4【アルバード英雄記】
「その本を読んだ俺は、孤独で誰よりも純粋な主人公の男の子に強い憧れを持ったんだ。
それと同時に、今の自分がすごく恥ずかしくなった。
家族を見て感じていた気持ちは嫉妬で、きっとこの本の主人公に出会っていなかったら、俺は自分にないものを持つ人全員を恨むようになっていたかもしれないね。
現実を直視できず、受け入れず、ただただ人を恨み続ける……そうならない様に努力することができたのは、主人公の彼のお陰なんだよ。」
「……ふむっ。あのよく大樹さんが手にしていた本ですね。【アルバード英雄記】ですか……。私も読んでみたいです。────ちょっと失礼しますね。」
そう言ってレーニャちゃんは、俺の額に人差し指を当てるとポンッという音とともに一冊の本が出現する。
黒一色の表紙に【アルバード英雄記】とだけ書かれたシンプルな見た目の本。
まさしく俺の人生の全てを変えてくれた、相棒とも言える本そのものであった。
レーニャちゃんはその本の表紙に手を添え、突然目を閉じる。
そして時間にして5秒くらい経った頃だろうか、すぐにハッとした様子で目を見開いた。
「……驚きました。地球にアルバード王国の預言者がいたのですね。」
「────へ?予言???いやいや、違うよ〜。これは空想の物語なんだ。
その作者さんが作ったありもしない世界の作り話なんだよ。」
それを聞いたレーニャちゃんは静かに首を振った。
「いいえ、これは間違いなく予言書です。これからこのアルバード王国で起こる現実の未来が書かれています。
この世界はたしか……イシュルという小神が担当していたはずです。」
「えっ?! ど、どういうことだい?? アルバード王国が実際に存在するなんて……!
そもそも預言者なんてすごいじゃないか!そんなすごい人が地球にいるなんてびっくりだよ。」
「────いえ、預言者自体はそんなに珍しいものではありません。
世界の絶対的ルール【理】に一瞬だけ同調してしまう人が稀にいまして……。予言とは、その時覗いてしまった未来のビジョンなんです。
ただしそれは断片的で、かつ自身が暮らす世界の未来とは限りません。
この『数』という概念が成り立たないくらい無数に存在している世界の中で、自分が住むたった一つの世界の未来を偶然覗く……その確率はほぼゼロでしょう。
ですので大体の預言者は、変な夢を見たなくらいの感覚しか無いようです。この本の作者もまさか、予言書になるとは思わず書いたみたいですね。」
聞かされた衝撃の事実に俺は呆然としながらレーニャちゃんを見た。
8歳の頃に初めて出会ってからずっと俺を支え続けてくれた【アルバード英雄記】。
俺の人生そのものと言っても過言ではないこの本が現実の世界の話であったなど、驚くことしかできない。
これから起こる未来……。────では……主人公の彼は……?
俺はサァ〜……と血の気が引いていくのを感じながら、まるで独り言の様にボソッと呟いた。
「────じゃあこの本の主人公は……。<レオンハルト>は、本当にこの本の通りの人生を歩むのかい?」