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ハイハイ、グレートソード

 いいね! 

 グレートソード!


 その思いは前世では常にあった。

 私の前世はざっくり言おうと思っても、特別言及することが思い浮かばないような平凡な一般男性だ。

 ただ一つ言えることは、グレートソードが好きということくらい。


 ゲームやアニメにも出てくるから知っている人も多いと思うが一応説明すると、グレートソードというのは、でかくて長くて重い剣。

 シンプルにそれだけだが、そこが最高なんだ。

 特にゲームだと、でっかいものを振り回して重厚な一撃で敵を粉砕する快感に酔いしれることができる。


 だから私はグレートソードが好きだった。

 生まれ変わったらグレートソードになりたいくらいに。


 ……それはさすがに嘘だ。

 グレートソードになったらグレートソードを振り回せない。

 私はグレートソードを使いこなし、ぶん回し、敵を叩き切りたいのだ。


 だが現実じゃゲームみたいに長さ2mの分厚い鉄の塊を振り回すなんて、人間の力じゃとても無理だし、そもそも斬る相手もいないし、斬ったら犯罪だ。

 だからグレートソードを私が振るえる日は決して来ない。


 そう思っていた。




 生まれ変わった。


 ある日気がつくと、俺の視界には見たことのない風景が映っていた。

 なんだか西洋風で古風な屋根や家具が見える。


 そして知らない男女がこっちをニコニコしながらのぞき込んでいる。

 この二人も古風な農民のような服装をしている。


「あ、起きたわよ。目をこすってるのかわいいわねえ」

「そしてぇ……はい、お目々ぱっちり! かわいいいなああ」


 ゲロ甘な声色で俺を見ながらかわいいかわいいと言ってくる。

 どう考えても一般成人男性の寝起きがかわいいわけないにもかかわらず。


 ……まさか。


 古の西洋風の物。

 やたらかわいがってくる見知らぬ男女。

 動こうと思っても体を揺するだけで自由に身動きできない。


 理解した、理解してしまった。

 俺は異世界転生して赤んぼうになっているんだ。


「おぎゃああああああ」


 驚きの声は泣き声に変換された。

 多分親である男女は、「おーよちよちお腹すいたのかなー」「それともおむつかなー」などと言っている。


 どうすんだ、これ。




 どうしようもないな、うん。


 もう転生してしまったのだ、今さらギャン泣きしようとただ赤ちゃんがぐずってるだけの話で何にもならんし、すぎたことは受け入れるしかない。

 俺は平凡だが、なるようになれの精神だけは昔から得意なのだ。


 受験は志望校に入れなかったし、就活も志望した会社どころか志望した業種にも就けなかったけど、まあそれならそれでなんとかなるやろの精神で平穏に生きてきた。

 予定外のことが起きたら、もがくよりもその状況を乗りこなす方がうまくいくってのが俺の人生で学んだことさ。


 なんで、異世界転生したからにはここで生きていこう。

 なっちまったもんはしかたない。出会いも別れもいつも突然なのだ。


 いったん覚悟を決めて観察すると、色々なことに気付く。

 窓の外で魔法を使ってる人の姿が見えたり、たまに剣や鎧で武装した人が謎の生物を獲物として棒にくくりつけて運んで来るのも見る。あれってモンスター?


