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食事会


サイド・千弦


目の前の存在を見て、俺は、人間て驚いたら身動き取れなくてなるんだな。としみじみ思った。


定例の家族での食事会

場所は一流ホテルのレストラン

相応しい仕立てのスーツを身につけて各自送迎されて会場に集まる

一家団欒というには堅苦しい。


案内されて部屋に行くと、ここに居ないはずの存在がいた。

白昼夢見るほど恋しいのか?と脳みそを疑うが、相手の顔が不安気に強張っているから幻想ではなさそうだ、と思考を回す。

身につけているスーツは、次のスーツを仕立てるのに見ていたカタログで「そーくんに似合いそう」と目を惹かれていたのと同じだった。

そんな事が出来るのは

「あ、ちい!遅かったねぇ?」

のほほんとした声に振り向けば、婚約者を連れたバカ兄貴。

「…兄さん!何故「どうどう?ちいが彼に似合いそうってうっとりしてたスーツ!ばっちしでしょ?椎名君引き締まってて筋肉もあるからホント良く似合うよね!思ったより胸板が厚くてちょっと焦ったけどさぁ。」


もう、本当に、何故分かる!?

一言も口にしてないし、指先でカタログなぞった瞬間には目を離してた筈なのに!

「えっ?これ、ちーちゃんが選んでくれたの?」

「い、いや、ただ、そうくんが、着たらかっこいいだろうなって考えただけでっ」

「ふぅん?」

「そうくん?」

「似合う?」

「ああ」

「かっこいい?」

「…ぅ、あ、うん、かっこいい…」

「なら、良かった!でさ?今から何が起こる訳?コレ着て迎えの車に乗れとしか聞いてなくて。」

「愚兄がすまない。今から家族での食事会なんだが…」

「…えっ?は?な、なんで、俺呼ばれてんの?」

「…多分、愚兄の頭には、自分が婚約者連れて来てるだから、ちぃにもパートナーいるよね!くらいの考え。」

「いやいやいや?え?マジ意味わかんない。むしろ、俺、ちーちゃんに相応しくないから近寄るなとか言われるのかと…」

「?どこが?」

「え?いや、俺、庶民だし…」

「うちの母だって一般家庭の出だよ?美貌と営業手腕でのし上がった。」

「…俺、なんもないけど?」

「あのねぇ?あの学園で、風紀委員を取りまとめられて、しかも人気があるなら評価されるんだよ。俺が会長やってるのと同じく、見た目も能力もあるって証明してるの!」

「マジで?」

「大真面目に!…社交界のレセプションに出たら青田買いされるよ?」

「ちぃー!椎名くん!父さん達も来たから移動するよー!」

「…俺も、行くの?」

「…強制はしない。けど」

「けど?」

「…いてくれたら、嬉しい…」

「!行く!」


***



「千弦さんと同じ学園で風紀委員委員長を務めております。椎名 総一郎と申します。この度はご家族でのお時間に加えて頂き、ありがとうございます。」


俺の分の椅子があるということは、主催者【親父さん】に許可されていると言う事だろ?

爺さんが言ってた。「与えられるモノは当たり前じゃねぇ!感謝して【頂く】もんだ!」

俺もそれには同意だ。

だから、まずはお礼を言わなきゃ。


無言が辛いが、頭は上げない。

「…頭を上げて座りなさい。」

「はい、失礼します。」

真っ直ぐ、親父さんを見る。

親父さんからの視線は鋭いけど、悪い事は一切してないからな。

「…良い眼だ!気に入った!」

そう言われた途端、空気が緩んだ。

横にいるちーちゃんがため息を吐いたから、ちらっと見ると、困ったように苦笑された。

え?なんかした?

