この手に握るために
グレートソードが好きな理由?
そんなの決まってる。でっかい剣を振り回すのはロマンだからだ。
それ以上の理由がいるか? いらないよなあ!
理由がシンプルであればあるほど、思いは強くなるものだ。
俺は武器があるゲームじゃ絶対にグレートソード、直接その名の剣がなければ巨大な剣を使っていた。
そうだ、この世界は剣と魔法の世界なんだ。
だったら、グレートソードが現役で活躍していても、おかしくは、ない。
暇さえあればグレートソードを見に行き、触れて何ヶ月か過ごし、今では生後8ヶ月まで俺は成長した。
相変わらず歩けないのでこの世界の様子はよくわからないが、両親のことはある程度わかってきた。
母親のオルフィ、父親のシャークはともに21歳。
一家はルソク村という農村に居を構えている。
オルフィは魔法使いらしく、魔力で強化した肥料を作ったり、魔法薬を作ったり、時には土を操って村の農作業や土木作業を補助する仕事をしている。
シャークは戦士であり、狩りをしたり木こりをしたり村の周りを覆い尽くすほどの広大な森が仕事場のようだ。 特に狩りをすることが多いらしい、たまにはモンスターと戦うこともあるみたい。
俺が生まれる1年ほど前にここに移住して、それまでの人生で培った魔法や戦術のキャリアをこの農村で活かしているということらしい。
ここの農村では概ね平和に日々を過ごしているようだ、もちろん俺も。
「シャーク! 剣を立ててたら危ないって言ったじゃない。フロちゃんはグレートソード大好きなんだから」
「はは、赤ん坊が触ったくらいじゃ倒れねえってこんなデカくて重いもん。鉄の柱みたいなもんだからな」
今日は玄関の直ぐ側にグレートソードが立てかけてあった。
立ってる状態のグレートソードは珍しく、倉庫に向かう途中に見つけた俺は間近でじーっと眺めていたのだ。
「本当かしら……そもそもどうして倉庫から出てるの?」
シャークは俺に視線を落として答える。
「ほら、こいつがいつもグレートソードで遊んでるのを見てたら、俺も久しぶりに振ってみようかなってな。いやー、やっぱ重いなこれ。一回素振りしただけで肩が抜けるかと思ったわ」
「冒険者やってたのなんてだいぶ昔なんだから無茶しちゃだめよ……あら?」
しっかし、本当にでっかいな。
刀身だけで母オルフィより大きいし、柄まで含めれば父シャークより大きい。
鞘代わりに布が巻かれているのもクール。
素晴らしすぎる、と俺は心奪われていた。
グレソが……グレソだ……グレソを……。
俺は、吸い寄せられるようにグレソに近寄っていき、そして――。
「おい見ろよオルフィ! フロが!」
「あっ!? 立ってる!! フロちゃんが立ったわ!」
グレソに捕まって俺は立ち上がった。
これが俺の初めてのつかまり立ちだった。
――生後10ヶ月――
「うー……うー……」
「ねえあなた来て! この子が何か喋りそうよ!」
「なんだと!? ついにか!?」
誕生して10ヶ月たったある雨の日の午後、俺は自分の喉に確かな手応えを感じていた。
これまでバブバブしか言えなかったが今なら……今なら声が出せる気がする。
オルフィが俺を抱き、シャークはそこに顔を近づけ、ふたりとも俺の口元を期待の眼差しで俺を見つめている。
「やっぱり最初の言葉はママよね!」
「いーやパパだね絶対!」
なんて対抗してるのも微笑ましいな我が親ながら。
しかし俺は意識して言葉を紡ぐことはできそうにない。
まだ喋ったことのない俺の声帯は、自由に言葉を操れるほど器用じゃない、胸の奥にある大きなものを無我夢中で吐き出すようにしなければ第一声は出てこないようだ。
だから俺は俺の心のままに大きく口を開き。
「くるわよ」「くるぞ」
両親が見守る中、生後初単語を発した。
