富士山なんて二度と登るか!(三回目)
「一生に一度は富士山に登ってみたい」
昨年末に結婚した嫁の一言で先月、富士登山に挑戦してきた。
冒頭から「嫁」なんて言ってると弾圧・滅殺されそうだが、こうしてなろうで何かを書いているのも彼女のおかげだったりする。
自分より遥かにオタクの嫁に「リゼロ」のアニメを勧められ、リゼロがなろう作品と知り、なろうに足を運ぶようになり。
エッセイなら書けるかも?と思い、投稿を始めたのだから。
さて登山の方はというと、色々とトラブルもあったが無事に登頂を果たせて、新婚初年度の夏の良い思い出になった。
その一方で、「これは失敗した!」「こうすれば良かった!」と感じたこともちらほらあった。
そこで、今回の富士登山における「後悔」を3つほど挙げてみたいと思う。
今後富士山に挑戦しようという方の参考になれば幸いだ。
まあ僕自身はタイトルの通り、もう二度と登ることはないだろうが……。
・後悔その1 ~~山小屋に泊まれば良かった!~~
ぶっちゃけこれが一番デカい。
富士登山は10時間以上にも及ぶ長丁場。登るにあたって特別な技術は必要としないものの、その行動時間の長さがとにかく重くのしかかる。
実は僕自身は過去2回、すでに富士山に登ったことがあるのだが、いつも「日帰り」で登っている。
以前は今より若く体力も有り余っていたこともあり、勢いだけで登ってしまっていた。初回なんてスニーカーだった。
その頃よりは歳をとったものの、嫁とは趣味でちょくちょく登山をしていて、登山靴やザック、トレッキングポールなどの装備も揃えている。登山の経験自体も遥かに増した。
だが今回改めて登ってみて......五合目からとはいえ日本最高峰、ぶっ続けで10時間以上登り下りするのはやはりなかなかキツいものがあった。
だからこそ、富士登山に挑戦される方には「山小屋泊」を強くおすすめする。
途中で泊まってしっかり休息を取ることで、難易度は大幅に下がるからだ。
山小屋では緊張等で寝れないかもしれないし、ツアーによっては仮眠程度で御来光(朝陽)を目指す場合もあるかもしれない。
それでも日帰りより断然マシだ。
もしデメリットを挙げるとしたら、予約の取りづらさだろうか。
自分が使った吉田ルートは一番の人気コースで山小屋の数も多いが、それでも小屋の数には限りがある。
コロナ以降は宿泊数を減らしているそうで、快適度は増した反面、予約競争は激化しているそうだ。
ツアー会社があらかじめ部屋を押さえていて、個人予約が難しい小屋もあるとかないとか。
さらに、せっかく予約できたとしても当日は荒天の可能性もある。
ちなみに自分たちが日帰りを選んだのも、天気を見て日にちを決めたかったからだ。
こればかりは運だがそれでも、途中で宿泊・休憩する方が体力的余裕も充実度も、遥かに高いと感じた。
また、もし高山病になってしまった時の対処なども含め、初めての富士登山は山小屋&ガイド付きのツアーに参加するのが一番かもしれない。
ガイドさん視点からの記事もあるので、ご参考までに。
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=4281
・後悔その2 ~~水(荷物)を持ちすぎた!~~
「富士山の山頂ではペットボトルが1本500円」
なんて噂を聞いたことがあるかもだが、これは本当の話だ。
いや、山頂どころか八合目あたりでもう500円だった気がする。
標高3000m超えの高所に物資を運搬するのはさぞかし大変だろうから、高いのは仕方がない。
仕方がないが、できるだけ買いたいたくない(セコい……)。
なので、いつもの水筒に加え2リットルペットボトルを持っていったのだが……これが大失敗。
とにかく重い、重すぎる。亀仙人の元で修行でもしてるかのようだった。
確かに道中、一度も水を買うことはなかったがその代わり、クッソ重いペットボトルを長時間担いだせいで余計に疲弊した。
ああ、自分のケチさ、セコさが憎い……。
水だけじゃなく「荷物の軽さを買う」と思えば、500円なんてむしろ安いのかもしれない。
ちなみに山小屋や山頂の売店では水の他に軽食や携帯酸素なども売っているが、下山道には山小屋がほとんどない点には注意したい。
・後悔その3 〜〜「ゲイター」があれば良かった!〜〜
今回のエッセイタイトルの「富士山なんて二度と登るか!」ーー
