1 ハッピーエンド
ぐすっ……ひっくっ……。
近くで沢山の子供達の泣く声が聞こえる……。
「大樹先生死なないでっ……!!」
いつもは勝ち気で涙一つ見せたことのなかった子が、ポロポロと泣きながらそう叫ぶと、他の子供達も一斉に泣き出した。
『泣かないで……。』
そう伝えたいのに、このポンコツの体は、ヒューヒュー……と苦しげに息を吐くことしかできない。
ここは助かる見込みのない患者を看取るための病室で、末期の癌を患った俺が最後を迎える場所。
ここのお医者さんも看護師さんもとても優しく、体は痛みと苦しさに悲鳴を上げてても、今日この日まで心穏やかに過ごすことができた。
そのことに感謝をしながら、目だけで部屋の中を見回した。
白を基調した部屋の中、俺の細く弱々しくなった腕にはいくつもの点滴が繋がっていて、そして骨が浮き出るほどやせ細った体にはおそらく心電図だろうか……?沢山のコードが繋がれ、ピッピッという一定のリズムの機械音を刻む。
そんな俺の周りを囲むのは、俺が経営していた孤児院【りんごの家】の子供たち。
俺の命よりも大切にしてきた子たちだ。
「そんなに大きい声で泣いたら、大樹先生おどろいちゃうぞ……。」
泣くのを必死に堪えた表情でそう言ったのは、俺の高校時代からの親友で、現在は【りんごの家】の新しい園長になってくれた<陽太>だ。
その隣には俺の幼馴染であり、彼の妻である<まき>がボロボロと、涙を滝のように流して立っている。
この場の全員が、これが最後であることが分かっていた。
そんな重苦しい空気の中、俺は自身の歩んできた人生を振り返った。
辛くても苦しくても、歯を食いしばって全力で駆け抜けた日々を想う。
そして、悲痛な顔で俺を見下ろす大事な人たちに、最後の力を振り絞り精一杯の笑顔を見せて言った。
「俺の人生……最高のハッピーエンドだった……。
皆……ありがとうっ……。」
その言葉を最後に、視界は徐々に暗くなっていく。
皆の泣き叫ぶ声もどんどんと遠ざかっていき、やがては何も聞こえなくなった。
こうして、俺の59年の人生という物語は、最高のハッピーエンドで幕を閉じたのだった。