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vsマイファーザー

「お父さん?」

「グレソちゃんは山の魔物とも戦ってるだろ? 俺も昔は冒険者としていろんな魔物をやっつけてきた。グレソちゃんがどれくらい強くなったか見てみたいんだ」


 ………………面白そうだ!


 実のところ、私は人間と戦ったことは一度もない。

 グレートソードで戦うのは獣や魔物だけ。人間にどれくらい通用するか、人間の戦いで使うとどうなるか、知ってみたいとはちょっぴりばかり思っていた。


「うん! やろう!」

「そうこなくっちゃな! よーし、空き地に出るぞお!」


 それに父さんは結構強い冒険者だったって聞いてる。

 私がどれくらい通用するか、試してみたい。


「じゃあ、始めるぞ。もちろん寸止めするからな」

「私もしてあげるからね」

「ははっ! 言ったな! よし、構え!」


 5mくらい離れたところで、互いに構える。

 私は肩にグレートソードを担ぎ、父さんは両手で剣を持った。父さんは剣を正面ではなく右脇のあたりで持って構えている。独特なスタイルだ、要警戒だな。


 母さんが審判のように見守る中、最初に動いたのは父さんだった。


「しぃっ!!!」素早い動きで私の懐に入ってきて、下からすくい上げるように切り上げる。


 私が日々戦ってるモンスターよりもっと速い。

 父さんって、やっぱり強かったんだ!


 体を後ろにそらして避けると、今度は突きをしかけてバクステが意味をもたないように封じてくる。速いだけじゃなくて、有効な攻撃もこの短時間で考えて攻めを組み立てている。

 やっぱりモンスターとは違う、人間は。やっぱりモンスターより強い、父さんは。


 だから私はたんっと地面を蹴って横に飛びながら体をひねった。

 全身のバネを回転エネルギーに変換し、そして、その勢いでグレートソードを振り抜いた。


 父さんの目が大きく開いたのが見えた。

 一瞬の判断で父さんが長剣を顔の横に構えてグレートソードを防ごうとしたのも。


 折れた長剣が宙を舞い、空き地の土にサクリと刺さった。 


 父さんは折れた剣を構えたまま、目を見開いていた。

 父さんの頬まで1cmのとこまでグレートソードの刃が迫ったまま、私も父さんも母さんもぴくりとも動かない。


「う……うう……」


 父さんの口が歪んだ。

 と思ったら。


「うわおおおおおおおんんんん!!!」


 え? え? え?


「うおあああああああんんんん!!!」


 号泣してる!!!


「な、泣いちゃった! ごめんお父さん、殺すつもりはなかったけど、怖かったよね!」


 父さんは溢れ出る涙を拭いもせず泣き続けている。鼻水も垂れてるし。

 どうしよう、さすがに過去冒険者してたとは言え、もうちょっとで頭が真っ二つになって脳みそが吹っ飛ぶ寸前になるのは怖いよね、そりゃあね。

 

「ごめんねお父さん、寸止めがギリギリすぎちゃった。お父さんと戦って気分がノリすぎちゃって私」

「違う……違うんだグレソちゃん。パパは怖くて泣いてるんじゃない。嬉し泣きの涙だぜこれは……ずびっ」

「え? はえ? 嬉し泣き? どゆこと?」

「うおおおおおおおおおんんんんん!」


 いや泣いてないで説明して!?

 私は今混乱しているよ!


「ママから説明するわね」


 母さんがすっと私たちの隣に来た。


「蜘蛛っているでしょう? あの足がたくさんある虫さんの蜘蛛」

「うん。もちろん知ってるけどなんでこのタイミングで蜘蛛」

「蜘蛛は産んだ卵が孵化するまでそばで献身的に守って、そして、生まれた後は子蜘蛛に自分の体を食べさせるの。自らが犠牲になってでも子蜘蛛を成長させたいと願うそれが親蜘蛛」

