誰のせい?(第4章 メガネをかけた 魔法をかけた)
第4章第2話です!
あの時からみんな私のことを避けるようになった。
私を遊びに誘う子もいなければ、私が遊ぼうと言っても誰も誘いに乗ってはくれなくなった。
話をしようとしても逃げていく。
おかしいよ…こんなのって…。
「やっぱり…私のせいで…」
セレンちゃんが震えた声を出しながら私のことを見ていた。
「セ…セレンちゃん…。おはよう」
「おはようございます…。ここ数日…やっぱり良くないことになっていますね…」
「そんなこと…っ!……ない…」
「いいんです…本当のことを言っても…。私のせい…ですから」
「ねぇセレンちゃん…。セレンちゃんはこういう時、どうやって仲直りしたの?」
「…できません」
「じゃあどうしたらいいの…?私はもうみんなと仲良くできないの…?ねぇセレンちゃん…」
「ごめんなさい…」
セレンちゃんはただ伏し目がちに謝るだけだった。
「なんでよ…私は…みんなが仲良く出来ればいいと思っただけなのに…!」
「それを押し付けられたら、嫌な人もいます…。嫌いな食べ物を無理やり食べさせられて嬉しいですか?」
「セレンちゃんは人間だよっ!」
「人間ですが、嫌われている人間です。あの人たちにとっては、食べ残したい食べ物と一緒…」
私の叫びも意に介さない様にセレンちゃんは淡々とそう続ける。
「おかしいよ…なんでそんなに全部受け入れているの?私は…私だったら……あれ?私、何も出来ていない…」
「…そうです。こうなってしまった以上は、ひたすら見ないふりをするしかなかったんです…」
「1人で…ずっと…そうしてきたの?」
「はい…」
「セレンちゃん…私は、セレンちゃんと一緒にいる。別にみんなが離れたからじゃないよ!ただ…私だけは、セレンちゃんと一緒にいる」
「ありがとうございます…」
「2人なら、きっと負けないよね!」
「…はいっ!」
セレンちゃんはぎこちなかったがやっと少し笑った。
それからは私はセレンちゃんと過ごした。相変わらずみんなは私たちをいないことにした。心が折れそうだった。でも、セレンちゃんがいてくれたから私はなんとかここにいられた。
「ねぇセレンちゃん。どうしてセレンちゃんは私にも敬語で話すの?」
ふとした疑問を投げかけてみた。
「…こうして話していると、間違いないんです…。みんな…ちょっとした言葉のすれ違いに腹を立てる…。私は口下手ですから…それで何度も人を怒らせました…。だったら、はじめから相手より下になればいいんです…。敬語で話すと、簡単に相手の下に行くことができます…。それが私には、何よりも安心できるんです…」
「セレンちゃん…。私には、普通に話していいんだよ?私は、そんなこと気にしない。絶対嫌いになったりしない。ね、私たちは対等でしょう?だったらそんなのいらないじゃない」
「…そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。…でも、私はもう、変えられないんです…」
「そっか…」
「はい…」
「じゃあ、私もあなたに敬語を使います」
「な、なんでですか…っ!?」
「あなたが敬語を使うことで私より下になるというのなら、私が敬語を使えばあなたと対等になれるということです!そうですよね?」
「う……そうです…」
「ふふ…じゃあそうします」
私はこの時から、敬語で話をするようになった。それはセレンちゃん以外の人に対しても…。いつしか私はより下出になることに必死になっていた。
「ねぇ、何あの話し方?」
普段は話しかけても来ないクラスメイトが、私たちの話を聞いたようで声をかけてきた。
「あ…はい…その…セレンちゃんと一緒なんです…」
「は?どういう意味?」
「お互いに敬語で喋れば…セレンちゃんと対等になれると思ったんです」
「ぷっ…ははは…なぁんだ、だからか」
「な…なにがですか?」
「あんた、セレンと同じくらいダサくなったってこと」
「え…」
「はぁ…話しかけた時間も無駄だったわ」
「あ…」
そう言うとその子はくるりと背を向けて私の許を離れた。
「私…もしかして…セレンちゃんといるから…ダメになってるんですか…?」
「……ようやく、気づいたんですか?」
「セレンちゃん!?」
いつの間にか呟いていた言葉を、セレンちゃんに聞かれていた。
「私に構ったからみんなに無視されて、私に合わせようとしたから、みんなより下になってしまった…」
「でも…それでも…」
「なんでそこまで私に構うんですか?正直…理解できないんです…。話だって合わないし、他に接点だってないし…」
「友だち…だからです」
「友だちじゃなかったじゃないですか…!それとも…私が話しかけたのがいけなかったんですか?…そうだ。あの時、私が話しかけたから…」
セレンちゃんは頭を抑えながら呻いた。
「違います!」
「やっぱり…私が悪かったんですね…」
「話を聞いてください…」
「……私、ひとつだけいい方法を思いつきました」
急にぱっと顔を上げるとセレンちゃんはそう言った。
「え…?」
「きっとあなたも元に戻れて、みんな幸せになれる方法…」
「ちょっと…」
「私、帰りますね…」
「セレンちゃんっ!話は終わってませんっ!」
「いいえ、もう終わりです…。あなたと友だちになれたこと、私、とっても誇らしいです」
「何…言ってるんですか?」
「バイバイ、ムーニィちゃん」
「セレンちゃんっ!」
そのままセレンちゃんは走って教室を出ていってしまった。