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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二十二章

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(サイモン)874 塗りつぶされる

(サイモン)


それを言われるのは、堪らなく嬉しくて同時に堪らなく辛い。

言われれば言われる程自分が認められる気がするのに、居場所がない事を再確認させられる。

その繰り返しで気持ちが沈んでしまう事もあったが、そんな時心を慰めてくれたのは母の存在であった。


『きっと自分と外見がそっくりの母も同じ気持ちを抱いていたはず。』

『それでも母は強く逞しく生きているし、幸せそうに笑って過ごしている。』


その事が自分の未来を明るく照らしてくれていたのだが……そんな明るい未来は、ある日突然真っ暗な闇に塗りつぶされてしまった。


ある日の夜の事。

中々寝付けなくて水を飲もうと起き上がり、母の部屋前を通りかかると、まだ母が起きている事に気づいた。


随分遅い時間なのに……お仕事かな?


そう思いながら通り過ぎようとしたのだが、中からすすり泣く声が聞こえて思わず立ち止まる。


いつも気丈に振る舞い、弱みを一つも見せた事のない母が泣いている。


その事が衝撃的で、見ちゃ駄目だと思いながら僅かに開いている扉の隙間からソッ……と覗くと、そこには少女の様にポロポロ泣く母の姿があった。

手には手紙の様な束を握っていて、誰かの名前を繰り返し繰り返し呟いている。

驚いて固まってしまうと、突然後ろから肩をポンポンと叩かれ慌てて後ろを振り向いた。

そこには口元に人差し指をつけたリリアの姿が。


「し────……。兄さん、こっち。」


リリアに即されるまま、僕たちはその鳴き声に背中を押される様にその場を後にした。


そうして無事に部屋に戻った僕たちは、布団の中に一緒に入り、しばらくお互い無言で過ごす。


何で母は泣いていたのか?

一体誰の名前を呼んでいたのか?


そんな疑問がずっと頭の中をぐるぐると回っていたのだが、そんな僕をジッ……と見つめたリリアは、唐突に話を始めた。


「……私達のお父さん、人族の貴族だったみたい。だからお母さんは結婚できなかったんだ……。」


ポツリと小さい声で語られた内容に、『何で知っているのか?』という疑問よりも先に、『なるほど』という納得する気持ちを持った。


人族の貴族は法律上平民や他種族との結婚はできない。

つまり側にいたいなら愛人になるしかなく、それが嫌で母はここまで逃れてきたのだろうか……?


それを考えると見たことのない父親に怒りが湧いた。


責任をとるつもりもなく関係をもって子供を作った。

男の身での出産は女性より遥かに大変だというのに、一人で生ませて後は知らんぷり。

母は良いように弄ばれて捨てられたんだ!!

────でも母はそんなひどい男を想って泣いている。


「その男の事……まだ好きなのかな……。」


僕がポツリと口に出すと、リリアは不快を全面に出した顔で「……多分そう。」と答えた。


あんなに世界一強くてカッコいい母でも一番になれずに居場所が貰えなかったのか……。


その時僕の心に芽生えたのは多分『絶望』で、何か黒いモノが覆いかぶさってきてすっかり心を隠してしまった。


『そっか、何しても無駄じゃん。』


多分人生最初の分岐点はココ。


それからの変化はとても早かった。

下心満載で近づいてくる奴らに遠慮なんていらない。

適度に凄〜いと持ち上げて気分を良くして上げた所で、貰うモノは貰って適度に離れる。

『可愛い』はこの時から自分の最強の武器でもある事を知った。

ニッコリ笑って『ごめんねぇ〜』と言えば全て許され、神出鬼没に近づいてきては消えても『可愛いから仕方がない』と諦めてくれる。


誰の一番も貰えないなら自分も誰かを一番にすることない。

自分は気まぐれな猫でいい。

だから自分の居場所なんて要らなくて、このまま自由に自分の人生を謳歌できればそれで良いんだ。

そう理解してどんどん自分の魅力というモノを磨いていった。

対してリリアも何か思うところがあったのか、あの日から毎日毎日本を読み耽る様になっていき、ありとあらゆる知識をまるで水を得た魚の様に吸収し始める。


「なんでそんなに勉強するの?」


そう尋ねれば、リリアは「一人で生きていく力を得るため。」とハッキリ答えて寝る間を惜しんで本を読むため、僕は妹が心配だった。

するとその気持ちがどうやら顔にでていたらしく、リリアは僕を見てフフッと笑う。


「兄さん。兄さんって男である自分があんまり好きじゃないのよね?……私は女である自分が嫌なの。」


「?何で嫌なの??リリアは可愛いし僕みたいな中途半端じゃないから、きっと普通に恋愛して結婚して誰もが羨む人生を歩めるよ。」


本心からそう思って言ったが、リリアから帰ってきたのは酷く暗い表情だった。


「私は『男』という生き物が反吐が出る程嫌いなの。

責任をとる気もないくせに手を出そうとする不誠実さも、すぐ肉欲に負ける意思の弱さも大嫌い。

女と見ればジロジロと顔や身体を舐め回す様に見てくる姿なんて、吐き気がする。」


リリアの初めて見た怒りの感情に驚き思わず動きを止めたが、リリアはなおもブツブツと話を続ける。


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