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グレソちゃんと呼ばれた娘

 ロソク村は田舎の農村で、空き地はそこら中にある。

 私は家の近くのアザミが咲いている空き地で、刀身が地面についたグレートソードの柄を両手で握りしめていた。


 ぐっと腰に力を入れて、剣を持ち上げる。

 グレートソードの鉄塊のような刀身が、重力に逆らいゆっくりと上がっていき、私の眼の前に真っ直ぐ立った。


 ここまでやれるようになるまで1年かかった。

 きっちり剣を構え、その状態でふらつかずに止める。それだけでもこのグレートな剣でやるのは簡単なことじゃない。

 

 でも、生まれた頃からグレソに触れてたおかげで今では完璧にできるし、それに、


「はぁっ!」


 構えたグレートソードを振り下ろす。

 巨大な質量が空気を揺り動かし、砂煙が巻き上がり雑草が千切れて舞い上がった。

 私の服も風圧ではためき肌に風がそよぐ、この感覚がたまらないんだ。巨大な質量を扱ってるというのをまざまざと感じられる。


 振り下ろしたグレートソードも、ぴたりと先端を私の前方へと向けて止まっている。

 こうして素振りした剣をきっちり止めるのはさらに大変だった。まっすぐ構えられるようになってからさらに1年かかった。


「こんな質量だからな、慣性もとてつもない。でも、ううん、()()()いい」


 再び剣をまっすぐ縦に構えなおし、また縦に振る。

 こうしてグレートソードを素振りするのは、毎日の日課だ。最初は一振りで肩が外れてシャーク父さんにはめてもらったりもしたが、今ではそんなこともなく、何回も繰り返し素振りができる。 

 自画自賛みたいで何だけど、子供の成長は早いなあって。


「はっ! はっ! はっ!」

「今日も頑張ってるわねぇ、グレソちゃん」


 素振りをしていると、オルフィ母さんが声をかけてきた。

 魔力を込めた肥料を作って、同じ村のバイトさんちに持っていった帰りみたいだ。代金にプラスして、あの家がたくさん育ててる大鶏の卵をお裾分けしてもらってる。


「うん。グレートソードを使いこなすにはたくさん練習しなきゃいけないから」

「毎日朝から晩までずっとやってるものねぇ。さすがグレソちゃん」


 さすがグレソちゃん。


 そう、朝から晩まで毎日グレートソードばっかり触っているから、いつしか両親からグレソちゃん、と愛称で呼ばれるようになっていた。

 それが村の人にも広まり、今では皆が私をグレソちゃんと呼んでいる。油断すると本名を忘れそう、フローラ……いやフローレスでした、なんとかまだ覚えてるな。

 

「大好きだからね、グレートソード」

「でもどうしてそんな元気なのかしらねぇ、子供は元気いっぱいなものだけど、疲れてぐずるのも子供なのにグレソちゃん全然そんなことないものね。やっぱり……」


 オルフィは私に近寄ると、両手を広げてぎゅっと抱擁してきた。 

 私はグレソが当たらないようにそっとわきに動かす。


「う~ん、すべすべでぷにぷに~。それに、マナの器が大きい気がするわね、だからすぐ元気になるのかもねぇ」

「わかるの?」

「全身でくっついたらなんとなーくね。ママは魔法得意だから」

「すごーい。それって、たくさんグレートソードの練習してもすぐ元気になってまたできるってことだよね」

「ふふ、そういうこと。グレソちゃんはきっとママとパパだけじゃなく大地神様からも愛されてるわ」


 オルフィ母さんは私の頭を撫でると、卵を持って家へと入っていった。

 私は再び素振りをはじめ、前に聞かされた話を思い返す。


 マナ……それは、大地に満ちるこの世界の神秘の源で、大地の魂とも言われているそうだ。

 戦士が発揮する大きな力や、魔道士の使う魔法、それらはこのマナを人が意識的あるいは無意識に利用していることによって可能になっている。 


 私はその容量が大きいらしい。

 といっても、生まれた時は普通の赤ん坊くらいの力しかなかった。だから器の大きさと、実際にそれが満たされてるか、力として利用可能か、はまた別なんだと思う。


 仮説を立てるなら、転生したからってことかな。

 私の肉体は、普通ならこの世界の魂が宿るところを、異界の魂を受けいれた。

 魂とマナが似たものであるなら、乾いたスポンジが濡れたスポンジより水をよく吸収するように、()()()()()()()()()私は、大地からマナを吸収しやすいんじゃないかな。


 多分それがオルフィ母さんが感じた器の大きさの正体だ。知らんけど。


 で、私はグレソに出会った頃からずーっとグレソを使うために肉体の限界いっぱいでやってきてた。からからになった体に大地のマナがドバドバ入ってきて回復と強化がなされる→さらに強度の高いことをやれるのでさらに肉体が虐められさらにマナが入ってくる。 

 というループでどんどん体の中にマナが凝縮され、七歳にしてグレートソードを振れるようになれたんだと考えている。知らんけど。


「合ってる保証なんてどこにもないけど、なんであれグレートソードをこうして振れるなら私はOKだ。はぁっ!」


 さらにもう一素振り!

 グレートソードは一振りでも全身が軋むほどの負担があるけど、だからといって、だからこそ、やり続けなきゃいけない。

 だって、グレートソードを持つ者が軟弱だと、グレートソードに対して失礼だ。人生において大事なことは敬意だ。グレートソードに経緯を払うんだ。


 それに……私が成長すればするほど両親も喜んでくれるしね。

 父さんと母さんはいつも大げさなくらいはしゃいでくれる。

 赤ちゃんの頃から世話して、何かあるたびに笑ったり泣いたりしてくれた父さんと母さんには喜んでもらいたい。

 だから練習に妥協は……せん!


 ブンッ! と空を斬る音がした。


「ただ、父さん母さんを助けたいっていう気持ちもあるんだよな」


 年齢は子供だけど、力は十分あるんだ。グレソを素振りできるくらいの力は。

 だったら私だって少しくらい働いてもいいはず。


「それに、もし私のグレソ理論が正しければ、やればやるほど、この体を虐め抜くほど強くなれる。それなら、よりハードなことをした方がいい」


 私は視線を村の外へ向けた。

 そこには鬱蒼とした大森林が広がっている。


 野生の動物やモンスターが生息している森だ。

 そこで狩りをすれば、私は自分をハードに鍛えられて、狩りの成果で父さんと母さんも喜ぶ。みんなのハッピー世界が訪れる。


「よし、決めた! 森に行こう!」


 私はグレートソードを抱えて森へと駆ける!


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