42 とりまき登場
( リーフ )
モルトとニールだ!
俺は目の前にいる彼らを見て、ジ〜ン……と感動に打ちひしがれる。
【 アルバード英雄記 】悪役リーフの隣に常に控えていた小悪党。
リーフの悪のカリスマに陶酔し、ありとあらゆる悪事に加担していた、いわゆる金魚のフン的なとりまき二人組の< モルト >と< ニール >。
彼らは共に男爵の爵位を持ち、この街< レガーノ >で暮らしている。
俺は二人を見比べた後、まずはモルトの方へ視線を向けた。
モルトは濃いめの灰色の髪色を持ち、寝癖の一本も見当たらないサラサラヘアーで、前髪はキッチリセンター分けの、イメージ的には良いところのお坊ちゃん。
俺より少しだけ背丈は小さい。
緊張を見せまいとピシッと気をつけの姿勢を崩さないところから、とても真面目な性格をしている事が伺える。
モルトの家は、主に花の製造業を生業にしている家元で、その品種改良に関して右に出る者はいないと言われる程の名家だ。
特に薔薇に関しては、王家御用達とまで言われている程で、物語の中では薔薇や美しい花が大好きな【 メルンブルク家 】にとって、なくてはならない家であった。
しっかりモルトについての情報を頭の中で整理した後、続けてニールの方へ視線を向ける。
対して< ニール >は、赤毛に近い茶色の髪色に、所々クルンクルンとパーマの様に髪の毛がウネっている髪型で、モルトに比べるとややポッチャリさん。
俺より少しだけ背丈は大きいかな?くらいの体型の少年だ。
こちらもモルト同様緊張している様子だが、モジモジと体を小刻みに動かしている事から、あまり自身の感情を隠すのが苦手なタイプの様だ。
ニールの家は幾つもの牧場を所有している、いわゆる畜産業の元締めで、全国民になくてはならない牛乳やチーズなどの乳製品や加工物を流通して生計を立てている。
そんな二人の家は、元々その商売が大成功し、男爵の爵位を与えられただけあってかなり裕福。
だからこそ物語の中では、身分が格上である公爵家リーフに、最後まで付き従う事ができたのだ。
俺は軽く目を閉じ、物語に描かれている二人の結末を思い出す。
レオンハルトにボコボコにされリーフが失脚するまで、二人は頻繁に出てきては、悪逆非道な行いに手を染め続けた。
” リーフが右と言えば右が正義!左と言えば左が正義! ”
そんな正当性の全くない絶対正義の元、堕ちるところまで落ちた二人は────最後はリーフと共に、実家ごと没落し物語からご退場してしまった。
本を読んでいる時は、この二人が出てくるたびヒヤヒヤしたり怒ったりしたものだが、いざこうして目の前にすると感動する気持ちがドンッ!と前に出る。
何度も何度も読み返した、俺の人生と言っていいほどの【 アルバード英雄記 】
その登場人物が今、目の前にいる……!
俺は本当に、レオンハルトと同じ世界に来れたのだ。
ジ〜〜〜〜ン………。
溢れる感動に浸っていると、二人は突如ババっ!と凄い勢いで頭を下げてきた。
「「 おはようございます!リーフ様!!」」
そして見事にハモった声で俺に挨拶をしてきたので、おおっ!と少々驚かされる。
容姿端麗でご両親の愛を一身に受けたリーフ────……じゃない俺でも、本の中同様仲良くしようとしてくれるらしい。
二人の可愛い旋毛を見ながら、ニッコリと微笑んだ。
" リーフってぇ〜なんかブサイクだし〜カッコ悪いし、仲良くするのや〜めた! "
" へっ!ザッコ!バーカバーカ! "
こんな感じで、俺の予想では、早速オジジの雷ゲンコツをご披露する事になるだろうと思っていたので、この反応はびっくりだ。
しかし同時に疑問にも思う。
物語で描かれていた悪の手先のモルトとニール。
悪い子のお手本みたいな二人は、絶対に今の俺相手なら何かしでかすだろうと思っていたのに……?
「 ────うう〜ん……? 」
少し違和感を感じて、首を傾げた。
そもそもこの2人はリーフの " 美の女神の様な美しさ " と " 冷徹に人を陥れる悪魔の様な手腕 " に陶酔する形で常に側にいたはず。
そして作中のリーフの側にいた二人は、" 爵位は低いが、とても傲慢で極端な思考をしている性格 " と書いてあったのだが……?
「 …………。 」
コチラを気遣いビクビクする様子は、とてもではないが傲慢には見えない。
どういう事??
そこでフッと思い出したのは、悪のカリスマ美少年< リーフ >と出会って直ぐの辺りに書かれていた事についてだ。
” モルトとニールはリーフの命令に従い、次々とレオンハルトを陥れ────……。 ”
────あれ?もしかして、この二人って……。
オドオドと俺の返事待ちをしている二人を見て、キラっ!と目を輝かせる。
頭脳明晰、そして絶世の美を持つ悪のカリスマに陶酔し、やがて子悪党キャラへ。
しかし、外見平凡!人を陥れる頭脳皆無のトリさん頭の俺に陶酔はできない。
つまり────この二人は俺が命令しないと、意地悪子分にはならないのでは??
「 ……うひょ! 」
「「 ────っ?! 」」
思わず変な笑い声が漏れてしまい、二人はビクビクと体を震わせた。
もしかしてこの二人は、ただ ” 尊敬するリーフに認められたい ” という気持ちからレオンハルトを虐めていたのかもしれない。
そしていつしかそれを楽しむ様になり、性格もそれに合わせて変化していき────……。
俺は悲しい気持ちで、小さく震え続けている二人を見つめた。
人と人との出会いは毎日が変化の嵐だ。
元々持っている形によってその変化の仕方も様々で、人と関わるほどにその形はチョロチョロと変わっていく。
それこそ良い出会いをすればそれに合わせた形に、そして悪い出会いをすれば同様にそれに合う形へと変化する事も……。
まぁ、大抵の人はまずい!と思ったら逃げれるかもしないが……この爵位が重んじられるこの国では、簡単に逃げる事ができないはずだ。
この二人から見れば公爵家という途方もない権力と、更に圧倒的なカリスマを持った暴君を前に、例え嫌でもそれから逃れる事が出来なかったかもしれない。
そして自分の心が迷子のまま、その形をどんどんと変えていき……とうとう最後は戻れない所まで行ってしまったという訳か……。
「 …………。 」
一つの人生の選択とその悲しい結末を想い、なんとも言えない気持ちで頭をポリポリと掻いた。
この二人の子供たちが真の悪役リーフと出会わない事で、どの様な選択をしていくかは分からない。
だが、とりあえず俺がリーフとなった今、レオンハルトの虐めに絶対に参加させるつもりはないので、今ある個性を今後は存分に育てていって頂きたい。
そもそも悪役はこのリーフ様で十分!
それ以外の悪役は除外すべし!
「 おはよう!こちらこそよろしく! 」
決意を新たにし、緊張で未だガチガチの二人にと返事を返した。




