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【完結】断罪された伯爵令嬢、地獄で咲いた黒薔薇は王都を裁く  作者: なみゆき


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7/11

黒薔薇の扉を叩く夜

【この物語の続き】

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ここは、黒薔薇商会。 名もなき痛みを拾い上げ、 誰にも届かなかった声に、答える場所。


 その夜、風は冷たかった。

街路の灯が揺れ、石畳に落ちる影は、どこか怯えているように見えた。

扉の前に立つ少女の肩が、小刻みに震えていたのは、寒さのせいだけではなかった。



「……ご予約は?」


受付の男の問いに、少女は唇を噛み、かすれた声で答えた。



「……“ロゼ様”に……お会いしたくて……」


その姿は、宝石のように着飾った令嬢だった。

だが、瞳は怯えに濁り、頬には血の気がなかった。



名は――セシリア・ヴァレンティア。

かつて伯爵家の令嬢として社交界を彩り、皇太子妃候補にも名を連ねた才媛。

だが、すべてが変わった。元侯爵家の嫡男との婚約破棄を機に。



「破棄は、私たちから申し入れました。彼の私に対するこれまでの暴言と……皇太子妃の取り巻きとして加担していた悪事に、ようやく気づいたんです。婚約破棄を受け付けなかった侯爵家も、証拠が次々に出てきて、最終的には受諾してくれました。 でも、彼だけは――納得していなかった……」



 * **


彼女が、黒薔薇商会を尋ねる数日前の夜。

夜会の喧騒が遠のいた庭園の奥、人気のない小道。

足元がふらつき、視界が揺れる。

セシリアは、薬で霞む意識の中で、力ずくで腕を引かれていた。


「声なんて出すなよ。誰にも聞こえやしない」


元婚約者の目は、狂気に濁っていた。

このままでは、壊される

――そう思っても、恐怖で身体が動かない。



その瞬間だった。


「……その手を、離していただけるかしら?」


冷たい声が、闇を裂いた。

月の光を背に現れたのは、漆黒のドレスをまとった一人の女――”ロゼ”。

その一歩一歩は、まるで罪人に下される判決のように重く響いた。



「誰だ??関係ない奴は引っ込んでろ。」


「犯罪者の貴方に名乗る必要はないと思うけど……?」



ロゼは薄く笑った。 けれどその瞳には、一片の笑みもなかった。


「あいにく、“女の扱い”に関してだけは――目が肥えているの。 あなたの手付きなんて、下劣そのもの。私の取引先には、到底紹介できないわね?」



男が顔をしかめ、一歩踏み出そうとしたその瞬間。



「次の一歩を踏み出したら、足の腱を切るわよ」


その声は、冷気よりも鋭く、刃よりも静かだった。


「選びなさい。 このまま一族の名誉を少しでも残して退くか、 この場ですべてを剥がされ、狗のように引きずられるか。 ――あなたに、選択の自由があるとまだ思えるなら、だけどね」



男の顔から血の気が引いた。

直後、黒薔薇商会の調査員たちが音もなく現れ、彼を拘束した。

その場で始まった調査により、隠された罪の数々が暴かれていく。

買収、恐喝、薬物、暴力――そして被害女性たちの証言。

男の人生は、そこで静かに終わった。



 * **


セシリアは、暖かな部屋の中で、エリスから紅茶を受け取った。

震える指先をカップに添えながら、小さく呟く。


「……どうして、助けてくださったんですか?」



”ロゼ”――エリスは、静かに笑った。


「私の仕事は、“痛みを返す”ことだけじゃない。 “痛みを受けた人を、もうこれ以上傷つけさせない”ことも――私の戦いよ」



その言葉に、セシリアの目から涙がひとすじ、こぼれ落ちた。




黒薔薇商会。

――そこは、過去に裁きを下し、未来を守るために存在する場所。


そして今宵もまた、 ひとつの運命が、救いを求めて扉を叩いた。

お読みいただきありがとうございます。

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