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剣と言えば鍛冶屋

「うっわあ~、暑い」


 鍛冶場の中からは熱気が溢れ出していた。

 かまど、鍛冶台、ハンマー、水桶……実物を見るのは初めてのものばかりで落ち込んだ気分が少々高揚。


 入口の壁にもたれかかっている女の人がいることに気づいたのは、ひとしきり中を見た後だった。


「鍛冶屋さん?」

「そういうあんたはグレソちゃんだね?」

「どうして私のこと知ってるの?」

「そりゃあね、バカでかい剣かついだ女の子がいればどうやったって目にも耳にも入るさ」


 それはそうだ。

 私の正体を一目で見抜いた鍛冶屋さんは、母さんとおなじ30歳くらいに見える女の人だった。波打つ髪をバンダナで包んでいて、飴色の瞳の気だるげな視線をこちらに向けてきている。母さんと比べるとだいぶ大人って感じだ。

 

「このグレートソードを修理して欲しくて来たんだ。ここが……」

「どれどれ、ああ、欠けてるね。ふん……それ以外にも小さな傷がたくさんあるし、刃も鈍ってるじゃないか。よくこんな状態で使ってたね」

「嘘、そんなに悪いの私のグレートソード」

「ああ。だいぶボロボロさ」


 ボロボ……ロ?

 私のグレートソードが? 


「嘘……だよ……。だってグレートソードだよ?」

「何がグレートソードだよなのかさっぱりだ」

「大地が空が海が100年経っても変わらずあるように、グレートソードもそうだと思ってた」

「グレートソードが大きい剣だからってそれはさすがにいいすぎ。あんたがグレートソードに入れ込んでようが、武器は武器なのよ。欠けるし折れるし鈍るし錆びる。それが武器」

「そんなぁ」

「馬鹿力でもやっぱり子供ね。パパは強いんだって言って怪我しないと思ってるちびっこみたい。信頼し過ぎなのも問題ね」


 信頼しすぎ。

 その言葉が私の胸に刺さった。


 私はグレートソードのことを理解してなかったのかもしれない。崇拝しすぎて、無謬だと思い込み、本当の姿を見ようとしていなかった。きっとそれはダメな愛の形だ。

 ちゃんと見なきゃいけなかったんだ、グレートソードのこと。


「あー、そんなシュンとすんな。落ち込んでるチビほど始末に負えないものはないんだから。武器ってもんは無敵じゃないけどその代わり直せる。これくらいならすぐさ」

「できるの!?」

「できなきゃ鍛冶屋やってないよ。ほら、あの台の上において。あたしにゃ重すぎるからあんたも手伝ってよ、グレソちゃん」


 そこからの手際は見事だった。

 鍛冶屋を見たのは初めてだったけど、それでもわかる作業が完璧だってこと。

 重すぎるグレートソードを動かすのを手伝いながら近くで見てたら、その手つきに惚れ惚れしてしまったな。

 しゅごい……って馬鹿みたいに口をぽかん開けしてたら修理が終わっていた。


「ほら、完成だ」

「お、おお……なんだこの滑らかさは!鋭さは!美しさは!」


 手触りも色合いもさっきまでとまるで違う。生まれ変わったかのようだ。

 刃も研ぎ澄まされていて、光をチカチカ反射するのがきらめく水面のように美しい。


 はぁぁぁぁぁん……。


「うっとりしてるところ悪いが、そのグレートソード、結構限界かもね」

「ええっ!?」

「グレソちゃん、あんたは強くなりすぎた。剣があんたの力に耐えられなくなってきてるのさ。欠けたのはそのせい。このままじゃちゃんと使ってもいずれもっと損傷する」

「えええっっ!?!? 私のせい!?」

「分厚い鉄の塊みたいなもんだから普通は壊れたりしないんだけど……ちょっと想定外だね」

「ど、どうにかならない?」

「あんた、落ち着いてるくせにグレソのことになると急に年相応になるね。面白いじゃない」

「面白がってる場合じゃないのだが!」

「はは、悪いね。でも解決策は簡単だ、もっと強化すればいいのさ」

「もっと?」

「そうさ、もっと強い素材で補強すればいい。世の中には色々な素材がある。魔法銀、龍鱗、オリハルコン、ダマスクス、アダマンタイト……ま、グレートソードに合う合わないはあるけど、いい素材があればより強いグレートソードになるよ」


 そうか。

 そうだよ。


 そうだった、グレートソードだって強化できるんだ。グレートソード+1にしていいんだ。現状で十分重くて強いからその発想が出てこなかったけど、強くしていいんだ。

 どんどん強化してグレートソード+100を目指したっていい。いやむしろ、グレートソードを最強にしてあげるために、目指すべきだ。そうじゃないか?


「まあ、一番いいのは巌鉄(げんてつ)かな。いわおのように固く重く頑丈な鉄だ。切れ味よりパワーと耐久度を重視したい時に使う素材さ。きっとあんた好みだろう?」

「最高に好み!」

「よし、じゃあ今度エルドアに行った時にでも仕入れてやる。タイミングが良ければあるはずよ」

「やったー! ありがとう鍛冶屋さん!」


 私はウキウキで、きれいになったグレートソードを肩にかついで鍛冶屋を後にした。


 あ、修理代はこれまでモンスターや野生の獣を狩ってもらったお小遣いをはたいて支払いました。




 家に帰った私の顔を見るとすぐに母さんが、


「問題解決したみたいね」

「まだ何も言ってないよ」

「そのニコニコ顔見れば誰でもわかるわよ」

「おっ、なんかいいことあったのかグレソちゃん」


 木こり仕事から丸太をかついで帰ってきた父さんがそう言ったのを見て、母さんが笑顔になる。


「ほらね?」


 私は二人に鍛冶屋であったことを話した。

 特に父さんは修理したグレートソードを見ると感心した様子で、


「い~い仕事してるな。やっぱりあの鍛冶屋、ただものじゃないな」

「うん、オーラを感じた」

「王都で武器や防具をバリバリ作っててもおかしくない腕前だと思うぜ、あれは。元冒険者として色々武器防具見てきた俺の目によればな」


 手際がいいと思ったけれど、やっぱりすごい人だったのか。

 そんな人にグレートソードの面倒見てもらえるとは、私ってなんてラッキー。


「……しかし、グレートソードの方が耐えられなくなるほどの力とは、グレソちゃん、本当に強くなったんだな」

「うん。毎日朝から晩まで練習したり戦ったりしてるからね」

「そうか……そうだよな……」


 父さんは腕を組んで何やら考え込み始めた。どうしたというのだろう。娘がダブルピースで日々の努力をアピってるというのに。


 と思っていたら、父さんは物置に突然歩いていった。

 後を追っていくと、一本の銀色の剣を取り出し、スラァと流麗な動作で刃を抜いた。


「よっしゃグレソちゃん、パパと一本勝負だ!」

 


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