るっていうのは並大抵のことじゃないよ」
「たしかにそうかも。グレートソード3本分くらいいるかなあ」
「そこまで大きいと重さよりただ邪魔で動きにくいだけね」
それじゃああんまり鍛えられない。
負荷で動きづらいんじゃないと鍛えることにはならないな。
むう……どうすればいいのだ。
「並大抵じゃない、と言っただけでできないとは言ってないよ」
「え!!?」
「普通の装備じゃなく魔の装備ならば、不可能じゃあないね。聞いたことあるかい? マジックアイテム、魔法の力をもった装備があるのを」
「うん。グレートソードは違うけど」
「あれはただでかくて強い剣だからね」
「そこがいい。だからこそ素晴らしい」
「あんたみたいなちっこい女の子が言うと思えないセリフね。それはともかく、特殊な材料を使えば魔法の装備が作れる。その中にあるんだよ、装備した人を動けなくする呪いのような装備が」
呪いの装備?
たしかに体が重くなるのは普通の目的だとデメリットかも。
でも今の私にとっては希望の装備と呼ばせていただきたい。
しかし、そんなものまで作れるなんてこの鍛冶屋さん地味に、いや派手に凄くない?
私の眼差しを読み取ったのか、鍛冶屋は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ま、人には色々と需要も過去もあるわけさ。それよりその動けなくする装備だけどね、巨人族モンスターの角を鉄と合わせて秘伝の製法を使えば、完成さ。巨人の呪いがかかって、巨人並に重い体になっちまうんだよ」
「巨人みたいに重い! 素晴らしい!」
「ああ、まさに今のあんたにとっちゃおあつらえ向きだろう。サイクロップス、ヘカトンケイル、ギガース、この辺の魔物の角を持ってきたら作ってやるよ。一応言っとくが、とんでもなく強いモンスターだからなそいつらは? ま、グレートソードが軽くて困るようなやつなら、倒せるかもね」
「サイクロップスでもいいんだ。それならこの前倒したから角も家にあると思う。すぐ取ってくる! 待ってて鍛冶屋さん!」
「は? ……もう狩ってるのかい。そりゃあ普通じゃ物足りなくもなるわね」
呆れたような声を背に、私は家に全力ダッシュした。
「お母さん! サイクロプスの角ある!?」
「角ならあるわよ、使い道もあんまりないから持て余すのよねえ。目玉はもう使っちゃったけどね」
「じゃあ、もっていっていい? 鍛冶屋さんがそれで特別なもの作ってくれるの」
「ええ、もちろん。あ、これももっていってお渡しして。お世話になってるから」
サイクロップスの角とお母さんからことづけられた砂糖菓子――魔法薬やその他魔女の道具を作る時の余りで作ったマカロンみたいなお菓子――を持って、私は即鍛冶屋に舞い戻った。
「ほら、これ! あとこれお母さんからお世話になってるからって」
「へえ、本当に立派なサイクロプスの角だね。……うん、これはおいしい。お母さんにお礼伝えてね」
早速お菓子を食べつつ、サイクロプスの角の品質か大きさかを確認している。
そして何かがわかったか、私に鍛冶屋は言った。
「ああ、これならイケるね。じゃあ早速装備を作ってやるよ」
「ふぅぅぅ!ありがとう!」
やった。
これでまた痛い目にあえる!
若い頃の苦痛は買ってでもしろって言うし、いいことだ。
「完成まではしばらく時間かかる。だからその間、ちょっとお使い頼まれてくれないかいグレソちゃん?」
「お使い?」
「ああ。隣村のスレッタ村から、染料を売りに来た子がいたんだけどさ、ここの森で採れるキノコが欲しいって森に行ってから結構時間がたってるんだよ。まあ、あの子だって村育ちだから森や獣のことに無知ってことはないはずだから大丈夫だとは思う。おおかたキノコ採りに夢中になってるだけだと思うけど、念の為探してみてくれないかい? 森や山で訓練してるなら、そのついでにさ。ま、見つからなかったら見つからなかったでいいさ、ちょっと意識するくらいでいいから」
「いいよ。ここでじっと待ってるよりその方がいい。それはどんな子?」
「年は16歳の女、名前はノエル。まあ、この村で見覚えのない顔がいたらそいつさ」
「ノエルね、わかった。じゃあ、絶対作ってね! その間私も仕事しておくから」
「ああ。任せなよ、魔の装備なんて作るのは久しぶりだから楽しみだ」
鍛冶屋は鍛冶場に、私は森に。
それぞれのやるべきことをやるために向かっていった。
馴染みの森の中を私はノエルを探しつつ歩いていた。
キノコが採れるなら、北の方のはず。香りのいいものや味のいいもの健康にいいもの等色々なキノコがここの森では採れる。私も大好きだ。
しばらく歩いていると、茂みの中に根本だけを残して千切れたキノコを見つけた。千切れたところを触るとまだ乾燥していない。
こいつだな。
きっとノエルが採ったものだ。周囲を探し歩くと、また同じようなものが見つかった。こうしてキノコの痕跡を追っていけばたどり着けるだろう。
「スレッタ村の子かあ。あれっていつだったかなー」
ノエルが住んでるというスレッタ村に私も一回だけ行ったことがある。
あれはたしか……7歳の時だったかな。
『すごい! 旗がたくさんある!』
『今日は祭りだからな! お、あそこ見てみろよ、旅芸人が来てやがる!』
ちょうど母さんがスレッタ村に用事があって、その時がスレッタ村でお祭りがある時だったから、父さんと私も一緒に行ったんだ。
あの村は染料が有名らしく、お祭りでは真っ青な布が村中で鯉のぼりのようにはためいていた。
美しく、同時に私たち人間のちっぽけさを感じさせる光景だった。
今でも覚えている、青空が風に揺れているようなあの青。
もちろん、お祭りの屋台の食べ物を食べながら旅芸人たちの踊りや芝居を両親と楽しんだことも。
スレッタ村にはちょっといい思い出があるから、そこから来たノエルにも勝手に親近感をおぼえてしまう。初期条件は友だちにセットしておこう。
「早く友達を見つけなきゃだね……けど、これ、森の奥の方に行ってないか?」
キノコラインの延長線を伸ばしていくと、どう計算しても森の奥へ奥へと行っている。
奥にはモンスターも出ると知っているはずだけど、どうして?
キノコに目がくらむことなんてあるか?
とにかく、ちょっと急いだ方がいいかもしれない、急ごう。
私は森の草木をかき分け進む足を早めた。
だってノエルは友達だからね。