「君については百矢から色々と聞いているよ。千弦を支えてくれてありがとう。」

「いや、頑張ってたのはちーちゃ、ゴホン!千弦さんなので…」

「ハハハッ、ちーちゃんで構わないよ?なぁ?千弦?」

「…ええ。」

「あらあら、照れちゃって。にしても…」

ちーちゃんの母親はお兄さん、婚約者さん、ちーちゃん、俺を順に見つめて笑った。

「柔らかな雰囲気の美形の百矢に、花のある美女の沙織さん、男らしいけど綺麗な千弦に、ワイルド系な美男子総一郎さん、眼が幸せだわぁ!」

「かあさん…」

「アハハッ!たしかにみんな違う美人揃いだよねぇ!父さんは美形な上大人の男の色気があるし、母さんは正統派の和風美人だもんなぁ。」

「美人は三日で飽きるなんて言うが、アレ間違いだな。透子さんを30年見てきたが飽きるどころかいつも惚れなおすからな。」

「あら!わたくしもですよ?亜弓さんはいつも素敵だわ!」


「ラブラブだな、ちーちゃんとこ。」

「…おしどり夫婦と有名だよ。父は会合なんかでも男女問わず、絶対に二人きりにならないからね。」

「すげぇ徹底ぶりだな。」

「母は行動力がある上に悋気深い質だから、被害が凄いんだってさ。」

「…。ちーちゃんは?」

「え?」

「ヤキモチ、激しい?」

「…感じた事ないから知らん」

「ふぅん?」

「…なんだ?」

「いやぁ?べつに?」


テーブルマナーは学園で習ってるから問題なかったが緊張する。

「そうくん」

そっと呼ばれたから内緒話か?と身を寄せたら「肉やるからデザート譲って?」と囁かれた。…可愛いっ!


(良く良く考えれば、肉を譲る発言って、俺に余裕を持たせる為じゃね?)

トイレの為に離席して、冷静になってみると可愛い話じゃなかったかも?と思い直した。


ちーちゃんがデザートが好きなのは家族なら知ってるから、追加しても良いはずだ。

慣れない環境で味も分からなくなってる俺へのフォローじゃね?

「…」

やっぱ、ちーちゃんはしっかりしてるよなぁ。

それに比べて俺は…


いかん!いかん!暗い顔して戻る訳にはいかない。切り替えろ俺!


トイレを出たら前から女の人が歩いて来た。

学園にもいる、成金に多い鼻持ちならない感じがする。

関わりたくないと道を譲ったら気を引いてしまったらしい。めっちゃ見られてる。

「そのスーツ、良くお似合いですわね?」

なんかいきなり褒められた。

「ありがとうございます。」

新入生の頃に培った面倒臭い相手用の愛想笑いを貼り付けて返せば、彼女の目がギラリとした。よく見た獲物を狙う目。

あ。変なのに目ぇつけられた。

「貴方、アタクシのモノになりなさい!」

…また話通じないパターンだぁ!


「いえ、俺は…」

「ここに居ると言うことは、それなりの階級なのでしょ?なら、アタクシのパートナーに良いですわ!貴方は見た目もよろしいですし!」

女の手が、俺の胸板に触れ

「何をしてるのかな?」

低く落ち着いた声なのに背筋が震えた。


「あら?また彼と違った美麗方が!でも、アタクシ、逞しい方が好みですの!」

「アナタの好みなど聞いていない。彼から離れてくれないか?」

ちーちゃんの顔が怖い。

昔の、傲慢だと畏れられていた時の顔だ。


スタスタと歩いて来たちーちゃんが、女の手を払いのけて俺の腕をとる。

「彼は俺のフィアンセだが、何の用かな?」

ちーちゃんから、ビリビリとした空気を感じる。

目の前の女は、きょとんとした顔で固まっている。

どうしようと内心焦っていると、女は「そんなのオカシイわ!アナタなんかよりアタクシの方がいいに決まってるじゃない!」とか叫び出した。

しまいには「どうせ大した家じゃないんでしょ!」とかなんとか金持ちアピールしだした。

意味分からん。

声を聞いて人が寄ってくる。

一人の男性が女の肩を掴んだ。

「桜子!何をしているんだ!」

「お父様!この人が!アタクシのダーリンを奪うんですの!」

いつのまにかダーリンにされてるし。

「は?」と、こちらを見た女の父親から血の気が引く。

「し、失礼、ですが。貴方様は、鳳翔院家の…?」

「おや、俺をご存知ですか?一般常識はお有りのようだ。ええ、俺は鳳翔院家の次男ですが?」

「ヒッ!お、お隣は…」

「フィアンセですが?」

「さ、桜子とは…」

「そうくん、俺も聞きたいな?」

にっこり、なのに怖い!