これはただの釣りではなく、個人的に富士登山で最もしんどく、心を折られるどころか粉砕される「下山道」で毎回思うことなのだ。
そう、「登山」と書くと「登ること」だけが目的に思われがちだが、登ったら当然、下りなくてはならない。
そしてこの下山こそが、実は登りよりもキツく危険なのだ。
疲労が溜まった足腰や膝に、体重や背負う荷物がズシリとのしかかる。実際、登山中の事故の多くは下山時に発生するという。
富士登山は長丁場と何度も書いたが、下山も当然時間がかかる。しんどい時間が長く続くということだ。
さらに、自分が使った吉田ルートの下山道は名付けて「無限ジグザグ地獄」。
ただひたすらに、同じようなジグザグ道が延々と続く。なんでそんな道になっているかというと、ブルドーザーも通る道だかららしいが。
道自体は整備された下り坂で、まあまあ角度もついてるのがなんともいやらしく、滑らないように踏ん張ると足先や腿、膝に変に負担がかかる。
しかも火山のせいか足元は土ではなく小石や砂だらけ(いわゆるザレ場)。
歩くたびにズボッ、ズボッと靴が沈む足場の悪さが正直不快だし、いつも以上に体力気力を削られる。
さらには砂埃も舞っているのでリュックも服も何もかもが砂まみれになるし、靴の中にも小石が入ってくる。
ハイカットの登山靴を履いていても、だ。
まるでエンドレスエイト、ループする世界線に迷い込んでしまったかのごとく、同じような下り坂が何時間もひたすらに続き、ようやく見つけた看板にあるのは「五合目まであと180分」の文字。
軽〜〜く、心をへし折ってくる。
余談だが、富士山に登ったことのある人と話すとだいたいこう言う。
「(登るのは)一回でいいかな......」と。
わかる、登るだけでもしんどいのに下山も地獄なのだから。
自分も毎回、この最悪な下山道に辟易しながら「二度と登るか!」と心に硬く誓うのだ。誓うのになぜか、三回も登ってしまったが……。
他のルート、例えば御殿場ルートでは「砂走り」なんて下山方法もあるらしいし、吉田ルートでも走ってる人がたまにいたが、慣れないと無理だと思う。
ただ、他の下山者を見ているとたまに、足首に布のようなカバーのようなものをつけている人がいた。
後日調べてみると「ゲイター」と言うそうで、なるほどあれなら靴の中に石や砂が入ってくることもない。
レッグウォーマーなどで足首部分を覆うだけでも、最悪な下山道が多少はマシになるかも、と感じた。
そしてもう一つ、下山道の負担を和らげる方法がある。それが「後悔1」の山小屋泊だ。
ゲイターで不快さは緩和されても、道自体のキツさ長さには変わりはない。
だったらぶっ続けよりも、一泊している方が体力的にも時間的(これも結構デカい)にも有利なのは間違いないし、むしろ僕的には、山小屋泊の最大のメリットは「下山に余力を残せること」だと言っても過言ではない。
それくらい、富士山の下山はキツい。
さてさて、後悔ばかりをつらつらと書いてみたが最後に、改めて富士山を登ってみて「良いな」と感じたことをひとつ、ご紹介したい。
それは富士登山が、「自分の力でやるしかない」点だ。
便利なモノやサービスがあふれ、AIがどんどん発展している昨今だが、富士登山では結局のところ、登るのも下りるのも自力で行うしかない。
いやむしろ、己の力で成し遂げてこそ価値がある。「ヘリで富士山に登りました」なんて言っても誰も褒めてはくれない。
それが良いと、自分は思ったのだ。
互いを気遣いながらゆっくりと歩みを進める老夫婦。
焼印のいっぱい押された金剛杖を片手に、座り込んでぐったり休む海外のアンちゃん。
老若男女も国籍も貧富の差も関係なく皆、ヒイヒイ言いながらその足で登る。
なんだかそれが、とても価値があることのように自分は感じた。
このエッセイをお読みになった方がいつか、富士登山に挑戦されるとしたら……素晴らしい思い出となるよう祈るばかりだ。
実は今回、九合目あたりで嫁が高山病になってしまい、火口を一周するお鉢巡りや最高標高地点である剣ヶ峰は断念した。
だが、「山頂で焼印を押してもらう」という彼女の願いも叶ったし、僕自身も二人で登頂できて満足している。
今度こそ二度と(もう次で四度目だよ......)、登ることはないだろう。
ただ後日、Youtubeで「砂走り」の動画を見る嫁の、その目に宿った光がどうも気にはなるが……。