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山に登って降りた後

 私は11歳になった。


 初めてグレートソードで生き物を斬った7歳の頃から4年がたち、今では私は、


「おいで、サイクロプス」


 1つ目1つ角の巨大な悪鬼、サイクロプスと対峙している。




 ここは森の奥のさらに奥にある山々の一つ。

 人の領域から外れた深山幽谷は、強力な魔物たちが互いを喰らいあっている魔境だ。

 そこにきた私はサイクロプスと遭遇し、サイクロプスは私を見るやいなや拳を振り下ろし私を肉塊に変えようとしてきた。 


 私はグレートソードの腹で拳を受ける。

 ガン、と硬い音が響き、柔らかな地面に足がめり込む。

 が、そこで拳は完全に止まった。


 私は剣を振り払い、拳を弾く。

 サイクロプスがよろめく中、肩にグレートソードをかついで構える。

 そして、今度は両手を組んで叩き潰してきたその腕に、グレートソードを片手で薙ぎ払った。


「グオオオオオオ!」


 斜めに潰し切られた二本の腕が宙高く舞い、巨鬼の鳴き声が山にこだまする中、私は木の幹を枝を利用し高く跳び、サイクロプスの頭上から兜割りに一刀両断した。


 二つに別れた巨体が倒れ、地面を揺るがし、リスが小鳥が逃げ出していっている。慌てててかわいい。


「肩スタイルもすっかり板についてきたな」


 私の目標、グレートソードを片手でもって肩に担ぐ、今では完璧にできるようになった。これも毎日の鍛錬の成果だ。

 このスタイルのいいところは、移動からシームレスに攻撃に移れること。両手で構えなくていいから不意の戦闘に強い。森でも山でも深ければ深いほど敵を発見しづらくなるから、格好いいだけじゃなく実用性もある。


 そしてそんなスタイルで強い魔物とグレートソードで戦えるし、そんなモンスター素材で家族を助けられる。なんて充実したグレソ生活。


「えーと、魔法の目薬に必要なのはサイクロプスの目玉だったな。……あ。半分に両断されてる。ま、いっか。錬金術するときってどうせ煎じたり煮たりするんだし同じことだ」


 目玉と、今必要とは言われてないけど一応角も使えるらしいので素材袋に入れて、今日のミッションはコンプリート。

 ロソク村に帰るとしよう。




 山を降りて、森を歩き、村に帰ってくると、農作業をしているおばさんや、家の雨漏りを直しているおじいさんの姿が見える。

 結局こういう光景が一番気が休まるのかもな、人間って。


「あらグレソちゃんお帰り! 今日も山に行ってきたの?」

「うん、パンおばさん。サイクロプスを倒して錬金術の目を取ってきた」

「すごいわねー、ちっちゃいのに大きい魔物を倒して。おばさんも体鍛えようかしら」

「本当!? グレートソード一緒に担ごう。おばさんも絶対格好よく斬れるよ」

「あらあら本気にしちゃうわよ、おほほ」


「おお、グレソちゃん。今日も精が出てるのう」

「グランガッシュおじいさんこそ、足もう大丈夫なの? 屋根の上に登っちゃって」

「ふぁふぁふぁ、若いもんが朝から晩まで剣を振ってるのに、ワシがベッドに寝とるわけにはいかんからな。最近は腕力も鍛えてるんじゃよ」


 などと話したりしながら、家路を行った。

 もう私はグレソちゃんですっかり村中に定着してる。グレートソードの名が広まって実に喜ばしいよ。

 そこら中をグレートソードを担いで歩き回ってるおかげかな。あ、言うまでもなく私はどこに行くときもグレートソードは持って歩いている。だってグレソちゃんだから。 


「ただいまー。とってきたよサイクロプスの目玉」

「お帰りなさい! 怪我なかった?」


 家に帰って、成果を母さんに見せる。

 生まれた時から10年たったけど全然変わってない。優しい目もきれいなプラチナブロンドの髪の毛も。なんならますます艶やかになっている気さえする。


「心配しなくても、もう山なんて何十回も行ってるし何百体もモンスター倒してるって」

「それでも心配しちゃうものなのよ、女親っていうものは。それにグレソちゃんのかわいい顔に傷がついたら大変」

「でも顔に十字傷があっても、グレートソードに似合う気がしない?」

「頼むから格好良さのためにそんなことしないでね。やりかねないわあなたなら。……うん、生きの良い目玉ね。二つに割れてるけど大丈夫、どうせすり潰すから」


 よかった、目玉は問題なかった。

 目玉をすり潰すのは想像するとちょっとゾッとしないが、魔法使いなら日常茶飯事なんだろうな。


「あら? グレソちゃん、今日の剣、ちょっと変じゃない?」

「え? 変? どこが?」

「ちょっとよく見せて……って手渡しちゃだめー! ママの力じゃ持てないんだから! ……ほら、ここ欠けてる」

「またまたー、グレートソードが欠けるなんてそんなことあるわけ………………え?」


 母さんに言われて見た部分の刃が、小指の爪くらいだが本当に欠けていた。


 欠けていた。


 馬鹿なっ!?


 最強無敵のグレートソードが欠けるだと!?

 そんなわけがない!


 目をこすって水桶で顔を洗って3分目を閉じて眼精疲労を取って、もう一度見てみる。


 やっぱり欠けていた。

 何度見直しても破損していた。

 あ、あ。


「う、うわああああああああ!!!!!」

「落ち着いてグレソちゃん! 剣は折れても心は折れちゃダメ!」

「はぁ……はぁ……グレートソードが……あああグレートソードがぁぁぁ」

「大丈夫よグレソちゃん、剣は直せるんだから。うちの村にも鍛冶屋さんがいるの、ママも包丁や魔女の釜を修理してもらったんだから」

「そっ、そうか、そうだよねお母さん。直せばいいんだ」

「そうよ、はい深呼吸。すー、はー」


 すー、はー。


 ふぅ、なんとか落ち着いてきた。たしかに剣と言えば鍛冶屋だ。

 鍛冶屋に頼めば修理してもらえる。

 希望の光が輝き出したぞ、グレートソードに反射する夕日の陽光のように!


「うん、行ってくる!」

「今日はもう遅いから明日にしなさい! 鍛冶屋さんも閉店よ!」




 翌朝、蜂蜜入り麦粥の朝ごはんを食べると、早速私は母さんに教えてもらった鍛冶屋の場所へと向かった。

 村の一番奥でひっそりとやっているらしいが、村唯一の鍛冶屋なので、包丁や農具やその他諸々の修理や制作に大人たちはそこそこ利用しているらしい。


 そこに向かう私は、ずっとうつむいていた。


 ショックだ。

 グレートソードは修理できる。それはそうだけど、折れてることに私が気づかなかったことがふがいない。いつも一緒にいたはずのグレートソードの悲鳴に気づけなかったなんて自分自身が情けないよ私は。

 いつから折れてたんだ? 無敵のグレートソードが折れるような何を、いったい私はやらかしたんだ?


 頭の中をぐるぐるさせながら歩いていると、もくもくと煙をはく煙突が見えた。


 あれがロソク村の鍛冶屋さんだ。



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