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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第十八章

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704 欲しかったモノ

(アゼリア)


先程の森の異変のせいで、本日の授業は休講になった。


そのため、破廉恥エルフどもは本屋へ、そして獣人達とリーフ様の取り巻きペアーはよく分からないが『友達を作る場所』?に行っていたそうだ。


しかし、そこであの爆発音が教会から聞こえたので、ソフィア様と私に何かあったのでは?と思い、急いで駆けつけたらしい。



「あ、ありがとうございます……。」


「あ……ありがとう……。」



それを当たり前の様に言われてしまえば、ソフィア様も私もむず痒い気持ちになって、ボソボソと揃ってお礼を告げるしかできなかった。



何だか恥ずかしい……!もの凄く!!



ムズムズした感覚に必死に耐えようとしているのに、後ろでヨセフ司教の嬉しそうな雰囲気が漂ってくるせいで、中々収まらない。



「くっ……!」



眉を寄せて己の心を律していると、サイモンがレオンにしがみついているリーフ様に近づき、両手を横に広げた。



「リーフ様〜!さっちゃんは友達の危機にすぐに駆けつけました〜!

偉い子には高い高〜いして!」


「────っなっ!!」  



ニコニコ笑顔で発せられた爆弾の様な発言!


それにショックを受けたが、リーフ様はあっさり「いいよ!」と言ってレオンの上から降りる。


そして、両手を横に広げているサイモンの腰を持ってヒョイッと持ち上げた。



「はい、高い高〜い。」



サイモンの体を上げたり下げたりすると、サイモンはもの凄〜く嬉しそうな様子でキャッキャッと喜ぶ。


それを見ていると、今度は気恥ずかしさとは違うムズムズした感覚が身体に走り、体は勝手に細かく揺れてしまった。



「あ〜楽しかった!」



やがてサイモンが地面に降ろされると、今度は近くにいるリリアまで両手を横に広げてニッコリ微笑む。



「リリアちゃんもかい?うん、いいよ!」



サイモンの時同様に、リリアはリーフ様に高い高いされてとても嬉しそうに笑っていた。



「メルも……いい子。いい子。」



それが終わると、獣人のメルがぴょんぴょんとリーフ様の周りを飛び回り、必死でアピールしてきたため、エルフ組同様、高い高いしてもらう。


メルは表情にはあまり出ていないが、嬉しそうな雰囲気が周りに漂っていた。



「……ぅぅ〜。」



そんな三人を見てムズムズはピークに達したが、それを振り払う様に首を横に振り『あんなはしたないマネなんぞしおってっ!』と心の中で文句を言う。


そして、共感を得るためソフィア様の方を振り向いたが……いない。



「ソッ、ソフィア様っ!?」



一体どこに!?


焦ってバッ!!と周囲を見渡せば────なんとリーフ様の前で両手を横に広げて順番待ちしているではないか!



「ソフィア様……?」



ビクッ──!!


名前を呼ぶと、ソフィ様は体を大きく震わせた。



「つ……次は私の番かなと思いまして……。」



そして、恥ずかしそうにゴニョゴニョと呟く。


唖然としている間に、ソフィア様もリーフ様にあっという間に持ち上げられ、更にそのままクルクルと回されて凄く楽しそうに笑い出してしまった。


流石にそんなに楽しそうにされては、文句も言えない……。



「ぐぬぬぬ……!」



ムズムズ、ソワソワ〜……。


何だか嫌で落ち着かない気分のまま、それが終わるのを待っていると、やっと降ろされたソフィア様は非常に興奮した様子で戻ってきた。



「私、初めて『高い高い』されました!なんかこう……嬉しいものですね!」



ソフィア様は、他にもしてもらった3人と一緒に、キャッキャッと騒いでいる。


それをジト〜ッと睨むように見つめていると、いつの間にかサイモンが私の後ろにいて、背中をグイグイと押してきた。



「なっ、何を!?」


「ほらほら〜。次はアゼリアちゃんの番だよぉ〜?リーフ様ぁ〜!アゼリアちゃん追加で〜す!」



ギョッ!としながらと叫んだが、もう目の前にはリーフ様がいる。



「うん!分かった──!!」



リーフ様は、顔を引きつらせた私の腰をガシッ!!と掴むと、そのまま上に持ち上げた。


すると────……体は自分の思ってもない無重力を受け、今まで味わった事のない感覚が襲ってきた。



ふわふわした気分に、じっと自分だけを見つめてくるリーフ様の顔────それがリーフ様の顔から……もう朧気な記憶の母の顔に変わる。


そして周りにはそれを笑顔で見つめる父と義理の母、そしてクラーク。


それを見てやっと気づいた。



そうか……。

私は『家族』が欲しかったのか……。



突然するりと心の中に入ってきた想いに、様々な感情が渦巻く。


無視されても暴言を吐かれても暴力を振るわれても……。


それでも父を義理母を、そしてクラークに直接怒りをぶつける事ができなかったのは、その無条件で甘えられる場所が欲しかったから。



「……ふふっ。」



突然理解した自分の気持ちが、可笑しくて笑ってしまった。


だから怒りや憎しみ、悲しみは全て自分へぶつけ続け、悪いのは自分だと思いこもうとしたのだ。



「はい、クルクル〜♬ 」



先程のソフィア様同様、上に持ち上げられたまま回されて、リーフ様の顔から、周りにいる仲間達の方も見回す。



自分を初めて救ってくれたソフィア様、自分の安否を心配してくれる仲間達。


何だか自分がずっと欲しかった場所が手に入った様な気がして……喜びが湧き上がった。



「…………っ。」



すると今度は恥ずかしくなって、目をギュッと瞑ると、何度か回った後、地面に降ろされる。


ほわほわ〜……。


嬉しいやら、恥ずかしいやらで、フラフラしながらソフィア様の元に戻ると、ソフィア様は嬉しそうに笑っていた。


ほわほわした気持ちに翻弄され、無言のままボンヤリしていると、突然皆の様子を見ていたレイドがハイッ!と手を挙げる。



「じゃー次は俺、俺!」



レイドはキラキラとした目で、リーフ様の元へ走り寄ろうとしたが────その首元にスッ……とレイピアの刃が触れたため、ピタリと動きを止めた。


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