81 邪神
( リーフ )
突如変化した痛みを感じるほどの鋭い視線と重だるい空気に、レオンは大丈夫かと慌てて視線を向ける────が、先ほどと全く変わらず、レオンは俺をジッと睨みつけている。
レオンは意外と肝が座っている!
そしていい感じに、俺にヘイトが集まっているので、俺は ” 良き良き〜! ” と満足気に微笑むと、わざとらしく咳き込んだ。
「 ゴホンっ!────あ〜……レオン、このドノバンはこれから剣や魔法を教えてくれる先生になる。
君は俺のために、これから ” 的 ” として、修行に付き合ってもらうよ。
精一杯彼から学び、そして最強の下僕、兼 ” 的 ” になるんだ!
分かったね? 」
要は " 俺と一緒に修行頑張ろ〜! " 的な事を改めて言い聞かせたのだが……レオンは険しい表情のまま「 はい!! 」と良い返事を返し、更に強くギラッと俺を睨みつけてきた。
そのまるで親の敵でも取ろうかというほどの鋭い眼光に、俺はゆっくり眼を逸らす。
やる気が満々なことは非常に喜ばしい事なのだが、かなり頑張らないと俺が高学院まで持たないかもしれない。
途中でレオンの理性がブチギレて殺されたらどうしよう……。
────ドキドキ……ヒヤヒヤ〜!
思った以上に効果が出すぎている事に不安と恐怖を抱いていたため、俺はドノバンが探るように俺とレオンを眺めていた事に全く気づかなかった。
「 お〜い。とりあえずリーフに確認なんだが、本当に体に何か変調はないんだな? 」
「 ────え?うんうん、大丈夫だよ。 」
「 そいつに触れた場所に変な黒い痣みてぇな模様が浮かんでないか? 」
痣?と不思議そうに首をかしげる俺に、「 ねぇーんだな? 」と再確認するドノバン。
戸惑いながらコクリと頷くと────ピンっと張り詰めた空気は和らぎ、ドノバンはまた気の抜けた顔つきに戻った。
「 あ──……なら、そいつは伝染性の呪いじゃねぇみたいだな。
まぁ、とりあえずは安心して大丈夫だろう。
……しかし、見たところ相当強力な呪いの様だな。
俺は専門家じゃねえから詳しくはわからねぇが、そりゃー恐らく ” 人 ” が発生させられるレベルのもんじゃねぇ。
一体どこで貰ったのか……見当もつかん。 」
そう言ってまだ少し警戒しながら、ドノバンはジロジロとレオンを見下ろす。
レオンに呪いを掛けたのは ” 人 ” ではなく ” 邪神 ” ……いわゆる、イシュル神とは別の力を持った神様だ。
邪神< ゼノン >
彼はイシュル神さえ解くことができない呪いを、レオンの魂に刻み込んだ。
「 強力な呪い……か。 」
俺は首を横に大きく倒し、険しい顔で物語に登場するゼノンについて考え込む。
物語の中で彼について描かれている事は少なく、結局は謎に包まれたまま物語は終焉を迎えてしまうが……その中で唯一分かる事と言えば、彼はその言動や行動からも " 人 " に良い感情は持っていなかったことくらいだ。
一体< ゼノン >は何者で、何故 " 人 " をあんなにも恨んでいたのだろう?
理由は途中脱落する俺には知る由もないが、今後レオンが旅に出た時、きっと彼は物語と同様にレオンの前に姿を現し、そして────……。
────ザシュッ!!!
ゼノンの最後のシーンを思い出し身震いすると、それを誤魔化すように、俺はドノバンに話しかけた。
「 元第二騎士団団長なのに、そんなに呪いが怖いのかい? 」
軽く聞いたつもりだったが、ドノバンは思いの外真剣な顔をして言った。
「 あぁ、怖いぜ? この世で1番な。
戦いに携わるものが1番恐れるものは何か?
そう問われれば全員が同じ答えを返す。
" それは呪いだ " ────ってな。 」
多少戯けた様な言い方はしているが、多分これはドノバンの本心の様だ。
こんなに強い人でも、呪いはとても怖いモノらしい。
ふむふむと頷きながら、俺を今だに睨みつけているレオンの左半身をじーっと見つめていると、ドノバンは呪いについて教えてくれた。




