80 実技の先生 ドノバン
( リーフ )
これから剣と魔法の実技の授業を担当してくれるのは、なんと、王宮第二騎士団 " 元 " 団長の< ドノバン >という男性だ。
退職してしまった家庭教師さんの後釜として来てくれるらしいが、これまたどえらい人物が先生をしてくれる事になったなと実はかなり驚いている。
アルバード王国の騎士団は、大きく分けて二つ。
まずは第一王子< エドワード >が管轄する────【 第一騎士団 】
これは貴族のみで構成されており、平民はどんなに実力があろうとも入ることはできない。
その理由としては、資質は遺伝によるものが大きいからだそうだ。
つまり、資質ありきで結婚相手を選ぶ貴族の方が、一般的に強力な資質を持っているので、第一騎士団はそれを重視し強力な資質持ちのエリート集団を作ろう!────というコンセプトで成り立っているらしい。
対して、第二王子< アーサー >が管轄している────【 第二騎士団 】
これは実力さえあれば、貴族だろうが平民だろうが奴隷だろうが誰でも所属できる、完璧な実力主義の元に成り立っている多種多様な強さを持ったツワモノ揃いの集団である。
正直、いざ戦場ともなれば、100%第二騎士団の勝利だろうと想像できる程彼らは強い。
そんな第二騎士団の団長ともなれば、その頂点に立つ実力を持った人物で、そりゃぁもう出鱈目な実力がなければ、その座を手にすることは出来ないというわけだ。
そんな凄い人が、何故俺の家庭教師に?
そんな疑問が真っ先に浮かんだが、なんとこの< ドノバン >はカルパスの長年のお友達なのだそうで、それが縁で俺の教師を引き受けてくれる事になったらしい。
それはなんとありがたい!
そう素直に喜んだのだが、カルパスはニコリと口元だけ笑顔を保ったまま、つらつらと教師を引き受けるに至った本当の理由を語った。
何でもドノバンは、たまたま遊びにきていたレガーノで運命的な出会いをしてしまったそうで、只今絶賛口説き中なのだそうだ。
つまり俺の家庭教師はそのついでなんだとか……。
「 ────ですので、特に恩義を感じる事はございませんよ。」
有無を言わさぬ雰囲気で、カルパスはそう言っていた。
ちなみにお相手は、レガーノの食堂で働くムチムチセクシーな未亡人の方らしい。
それを聞いた時は、へぇ〜と大人な対応を返してみせたが、心の中はウハウハ。
もしかして俺、ドノバンとは女性の好みが丸かぶりかも知れない。
是非、ちょっと薄着になったムッチリ熟女の背中について語り合いたい。
「 あのはみ出た脂肪が……たまらないっ! 」
前世で片思いしていたみち子さんのパーフェクトな背中を思い出しニタニタしそうになったが、真顔でコチラをみているレオンに気づき、直ぐにエッチな笑みを引っ込めた。
大人の男の性は、まだレオンには早い。
まずは女の子とお手々をつなぐところから!
ニコッと爽やか100%の笑顔を作り、まだまだ純粋な少年レオンには綺麗な面だけ見せておく。
健全な楽しい恋愛は、俺とて一度は通った道……人生の先輩として恋のノウハウ全てお教えしよう!────と言いたいところだが……。
爽やかな笑顔は引きつっていき、ズズ〜ン……とあからさまに肩を落とした。
俺は前世で婚約破棄されて以降、浮かれた話もない生涯未婚男。
結局童貞のまま人生終了を終えてしまったので、教える事なんて、ないな〜い。
最後はパン屋のみち子さん( 49歳、未亡人、むちむち豊満ボディー )に片思いしながら、告白することも出来ずに人生を終えてしまったし……。
突然目に見えて落ち込んでしまった俺を見て、レオンはオロオロしていたが、直ぐに立ち直った俺に、最後は肩を揺らしていた。
ま、いっか!人生楽しかったし、どんまいどんまい。
そして、そんな自分の前世を考えると、堂々と口説きに行けるドノバンは男としてカッコいいなとも思う。
さてさて、一体どんな人物が来るのかな〜?
ワクワクしながらドノバンが現れるのを待っていると、俺達がやって来た方向から一人の2mくらいはありそうな大柄な男が、のっそのっそと現れた。
ダルダル〜な感じがご立派な体格にミスマッチな人で、レオンと共に注目していると、その人物は俺たちに向かってこれまたダルダル〜な感じに片手を挙げる。
「 よぅ、待たせて悪りぃな、リーフ坊ちゃん。
今日からお前の家庭教師を引き受けた、ドノバンだ。
これからよろしくな〜。 」
薄い紫色のウェーブ掛かった髪、それを後ろで一つに縛り、顔はカルパス同様かなりの男前だがどこか気の抜けた顔というか……。
体格は高身長で、無駄のない逞しい筋肉を持っているのに、なんだか全体的に隙だらけに見える残念な雰囲気が漂う40代前半くらいの男だ。
カルパスとお友達というくらいだから、恐らく同級生だったのかと予想されるが……これだけ対極とも言える雰囲気をもつ2人がどうやって仲良くなったのだろう?と、ドノバンの頬についた見事なもみじマークを見ながら不思議に思った。
ちなみにこのドノバンも、物語には出てこなかった人。
第二騎士団の団長はアーサーの専属騎士と兼任のアルベルトで、元団長の話は一度も出てこなかった。
座学の家庭教師のマリアンヌさんは同じ人だったので、本来はやめてしまった家庭教師の男が、物語に登場していた人物だったはずだ。
またしても大幅な人員交代!
あちゃちゃ〜!と、予想外に次ぐ予想外に頭を抱えた。
今の所の俺のドノバンに対する情報は、女性の趣味が合いそうな事と恋に積極的な人という事だけ。
果たしてどんな人物なのか?
「 おはよう!これからよろしくお願いしまーす! 」
そう返事を返すと、ドノバンはニヤニヤ〜と人をからかう様な笑みを浮かべる。
「 ほほぉ〜?カルパスに聞いちゃ〜いたが、本当にやる気満々になったみたいだな。
────まっ!俺は当分このレガーノで俺にしか出来ない超重要かつ極秘任務につくことになっちまってよ〜?
その空いてる時間に、この誠実で真面目の代名詞でもあるドノバンさんが、お坊ちゃんの家庭教師を引き受けてやる事になったってわけだ。
めちゃくちゃ感謝しろよな! 」
ドノバンは、某有名お菓子の広告キャラクターの様にペロッと舌を出し、更にウィンクまでしてきたので、一気に顔が青ざめた。
大変だ!
この人、すごく嘘つきだ!
俺はドノバンの頬を飾る真っ赤なもみじマークを再度見つめながら、頭の中では不誠実!不真面目!の文字が乱舞する。
すぐに隣にいるレオンの目を両手で隠し、悪い影響から遠ざけようとしたが……フッとある可能性を思いつき、動きを止めた。
いや、でもこれは、逆に色恋沙汰の教育チャンスかも……?
う〜む……と唸りながらレオンの目から手を外すと、レオンは不思議そうな様子を見せたが────なぜかドノバンの方は突然軽い感じの雰囲気が消え、ピンと張り詰めた空気に変わった。
「 ────で、隣のそいつが、噂の ” 名無しの化け物 ” 君ってわけか……。 」
 




