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グレソちゃんが破壊します!

「初めてだなー、一人で森に入るのは」


 ロソク村はなかなかの僻地にあり、村の周りは深い森に囲まれている。さらにその森の奥には山々が連なり、山と森に囲まれて、西側へと伸びる獣道みたいな街道だけが他の村とのつながりだ。なかなかにド田舎だ。


 ただそれは裏を返せば、山や森の恵みはたっぷりあるということ。シャーク父さんや他にも何人かの腕自慢の村人は、森で獣を狩ったり、森に詳しい人がキノコや山菜や果物をとってくる。


 私もそういう美味しい物をたらふく食べさせてもらって肉を鍛える元にさせてもらってるわけだし、その一助になろう! ってわけで森に入ったんだが……。


「案外、獣っていないんだな」


 森に入ったからといって、10mごとにエンカウントするということはないらしい。

 アクションRPGの森ステージならそこら中にモンスターや野獣が配置されてるんだが、現実はもっと密度が低いようだ。


「早く何か出てこないかな。グレソちゃんがグレソを持ってやってきましたよーっと」


 なんて言ってたら、マジに出てきた。

 大イノシシが。


 鼻先を泥まみれにした、大きな牙を持ったイノシシが、フゴフゴ鼻を鳴らしながら、私にゆっくり近づいてくる。

 私はグレートソードをゆっくりと構え、戦闘に備える。

 奇妙な緊張感が私たちの間に張り詰める。


 イノシシがいきなり遮二無二爆進してきた!

 私はグレートソードを、巨大な鉄塊を、振り下ろす。


 パンッ!


 およそ刃物が命中したと思えない音が静かな森に響き渡った。


 0.1秒のディレイの後、ベチャグチャと音を立てて、イノシシの中身が周囲の木に張り付いた。


「うわっ…………」


 私は思わず顔を背けてしまった。

 

 それは、切断などではなかった。

 グレートソードの巨大な質量と、それを振り下ろす力は、対象を完全に破壊した。

  

「そうか、そうなるか」


 生き物の死体は、こっちに来てから割と見慣れていた。

 飼ってる鶏も、野生のイノシシや鹿や熊も、ここではそれらを食べるなら当然自分たちで解体するしかないわけで、私はそれを目にしたことも何度もある。


 だからこの光景にもえづいたりはしないが、 でもそういうのを何度も見てきた私でも、こんな悲惨な状態の獲物は見たことがなかったから少しショッキングだ。


 ちょっとゾクッとするけど、バラバラに飛び散ったイノシシの肉塊を集めよう。じゃないと村に狩りの成果を持ち帰れないし。


 ゾクッと……そう、ゾクッとしたんだよ、私は。


 だがそれは凄惨な光景を見たことだけだろうか?


 違う。

 グレートソードの真価を、初めて目にして私は全身ゾクゾクしていたんだ。

 

「これが、(グレートソード)か」


 グオオオオオオ!


 血の匂いを嗅ぎつけた巨大な熊が現れた。

 私が倒した獲物を横取りしようと、2m以上ある巨体で向かってきて、鋭い爪の生えた手を私に振り下ろす――より早く、私はグレートソードを熊の脳天めがけて振り下ろした。


 ずっと村の中で素振りをしていたから気づかなかったが、私の速さと重さはすでに熊をも超えていたらしい。

 私とグレートソードにより先程の破壊が再演される。毛皮は破られ肉は断たれ骨は砕け、その全ては圧倒的な運動エネルギーによって周囲に吹き飛ぶ。それはさながら、爆弾が熊の体内で炸裂したかのようだった。


「鍛錬の成果が確認できる瞬間っていうのは気持ちいいものだ。グレートソード、君とともにあってよかった。そして猪と熊に感謝を」


 周囲から肉や皮を拾い集め、私は村へ引き返した。


 村に帰り着いた頃にはもう夕方だった。

 家の近くまでいくと、外で待っていてくれたオルフィ母さんとシャーク父さんが私を見つけて走ってきた。


「良かったぁ、無事で! 大丈夫だったグレソちゃん?」

「うん、大丈夫だった」

「いや、すごい血じゃねえか! ……ってこりゃ返り血か? 傷はもしかして全然ない!?」


 父さんがいったん驚いた顔をした後、冷静になり、また驚いた。


「おいおい完全に無傷って本気かよ、獣に負けるこたないとは思ってたけど、そこまでとは、すげえな。村の大人より強いぞふっつーに」

「やっぱりグレートソードってすごいんだね」


 「いやすごいのはグレソちゃんの力じゃねえかな」と言う父さんを尻目に、獲物を入れた背負いカゴを私は背中を傾けアピールアピールする。


「それでやっつけた猪と熊の肉を取ってきたよ! これでお肉食べられるでしょ。皮もあるんだ。私もお仕事して父さんと母さんの手助けできた」


 母さんと父さんは二人で目を見合わせた。と思った瞬間、母さんが私をぎゅっと抱きしめた。


「そのために森まで行って、こんな泥だらけ血だらけになってくれたの? もう……グレソちゃん、あんまり泣かせないでよ」


 抱きしめられてる私の頭を父さんが手でぽんぽんとする。


「俺達のこと助けてくれようとしてくれたんだな、サンキューな、グレソちゃん」


 ……ああ、こういうのも幸せの形なのかもしれない。

 

「ところでこのカゴの中は……ゲッ」


 優しい目で肉片の入ったカゴを覗き込んだ父さんが顔をしかめた。


「なっ、なんだこりゃ!? バラッバラじゃないか、どうしたんだ?」

「切り刻んだわけじゃないよ。グレートソードで思い切り斬ったら、一振りでそんなふうになっちゃった」

「どれどれ……わあ、ものすごく肉片ね。あんな重たいものを毎日ずっと素振りしてたものねぇ。これくらい力持ちになるわけよ」

「グレートソードって使いこなすとすげえんだなあ。冒険者時代の仲間でもこんなんなかなかできる芸当じゃないぞ、さすが俺の娘だな!」


 ひかれるかと思ったけど、むしろ娘の成長を喜んでるみたいでよかった。

 さらに近くを歩いていた村人のおじさんやおばさんも、私たちが騒いでるのを見てよってきて、


「へー、こんな小さいのに森に行って狩りを? えらいねえ」

「熊と猪をこんなになるまで狩ったのかよ! もう一人前の猟師だな!」

「いやいや一人前の猟師ならもっと肉や皮をキレイにとらなきゃあだめだ。おじさんがうまいやり方教えてやる」


 などと盛り上がっていた。

 暖かい人たちに囲まれて私ってとっても幸せ者だなって。




 その日の夜ご飯は、私が狩ってきた肉で美味しく楽しく盛り上がった。

 あんなバラバラになってても、なんとかできる村の大人たちはすごい。


 その後寝る時間が訪れた。

 ベッドの隣においたグレートソードを触りながら、私は昼のことを思い出していた。


「猛獣を一閃で倒すことができた。グレートソードの力を存分に発揮することができた。きっと、この子も満足してる」


 ちゃんと私が強くなれてることも、グレートソードを実戦で使えることもわかった。

 朝から晩までグレートソードのポテンシャルを引き出すために費やしていたのは間違いじゃなかった。

 決意はなおさら固まった、実際に戦いの中でグレートソードを使ったことによって。

  

 でも、まだまだ足りない。

 だって、グレートソードは片手で軽々と振るうのが一番格好いいんだから。

 巨大な剣を肩に担いで、それをぶんと振り回す。

 それこそグレートソードの至高の構えというもの。


 それを完璧にできるまで、私の練習はまだまだ続く。


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