38 護衛騎士と待望の……
( リーフ )
向けられた優しい気持ちにホワッと胸が暖かくなるのを感じながら、頭の中でドンッ!と胸を叩く。
ありがとう!皆!
そしてもう大丈夫だよ、どうか安心しておくれ!
心配そうに見てくるカルパスとジェーンを安心させるため、ニンマリとちょっと胡散臭い大人の笑みを見せておいた。
なんてったって前世を思い出した俺は、この中の誰よりも歳が上!
還暦間近の……いや、今世の人生を足したら還暦超えたおじさんだから。
俺の笑みを見て少々身体を震わせた二人を見て、ヨチヨ〜チ!とあやしたくなるくらいには歳とってるよ!
子供から一気におじさんへと進化した俺にとって、この環境を提供してくれている両親には感謝しか残っていない。
一生懸命仕送りしてくれる親……。
そこまで考えて────フッとある考えが浮かんだ。
あれ?自分と両親の年齢を考えるとこの状況は、仕送りをたんまり送ってもらう駄目親みたいになっちゃわない?
俺の方が親。
「 …………。 」
なんか嫌〜。
でも現在外見は8歳……これでは新聞配達もできない。
「 ぐっ……! 」
自分の今の立場を憂いて思わず唸ると、カルパス達が ” やはり今日もオギャンか……? ” と身構えたが、俺はポクポクとこれからの事を考えるのに忙しく、それに気づかない。
健康である以上、自生生活をしたいが俺の体はまだ働けぬ子供……今は仕送りしてくれるリーフのご両親に感謝して現状に甘えよう。
そして今の立場を活かして、怪しまれない様にレオンハルトを見つけ、その後は────< 悪役リーフ >に相応しき、残酷な虐めを速やかにスタートさせる!
まずはこの2つを目指して頑張ろう。
これからの方針がバッチリと決まり、頬をパチパチと叩いて気合を入れた。
よーし!おじさんは頑張るぞ〜!
フンフン!と鼻息荒く立ち上がると、まずは驚いた様子を見せるカルパスとジェーンの前に立ち「 今までごめ────ん!! 」と大声で謝った後、ペコリと頭を下げる。
「 おっ……お気になさらずに……?? 」
2人は更にキョトンとした顔でお互い顔を合わせると、よく分からないといった様子だが返事を返してくれた。
そしてその後、すぐに早く立ち直ったカルパスが俺を玄関の扉まで案内すると、そこで初めて……いや、記憶を取り戻してから初となる人物とのご対面を果たす。
今日の護衛として俺に同行してくれる予定の────専属護衛< イザベル >だ。
「 おはようございます、リーフ様。
本日はよろしくお願い致します。 」
扉の前には、戦闘用の防具に剣を腰に差している女性が立っていて、キリッとした様子で俺に挨拶をしてくれた。
歳はまだ10代後半くらい。
薄い栗色の髪に毛先がクリンとしたボブカット、キリッとした目元がとても可愛らしいお嬢さんだ。
真面目そうな性格がにじみ出たかの様に、シャンっと伸ばした背筋と、俺に向かってするお手本のようなお辞儀がどうにも微笑ましい。
ニコニコ笑う俺を見てイザベルは不思議そうな顔をするが、俺が頭を下げると今度はギョッ!と目を見開いた。
「 今まで困らせちゃってごめんね。今日はよろしくお願いしま〜す! 」
「 は、はぁ……。 」
その驚いている顔は、先程見たカルパスの顔にそっくり!
それもそのはず、なんとこのイザベル、カルパスの実の娘さんなのだそうだ。
俺はゆっくり頭を上げて、盛大にハテナを飛ばしているイザベルを見つめる。
イザベルは戦闘に適した才能に恵まれ、現在はこの屋敷の護衛と守衛の全てを引き受けてくれているそうだ。
そんな足を向けて寝られないくらいの働き者のイザベル。
そんなお方を今まで一番煩わせていたのは、残念ながら────この俺!
とりあえずもう一回頭を下げておこう!とペコペコ〜と頭を下げると、イザベルはチラッと父親のカルパスに意味ありげな視線を送る。
” ちょっとこの人どうしたんですか? ”
” 今までどうしようもない我儘ボクちゃんだったのに? ”
そんな言葉が聞こえるような気がして、頭を上げて任せろ!とばかりに胸を叩いた。
大丈夫、大丈夫。
ブラックな職場環境、時間外勤務はおしまいにして、これから少しづつ負担を減らしてホワイトな職場環境にしてみせます!
キラキラと目を輝かせて心の中で宣言すると、ちょうどジェーンがお昼のランチが入ったバケットを持ってきてくれた。
すかさずそれを受け取ろうとしたのだが────ハッ!と我に帰ったイザベルに奪われる。
「 こちらは私がお持ちするモノですので! 」
「 いやいや、これくらい自分で〜……。 」
────ギンッ!
鋭い眼光で拒否するイザベルに……とりあえず諦める事にした。
自分より遥か年下の女の子に荷物を持たせるの、ちょっとかっこ悪いぞ〜?
複雑〜な気持ちを抱えながらも外に出るための扉の前に立つと、イザベルは俺の後ろにピタリと付き、カルパスは扉を開けるためドアノブに手を添えそのサイドに立つ。
「 それでは、教会へはイザベルが護衛を努めますので何なりとお命じください。
本日は教会でお祈り後、ご友人のお二方とランチをする予定もありますのでどうぞ楽しんできてくださいね。
ご友人の方々はもう外でお待ちです。
それでは、お気をつけていってらっしゃいませ。 」
ペコ〜と完璧な礼をするカルパスを見ながら、本日一緒に行くご友人とやらの情報を頭の中でまとめていった。
今日一緒に行く友人とは、本日が初お目見え。
お祈りした後のランチ会は、これから宜しくね!という挨拶も兼ねての交流会という事らしい。
ゆっくりと開けられていく扉から漏れる光に目を細めながら、ふ〜む?と考え込む。
その子達は、これから俺に仕えることが決定している子供達だ。
────というのも、貴族の子供は基本、自身の住居近くに爵位が上の者が住んでいる場合、その家の子供に付き従うのが常識だからである。
もちろん仕事の関係上他の貴族の子供に付き従うこともあるが、その場合どちらの爵位が高いかで決めなければならず、その関係性はとても複雑だ。
いくら家族に見放されてようが俺の爵位は公爵、王族の次に高い身分ともあればこれから会う子供たちは、よっぽどのことが無い限りそれを拒否することができない。
子供のうちから既に社会の縮図とも言える経験をさせられて……。
厳しい現実にホロリっとしながらも、どんどん強くなっていく光を見つめながら俺の脳裏にある人物たちの姿が思い浮かんだ。
【 アルバード英雄記 】、悪役リーフに最後まで付き従ったとりまきの2人の存在……。
完全に開け放たれた扉の向こうに佇む2人の姿が、俺の記憶と完全に一致する。
リーフを崇高し、レオンハルトに対する悪事に喜んで加担し続けた悪役サイドの登場人物。
────モルトとニールだ。