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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
プロローグ(大輝、レーニャ、死後の世界にて)
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3 ” 森田 大樹の人生 ” という名の物語

森田もりた 大樹だいき>それが俺の名前。



享年59歳 170cm 58kg。


茶色い髪に黒い瞳、小さすぎない目鼻口、全体的にスッキリしている顔に鼻の先にそばかすが少々……。


一度見たくらいでは全く印象に残らない『平凡』がトレードマークの男、それが俺、<森田 大樹>という男だ。



漫画などで例えるなら活躍する主人公の背景で「すごいっ!」「彼は一体何者だ!?」────などと、叫ぶ通行人にいそうな俺だったが、生まれは少し平凡ではなかった。




まだやや肌寒い4月の初め頃、公園の一角にある大きな大樹の下のベンチ。


そこに、へその緒がついたまま捨てられていた赤ん坊、それが俺だった。



簡素な白いタオルで包まれていただけの俺には、身元のヒントになるようなものは何一つなし。


そのため孤児院【りんごの家】に引き取られた後は、大樹の下に捨てられていたことから、名前はそのまま<大樹>と名付けられた。



自分には両親というものがいない事。


そして自分の暮らすところが、そういう子供たちを育てるところである事。



何不自由なく育つ中でそれを徐々に理解し始めると、ただ漠然とした『寂しい』という気持ちが、常に心の奥底に張り付くようになった。



孤児院の先生たちは優しいし、一緒に暮らす子供たちとは朝から晩までずっと一緒。


なのに、心は、『寂しい、寂しい』と毎日必死に訴えかけてくる。


それは両親に挟まれ幸せそうに歩いている子たちを見る度に強くなっていき、とうとう心に鋭い痛みが走る様になった頃────俺はある運命の出会いを果たした。




それは俺が、8歳の誕生日を迎えた日の事。



学校帰りに幸せそうな家族の姿を目にしモヤモヤした気分になった俺は、まるで逃げるようにいつもと違う道で帰宅する。



チクチク……。


ジクジク……。



日ごとにひどくなっていくその痛みを振り払う様に全速力で走っていると、偶然図書館の前を通りかかった。



元々本を読むより外で遊ぶことを好む性格であったため、普段は図書館に近づくことすらしない。


しかし、その日は自分の誕生日ということもあり、なんとなくこの気持ちを持ち帰りたくなかった俺は、落ち着くまで図書館で時間を潰すことにしたのだ。



中に入り目に映るのは、カテゴリー別に並べられた沢山の本、本、本。



特に探している本があったわけでもないので、ただ並んでいる本を流し見しながらウロウロと歩き回っていると、やがてファンタジー小説のコーナーに辿り着く。



孤児院でも小学校でも、剣や魔法、勇者やお姫様などが登場するファンタジー小説は大人気だったため、本を読まない俺でも一度は聞いた事がある様な本が沢山並んでいた。



「────あっ、これこの間、孤児院の友達が話してたやつだ。」



聞き覚えのあるタイトルに興味を引かれ、端から視線を走らせていくと、本棚の一番下、更にその一番隅に置かれた本で目が止まる。



シンプルで黒一色の本……。



「…………?」



それを気まぐれに手にしてみると、他の小説は色鮮やかな可愛いイラストが描かれているのに、その本は無地の黒い表紙にたった一文しか書かれていない。



【アルバード英雄記】 



これは恐らく本のタイトルで間違いないと思うが……。



「……なんだか、随分他の小説と雰囲気が違う本だな。」



周りに置いてある少年少女向けの冒険モノ小説とは明らかに違うテイストの表紙に、逆に興味を引かれてよくよく見れば、長いこと誰にも借りられていないのかホコリまで被っている様だ。



「全然借りられてないのかな?……じゃあ、面白い話じゃないって事か〜。」



少しの興味と共に最初のページを開いてみたが、予想通り一度も借りられた事は無いようで貸出札は真っ白であった。



きっと読んでもつまんない話なんだろう。


そう思いその本を本棚に戻そうとしたのだが……なんとなく気になってその手を止める。



色鮮やかなイラストの小説が並ぶ中、ひっそりと目立たぬように置かれた寂しい本。



それはまるで、かっこよくて華やかな主人公たちに囲まれた脇役のようで、なんとな〜く妙な仲間意識が芽生えてしまい、その本を借りてみる事にしたのだ。



そうして孤児院に帰った俺は早速その本を開くと、大人が読むにしても大変そうな厚さをもったその本には、1ページ1ページにこれでもかとぎっしりと文字が並び、最初はヒィヒィと悲鳴を上げながら読んだ。


しかし……次第に俺はその物語の世界に引き込まれていく。


途中で先生や同じ孤児院の友達が話しかけてきても反応できないくらい、俺はその話に夢中になり────読み終わる頃には、その本は俺のこの後の人生全てを変えてくれた、まさに『運命』とも言える様な本になっていた。


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