赤子の断末魔,海の人声
嵐の中 雷鳴が佳境に入り 霧雨が暴発して弾けた。
死体売り、木舟の錨の反響音が削られ遠方まで轟く。彼方彼方
鱗の木目が刻み、滲まれ、揉まれてゆく霧海、無数の一部人体が海面から灰を見上げる。
微かに乱れた白髪如く佇む澄山
刹那 蒼穹にして波高く 夜鷹が堕水した
轟轟と止まず、荒ぶり続ける深海が包む。
一滴の清曲が滑らかな肌へと傳う。
青々の平原 命の涙 行方を暗ます 眼が海を指し示す
今 一斉に静拍の揺らぎが列を正した 呼び声 一面に轟く 激動の雷鳴
消息を経った地平線が再び訪れる
鳥肌の雨穴が開花している
雪崩差し迫る最中 眼前に飛来する碧翼
瞬間
産声の断末魔が響いた
微かな血気が大地を唸らせる 地響きが渡る
染み入る
霧が立ちこんだ 山道の 山がくれとして
佇む血林と山嵐, 血気佇む
黒黒の砂利道が
赤子を包む リンドウ
明朝の暁七つ 寅の夜刻には姿は暗ます
絶海の雲夜 やがて子の刻
入道流れ 同刻 鐘楼 鳴
捕鯨の群が 河の命脈に 水竜の紫を画く
丑三つ 水面鏡 冥冥を写し出し
水河の翠鹿は角をはたと落とす
師の陰 森の翡翠が露をつくり
軈て射貫く羽槍を漂鳥が咥える
山椒 口笛が鳴る師の陽は けたたましく
夜彗の命を授 崎の煙に燕は堕羽する
梢のざわめきが赤子を放つ
嵐は軈て山岳の彼方へと消え去り
向日葵の高野に陽が差した
そこには一対の椋鳥の晴顔が束になり
新たな蕾へと形を変えた
水彩の洸面が絵画を創り
巡る潤滴が縁と埀れる
落ち着きが潮風に乗る
揺らぐ舟の軋みは粛々と
掠れ果てた
ふと気がつくと 挿し木の若葉が舞っていた
今も川の流れは飄々と流れる
去った舟木にはひとつの雛が天高く
瀣雲を見続け大きな欠伸を広げた
綾が広がる 源は 大きな大きな
涙であった
白粉の息が囁くように
赤子はいない と
そう応えた