(サイモン)876 見つけてね
(サイモン)
今まで自分が抱えてきた怒り、憎しみが一気に心の中で爆発する。
僕たちの父だってそういう人で、それで母を弄んで捨てたに決まっている。
今頃は自分の利益になる女の人を正妻にして家族仲良く暮らしているのだろう。
その裏でおもちゃにした母の事など、直ぐに忘れて……。
現在僕たちを苦しめるダダンと、見たこともない父が完全に重なった瞬間、僕の中に新たな力が発現したのを感じた。
僕は悲しげに顔を歪ませるリリアを優しく抱きしめると、安心させる様にその頭を撫でる。
「大丈夫。リリアは間違ってなんていないよ。知力は、リリアを守ってくれる最強の武器だ。だから、これからもそのままでいい。」
そう言うと、リリアは弱々しく笑い、そのままス──ッと眠ってしまった。
ダダンには無理やり愛人にした沢山の人達と、その愛人が産んだ子供が数多くいて、その全員に有り余るほどの金を与えて幸せにしてやっていると豪語していたが……金さえ払えば、愛人と子供達は何とも思わないと本当に思っている様だ。
自分の顕示欲を満たすためのアクセサリーとして側に置き、一時の欲を発散できればそれで良し、後は放置ときたもんだ。
一方的に投げつけられるボールを拾う人生がどんなに辛いことかなど、そういう奴らには一生分かりはしない。
僕はリリアが完全に寝てしまったのを確認するとムクッと起き上がり、静かに部屋の外に出る。
『正面から戦うより、まずは回り込んで弱みを握れ。それがこっちを舐めてるクソ野郎と対等に話すコツ。』
『相手を利用しようと近づいてくるクズには容赦するな。逆に利用して身ぐるみぜ〜んぶ剥いでやれ。』
母の言葉が頭を過り、『誰でも真摯に話せば分かり会えるよ。』という言葉はお綺麗なだけの幻想だと思った。
クソ野郎とその『真摯な話し合い』とやらをして、リリアを諦めて貰うには『弱み』が必要だ。
僕はその夜から一人コソコソと動き始めた。
横領、賄賂、禁止薬物の密売、密輸。
違法な奴隷化に危険な人体実験への協力、禁止素材の斡旋、違法娼館の運営────……。
調べれば調べるほど出てくる、あまりにもてんこ盛りな犯罪の数々。
それを見つける度に、うへぇ……と顔を歪めてしまったが、淡々と証拠を集めていき、その全てを各所へと大量に送りつけてやった。
ダダン達は強敵である母相手に夢中になっていたから、完全なノーマークであった僕には全く気づかなかった様だ。
お陰ですんなりと事が運び、僕は内心ほくそ笑む。
そうして全ての悪事が明るみに出てしまったダダンとその関係者達は全員捕らえられ、多くの民衆が見ている中、女王コレットの前へと引きづり出された。
罪状がその場で女王に告げられ、ダダンとそれに深く関わっていた者達は全員絞首刑。
そしてそれに少しでも協力していた者達は全員犯罪奴隷になる事が決定した。
「畜生っ!!何でバレたんだよ!!」
「いやだ────!!死にたくないっ!!金なら払うから助けてくれよぉぉ〜!」
「俺は騙されていただけで無実なんだよぉぉ〜!!!言われた通りにするしかなかったんだぁぁ────!!!」
土下座をしたり暴れたり。
全員がなんとか助かろうと民衆に向かって手を伸ばし慈悲を乞うたが……誰一人助けようとする者はいなかった。
そうして絶望の中、無慈悲にも首に縄を掛けられ藻掻き苦しみながら刑に処されていく悪党達。
そんな仲間たちの悲惨な最後を目にしたダダンは、迫りくる『死』に、顔をぐちゃぐちゃに歪ませて大声で叫んだ。
「俺は無実だっ!!!」
「金ならいくらでも払うから、誰でもいいからなんとかしろっ!!」
「死にたくねぇ……死にたくねぇよぉぉぉ……頼むからぁぁ……!」
どんなに叫ぼうが現状は変わらず、とうとう自分の番になってしまったダダンは、絞首台への階段を登らされる間ひたすら怒ったり泣いたりとあがいていたが……目の前に吊り下げられたトゲ付きの吊り下げられた縄を見て、最後は自分の愛人たちへ視線を向ける。
「俺には自分を愛してくれている沢山の愛する愛人と子供達がいるんだっ!!」
「俺が死んだら俺を愛している皆が嘆き悲しむだろう!そんな非道な事が許されるものか!!」
「未来ある子供たちのためにも、父親である俺は死ぬべきではない!!」
そんな言葉をツラツラと並べ立て、女王と民衆、愛人達に情を訴えたが……返ってくる視線は非常に冷たいものであった。
誰一人、自分の死を望まぬ者はここにはいない。
それが分かったのか、ダダンはガタガタと震えて「嫌だァァァァ────!!!」と叫んで逃げようとしたが、両隣に立っている死刑執行人は無表情でそれをあっさり止め、ゆっくりと首に縄を掛けた。
人の心を踏みにじり、無理やり言う事を聞かせてきた相手が自分に情を持っていると本気で思ってるんだ……。
そんな嘘のような事実に思わずプッと吹き出すと、母は神妙な顔で僕とリリアを見た。
「あれが己の欲のためだけに生きてきたヤツの最後だよ。
自分にしか心を向けないヤツは、誰にも心を向けてもらえない。」
その通りだと思った僕とリリアは素直に頷くと、母は僕たちの頭にポンッと手を乗せ優しく撫でる。
「そういう奴らに遠慮はいらない。容赦なく使ってやればいい。
でも……それは自分にも当てはまるんだ。
自分がこの人だと思った人達には、心を向けないと駄目だよ。そうしたら、そこが本当に幸せの場所になるからさ。
これから自分だけの場所、頑張って見つけてね。」
そう言って微笑む母に、僕たちは何も言えなかった。
『お母さんは、一瞬でもその場所にいられたの……?』
きっと言ったら傷つくだろうから、一生この言葉は言わないけど……。