「トイレから出たら、その女が来て自分のモノになれとか言い出して触れようとしてきたんだ!俺からは話しかけてもいない!」

「だそうです。」

「大変失礼致しました!改めて謝罪をっ」

「いりません。それより、早くソレを見えないところにやってくれません?目障りだ。」


父親は娘を担ぎ上げ「失礼いたします!」と叫んで走って行った。

あれが、火事場の馬鹿力か!


野次馬も蜘蛛の子を散らすように逃げていき、廊下に静けさが戻る。


「とりあえず、戻ろ?」と繋いでいる腕を軽く曲げてエスコートみたいにすれば

ちーちゃんは無言のまま腕をさらに抱きしめてきた。



*(千玄視点)


【ああ!怒りに任せてフィアンセとか言ってしまった!どうしようどうしよう】

そうくんに引っ張ってもらいながら席に戻ると

「千弦、今し方。偶然居た、北大宮家の方から「下のお子さんも優秀なお相手を見つけられたようで知らぬとは言え失礼した」と送った見合いの釣書を下げてくれと言われたが、何があった?」

と親父さんに言われた。


別件で離れていたお兄さんが戻るなり

「ちぃ?あんなとこでフィアンセがいるの話しちゃダメじゃない!聞いてない!って未婚の家から苦情きちゃうでしょ?」

まったくもう!と怒られた。


ホテルの支配人が「顔合わせだったのならお祝いの盛り付けに致しましたのに」と言って華やかな盛り付けのデザートを持ってきた。


穴があったら入りたい。

墓穴を掘った。

慌てる蟹は穴の口で死ぬ。


恥ずかしさで穴だらけだ!顔を上げれない俺にそーくんが、せっせとデザートのケーキを口に運んでくれる。

違う!違うんだ、そうくん!

食べるけど!俺に必要なのは糖分じゃなくて冷却だから!あっ、うん、飲み物はミルクティーだけど…

「俺の分も食べるだろ?」

た、食べるけど…あむっ…ん!このガナッシュ美味しい!


「あらあら、まあまあ」

「フィアンセて言って箍が外れたのかな?あんなにいちゃつくなんて。」

「モモ、ちがうわよ、見えてないのよ、あれは。」

「ああ、浮かれてるのか。まあ、初めての恋人ならそうなるんだろうなぁ。はい、沙織あーん?」

「あーん!ん、美味しい!うふふ。ちぃくんたらあんなに幸せそうな顔して!可愛いわ!」

「ねぇ?アナタ?彼を『フィアンセ』にしても問題ないんでしょ?」

「ああ、問題ない。百矢と沙織さんが子宝に恵まれれば尚よし、だがな。」

「それなら大丈夫だよ!ね、沙織?」

「え?」

「何?」

「お義父様、お義母様。子どもを授かりまして、無事三ヶ月を越えました!」

「でかしたぞ!沙織さん!」

「今日は嬉しい事ばかりね!何かあればすぐに相談してちょうだいね!」


***

(総一郎視点)

食事会は無事?終わった。

家族公認のお付き合いどころかフィアンセになってるんだが、大丈夫なのか?

男だし、一般人だし、何の取り柄もないガキだぞ?俺。

ちーちゃんの未来考えたら俺は身を引いた方がいいんじゃ?てお兄さんにひっそり聞いたら。


「椎名くんは、ちぃが魔王になっても良いの!?人類滅びるよ!」て言われた。

意味分からん。

「んー、じゃあ、椎名くんはどうしたいの?」

「え?」

「ちぃと結ばれる未来がある訳だけど手放す?」

「それは…」

「ちなみに、家は長男の俺が継ぐし、子どもも来年生まれるから、最悪ちぃは政略の駒になるよ?」

と言われて、言葉が出なかった。

「夏休みに一緒に過ごすなら、将来もよーく考えてね?君たちはまだ高校生だけど、将来見越して動かないといけない立場だから。」

「…はい」


お兄さんに手配してもらった車で帰宅した。

真っ先にスーツを脱いでハンガーにかけて、畳に転がる。


「え?恋人でもないのにフィアンセって何!?ちーちゃん否定しないし!脈ありなの?面倒だからなの?どっち!?」









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