籠手、完成
「見つけたよ! 鍛冶屋さん!」
ノエルと共に鍛冶場の隣の家に入ると、鍛冶屋さんがバンダナを外したところだった。
波打つ髪がふわっと広がり、汗がきらきらと散る。ついさっきまで熱い鍛冶場で作業していたんだろう。
「ご心配、かけちゃいました~、あはは」
ノエルが頭をかきかき低姿勢で言った。
「気にしなくていいよ、たいして心配してないから」
「ひどっ!? ちょっとはしてくださいよアングルさん!」
「アングル?」
「鍛冶屋さんの名前だよグレソちゃん。アングル・トーア、32歳、女性」
アングルは椅子から立つと、棚から小さな布と革と鉄板を取り出してきて、テーブルの上においた。キレイな青色に染まっている。
「乙女の年まで言ってんじゃないよ小娘。だけど、あんたがもってきた染料、いい染まり具合だ。試してみたけど、布でも金属でも染められる特別なやつって触れ込みは本当だった。これなら買わせてもらうよ」
「ありがとうございます! ここまで来たかいあったぁ。これでお小遣いもたんまりもらえる」
スレッタ村名産の染料のセールスにここに来て、実際の具合を試してから買うということで、それをやってる間の時間が暇だから森に入っていたらしい。
ノエルは一家で染料づくりをしていて、お小遣い制のようだ。
「そんで、グレソちゃん、あんたの方も出来上がったよ。こいつだ」
後ろにあった箱の中から抱えるようにしてアングルが持ってきたのは、籠手だった。
作りたてなのに淀んだ灰色なのは特殊な混ぜものが入ってるからか。
「か……格好いい……!!」
見るからに重厚な作りの籠手。
グレートソードとあわせて装備するのにふさわしいと一目で私は理解した。
「すごい! ……でも、忘れてたんだけど、代金は?」
「やるよ」
「え?」
「そいつはやるって言ったんだ。材料の中で高いもんはあんたの持ちこみだし、残りの材料費はその小娘を探した駄賃ってことにしといてやるよ」
「いいの!? でも、アングルの作業料は?」
アングルはパイプに火をつけると、じっくりと味わって一口吸った。
「久しぶりだったね、こんなに熱かったのは。この熱を思い出させてくれたのが代金だ。強いやつのために強い武具を作るってのはいいもんさ。ああ、そうだったよ」
「アングル……」
「ただし、今回だけ。次からは金取るから、ちゃんとお手伝いして小遣い貯めときな。いいね」
「はい!」
鍛冶屋アングルにはこれから何度もお世話になるだろうけど、うまくやっていけそうな気がする。グレートソードが繋ぐ絆、だね。
と、ノエルも籠手に興味津々のようで、
「へー、すごいなあ。これが森で話してくれた、つけると重くなる籠手? どんなのか私もつけてみたいなー」
「馬鹿、やめろ! 手首から先の骨がなくなってもいいのか」
ノエルが手を伸ばしたのをアングルが払い除けた。
ノエルは目をパチパチさせて。
「手首の先がなくなる?」
「重くなる、なんて言葉じゃ足りないよとてもとても。サイクロプスみたいな巨人の”重み”が籠もってるんだから。サイクロプスを手のひらに乗せてると想像してみな、常人じゃ装着けただけで粉砕骨折肉体崩壊は間違いないね」
「なんでそんな装備の製法があるの~!?」
「そういう罠を仕掛けたい人ってのが世の中にはいるのさ。いろんな事情でね。そういう裏の鍛冶にも需要があるんだよ。本来はこれは不用意に装備したものを始末するための製法なんだから」
私も目をパチパチさせた。
思ったよりだいぶヤバそうなんだけど……手のひらにサイクロプスて。始末て。
「ふふ、怖気づいたかい? ま、あんたならいけるさ、たぶんね」
「……面白い。それくらいじゃなきゃあ鍛えることにならない!」
「よく言った! じゃあね、グレソちゃん。一応着用するときは、広くて地面に近いところで身につけなよ。周りに物があると危ないかもしれないから」
「わかった、家の庭でつける。ありがとうアングル!」
私は籠手を抱えて、鍛冶屋のドアを開いた。
手に持っているだけだと、ごく普通の籠手の重さと変わらない。
これがどうなることか、楽しみなような怖いような気持ちだ。
「じゃあねグレソちゃん。また会おうね、タンポポ見せてあげるから」
「たはは……」
11歳!
なんだが!
そして手を降るノエルに別れを告げて、私は家へと帰っていった。
次に会う時はノエルに大人な私を見せてやるか、と思いながら。
じゃなくて。
籠手の効果を楽しみにしながら。