「グ・レ・ソ」
2年と少しの月日が流れ、俺は3歳になっていた。
今日も家の物置で、グレソの柄を掴んで、
「んんんんんんんん!!!!」
ダメだ、持ち上がらない。
3歳になればもう自由に歩き回れるから、毎日グレソを持ち上げようと頑張ってるけど、いまだに柄をちょと持ち上げるのが精一杯で、刀身を浮かせるには足りてない。
「はっはっは! 今日も頑張ってるな!」
「うん。絶対持ち上げる」
父シャークが頭を撫でながらグレソを掴み、力むと先端が少し持ち上がった。
「パパすごい!」
「ふっ……パパだからな。フロもパパみたいに強くなれるよう頑張れよ!」
「うん!」
環境が人間を作るとは言うが、俺も子供っぽく振る舞うのが今ではもう板についてきた。
それにパパすごいというのは本心だ。
グレートソードを振れる男は格好いい。ママが好きになったのも当然だな、うん。
俺は毎日グレートソードを持ち上げようと試みた。全身全霊体をバネにして剣の全てを宙に浮かせようと力を込めるが、しかしグレートソードはあまりにも重すぎた。ずっと持ち上げられないまま一年が過ぎた。
そして俺は4歳になっていた。
「あと少し……あと少し……」
両親は俺がグレソ大好きなことはもう赤ちゃんの頃からはっきりとわかっていて、グレソは俺のためのオモチャにしてくれた。怪我をするような使い方もしないと信用してくれてるみたいだ。理解のある両親で助かる。
俺はそれを今日も今日とて持ち上げようとしている。
3歳の頃から、一日たりとも休まずグレソの柄を掴み、力を込め続けている。
柄を両手で持ち、地面に横たわっているグレソに力を込める。
最初は全然持ち上がらなかったが、根元から少しずつ地面から浮くようになっていき、今ではあと少し、刃の先端を地面から持ち上げれば、完全にグレソを自分の力で持ち上げたといえるようなところまで来た。
誕生したばかりのころよりずっと体も大きくなったんだ。母親よりもっと白銀で、かすかな青みを帯びた銀髪も伸びた。それだけ時間が経ち成長した。
だから、そろそろ、グレソを持ち上げられていいはずだ。
「あと少し……あとす……こ…………ぬううううううんんんんん!」
生まれてから一番強い力を、全身全霊を振り絞った、その瞬間。
グレートソードの剣の切っ先が、これまでに貯め込んだ力の反動のように勢いよく地面から跳ね上がった!
重たいグレートソードの慣性は制御しきれず、勢いのままに切っ先は頭の上を通り過ぎ後にいき、背後の地面を勢いよく抉った。
同時に俺の体もグレートソードに振り回されて空中回転し、
「ぎゅっ!」
地面に落下し、その勢いのままにグレソのわきをぐるぐると後方でんぐり返しすることになった。
いったたたた……。
持ち上げたはいいけど制御することはできなかった。
でも! ついに! 間違いなく!
グレートソードを持ち上げられたぞ!
「おい! 今の見たよな!? グレソ持ち上げたよな!? それで勢い余って後に転がったよな!?」
「ええ。ちょっと信じられないけど、フロちゃんいつの間にか力持ちになったのね」
「あっ! パパとママ見てたんだ。すごいでしょ!」
さりげなく両親も見守っていたらしい。
怪我してないかと聞きつつ、めちゃくちゃ褒めてくれた。
そして、ついに俺はわかった。
グレートソードは、やはり素晴らしいって。
持ち上げた瞬間、グレートソードの勢いにつられて体がふわっと浮き上がった瞬間、えもいわれぬ高揚感があった。一体感があった。
なぜ俺みたいなどこにでもいるありふれた一般人が転生したのかわからなかったけど、あの瞬間にわかったんだ。
俺はグレートソードをこの手に握るために転生したんだ、と。
――それからさらに3年の月日が流れた。
私は7歳の誕生日を迎えていた。