「…………はっっ! まさか!?」


 ママも目に浮かべていた。

 涙が頬を伝っていく。


「娘が自分を一歩間違えば死なせるほどに成長したのがパパは嬉しくてしかたがないのよ。今の一撃で死んでいても恨んだりしない、むしろ喜んでたわ。もちろんママもね」


 父さんと母さんがどっちも私を抱きしめながらわんわん泣いている。

 私もなんだか泣けてきた。


 愛。 




 殺し合い寸前の危険な決闘の後、私たちは一家団欒を朗らかに楽しみ、その夜は家族の温かみを感じてベッドに入った。 

 ベッドの中で一人で冷静にあの時のことを思い返すと、でも、「ん?」って文字が頭に一瞬浮かんで来たような……いやいや、”愛”だからあれ。”愛”。


 ともあれ、私は歴戦の冒険者だったらしい父さんも超えてしまったのです。

 このあたりのモンスターも苦労せず倒せるようになったし、歴戦の人間にも勝てたし、私もグレートソードをかなり使いこなせるようになってきたって言っても良さそうだ。


 ……だけど、まだ足りない。

 もっともっと、グレートソードのポテンシャルは大きいはず。もっと引き出せるはず。

 だけど、だからこそ、私が強くなってしまったことが問題だ。


 私は、ちっちゃな頃から限界までグレートソードの特訓をし体をいじめ抜いてきた。そこで普通の人より吸収率のいい大地のマナで回復し強化し、さらにグレソの特訓をし体をいじめ抜き……というループで強くなってきた。そのおかげで今日の力を手に入れられた。


 ……でも、それじゃあ足りなくなってしまった。強くなったせいで、もう朝から晩まで休まず練習と実戦をしても、余力が残るようになってしまった。

 今まで私の力を支えて来た強化方法が使えなくなってしまったのだ。


 由々しき事態、って言うのはこういうのを言うんだと思う。

 もうこれ以上は大幅に強くなるのが難しくなってしまった。

 私はまだグレートソードにふさわしい力を得たとは思ってないのに。もっと、さらに、はるかに、上があると思っているのに。


 父さんと母さんが私の成長を喜んでくれたのに、これ以上成長できないなんて、なんだか申し訳ない。

 グレートソードのためにも、両親のためにも、私はまだまだ歩みを止めるわけにはいかないのだ。


 って言っても、どうすりゃいいんだろなー。


「うーん……うーん……なーんにも思い浮かばーん!」


 布団にくるまりながら、私はずーっと煩悶していた。




 私はその日夢を見た。私は夢の中で4歳だった。


──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・


 3歳の頃から、一日たりとも休まずグレソの柄を掴み、力を込め続けている。


 柄を両手で持ち、地面に横たわっているグレソに力を込める。

 最初は全然持ち上がらなかったが、根元から少しずつ地面から浮くようになっていき、今ではあと少し、刃の先端を地面から持ち上げれば、完全にグレソを自分の力で持つことが出来るようなところまで来た。


 誕生したばかりのころよりずっと体も大きくなったんだ。母親よりもっと白銀で、かすかな青みを帯びた銀髪も伸びた。それだけ時間が経ち成長した。

 だから、そろそろ、グレソを持ち上げられていいはずだ。


「あと少し……あとす……こ…………ぬううううううんんんんん!」


 生まれてから一番強い力を、全身全霊を振り絞った、その瞬間。


 グレートソードの剣の切っ先が、これまでに貯め込んだ力の反動のように勢いよく地面から跳ね上がった!

──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・──・

 

 それは、初めてグレートソードを持ちあげられた日の記憶。

 その頃の私にとってグレートソードの重みが私の体への一番のイジメっ子だった。


 目が覚めた私は、それを思い出した。


「朝から最高にエウレカ気分だ」


 これぞ打開策。

 グレートソードよりもっと重いもの、重さじゃなくとももっと私をイジメるものがあれば、昔みたいに無理できる苦しめるもっと上にいける!!


 答えを見つけた。

 そして答えがある場所といえば――。


「鍛冶屋さんなら、私をイジメてくれるかも!」


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