 揺り籠の中で無力な赤ん坊状態では情報もあまり得られないが、まあ世界の概要はなんとなくわかった。

 いわゆるファンタジーな世界らしい。


 それに気付いた時、俄然やる気が出てきたね。

 剣と魔法といったら、科学文明に生きる現代人が一番憧れるものだからな。

 俺も絶対極めてやろうと赤ん坊の手を空へ掲げぐっと握り混んだ。


「きゃー、お手々ニギニギしてるー! かわいいーー!」


 そんなことを知らずにはしゃいでいるのは俺のこの世界での母親、

 名前はオルフィ・テッカ。


 美しいプラチナブロンドの長い髪が映える、朗らかな笑顔をいつも見せて俺の世話をしてくれる。

 最初は慣れなかったが、自分じゃ何もできないしもう受け入れた。 

 しかたねーだろ赤ちゃんなんだからよー。


「なんで俺たちの子はいつでもかわいいんだろうな。いや、俺たちの子だからかわいいのか! ガハハ!」


 青髪をちょんまげ風にした、顔に大きな傷が一つあるきっぷのいい男が俺のこの世界での父親のシャーク・テッカ。

 軽いノリで何も考えてなさそうだが、なんだかんだ俺が熱を出した時に遠くの町の医者の所まで何キロも駆けてくれたり、やる時はやる男だ。


「この子よく窓の外見てるのよ、歩けるようになったら毎日外を走り回りそう」

「いいじゃねえか、元気があって。かわいくて元気とか最強だな!」


 肩を寄せ合って話している両親。


 ……っていうかさ、俺の前世より若いよなこの二人。

 それで所帯を持って生きてるとか立派すぎるだろ。

 そんな立派なら俺もちゃんと答えなきゃだめだな、いい子にしようって思うよ。




 まあ、いい子にすると言っても世話されるだけなんだが。

 でも赤ちゃんって難しい、あんまりいい子にしすぎて大人しすぎると逆に心配される。ちょくちょく夜泣きを挟んだりして赤ちゃんっぽく振る舞わなきゃいけない。

 だが何事も慣れるもんで、そのうち赤ちゃんも板についてきた半年後――。


 祝・ハイハイ。


 いやー、ようやくできるようになりましたよ、ハイハイ。

 これまではもう自分じゃ動けないから本当退屈だった。

 いくら転生して見知らぬ世界になったって言っても、見られる範囲が狭すぎてね。もちろんたまには抱っこして外に連れて行ってくれたりはしたけど、家の中でベッドの上にいる時間がほとんどだし、やっぱり自分の手足で移動したいよな。


 ついにハイハイをマスターした俺は、ひたすらハイハイの練習をしてかなりハイスピードでハイまわれるようになった。

 そして家の中を色々動き回っていた時、【運命の出会い】があった。


 それは、家の奥のたまたま開いていたドアを見つけて、好奇心で入っていった時。

 そこには、武器や盾が置いてあった。

 そういえば、家に来た友人との会話で父シャークが昔冒険者をやっていた節を匂わせていたけど、その時のものをしまってある物置のようだ。


 いいねー。ファンタジーだねー。

 とバブバブしながら見ていたのだが。


 その時、視界に入った。

 分厚く、大きく、力強い、鉄の板が。


 それは、グレートソードと呼ばれる巨大な剣だった。




 グレートソードは、家の奥の物置で、刀身を地面に横たえている。

 俺はグレートソードが俺にだけ発する引力に引き寄せられてハイハイしていった。そして赤ちゃんなら悠々乗れるほどの広い剣の腹の上に、俺は這い上がった。

 手で、足でお腹で、全身でグレソを感じる。

 

 おお……素晴らしいぞこの大きさ、強さ、硬さ。これこそが至高の武器。


 生まれて初めての、どっちの人生の意味でも生まれて初めてのグレートソード。

 俺は興奮してグレートソードの上を何十往復もハイハイした。


「フロちゃーん……あ、こんなとこにいたのね。危ないわよここは……えっ?」

「ん? どうした? 倉庫までハイハイしていったのか元気でいいじゃねえか……って、おいおい! どこに乗ってんだフロは?」


 両親が俺を見つけた。

 グレートソードの上にいる様子を見て驚いているようだが、気にしている暇はない。

 もっと手足や腹でグレートソードの感触を味わうために這い回らなければ。


「グレートソード……あなたが冒険者の頃買ったやつよね」

「結局ほとんど使わなかったんだよなあ。持てはしたんだぜ? だから使えると思ったけど、実戦で使ってみたら重すぎてまともに敵に当てられやしない。普通の剣の方がずっとちゃんと戦えるってわかったんだよ」

「その頃からノリで無駄遣いしてたのね」

「無駄じゃねえって、ほら、フロが楽しそうにハイハイしてるだろ? 五年越しで役に立ったってこった」

「危なくないかしら」

「まあ、大丈夫だろ。刃に触らなきゃ切れないし、触ってもちょっと指切るくらいだ。むしろ強く育つさ、ガハハ」


 親が心配したり思い出話したりするのをよそに、俺はついに見つけた憧れの武器の実物の上をハイハイし続けていた。そうだ、背中でも味わうために転がってみよう。


「あ、フロちゃんがコロコロしてるわ、かわいい~~~!!!」


 母のオルフィが手を振ってはしゃいでいる。

 

 あ、フロってのは俺の名前だ。


 フローレス・テッカ。


 それがグレソと共にある今の俺。

 

やっぱり脳筋グレートソードビルドなんだよなあ。

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