25 レオンハルトの出した答え
(大樹)
「そ……そんな……。」
体中の力が抜けてしまった俺は、ヘナヘナ〜と椅子の背もたれに体を預ける。
そしてそのまま一度ゆっくり深呼吸をしてから、出来るだけ冷静にレーニャちゃんに質問した。
「どうしてそうなったのか……なぜそれが必要だったのか……。
初めから教えてもらうことはできるのかな?」
「……はい。もちろん大丈夫ですよ。
まず初めに、レオンハルトが存在していた世界の小神<イシュル>は、こう考えました。
『この世界の在り方はそこに住む者達が決めるべきだと。』
だから彼女は、それを決めるにふさわしい、強くて美しい魂をもつ者を英雄と定め、【イシュルの聖大樹】に辿り着いたレオンハルに『世界の在り方』を問うたのです。
6つの柱は、レオンハルトに『世界』を見せ、その裁定をさせるためのモノでした。」
「なるほど……そういう目的があったんだね。英雄の役目は世界を裁定することだったのか……。
だからレオンハルトはあんなに強かったんだ。」
レオンハルトが、とんでもない力を持っていた理由に納得したが、レーニャちゃんは腕を組み、うーん……と考え込む様子を見せる。
「────いえ、それが……少し変なんですよ。
あの強さ……『人』の枠から外れすぎている気がします。
そもそもイシュルの世界の【資質】とは、いわゆる『魂が本来持っている才能』の事。
レオンハルトがいる世界は、それを具現化することのできる様、創られた世界のようですね。
そのため英雄とは、世界を変えうる可能性を秘めた才能で、だからこそ世界の裁定者になることができるのですが……本来魂というものには容量があります。
ですので、過ぎた力はそれに収まらず、魂が消滅するはずなのです。
おそらくこのレオンハルトの魂は規格外……それこそ神と同等……いえ、それ以上かも……??」
後半の部分はブツブツと呟くように言っていたため、よく聞き取れなかったが、ようはレオンハルトはすごく才能がある英雄だったと、そうゆう事だろう。
流石は俺の生涯のヒーロー様!
なんだか自分の事では無いのに胸を張ってしまったが、すぐにそれどころじゃない事を思い出す。
「英雄の役割は分かったけど、それでなぜレオンハルトの世界が『無』になってしまったんだい?
だってレオンハルトは、誰も恨んでなんていなかった。
悲しみも憎しみも全て受け入れて、世界に復讐する力を持っていたのにそれを決してしようとしなかったのに……。」
「……そうですね。確かにレオンハルトの心には、その様な感情は一切感じられません。
しかし、だからこそその決断に至ったようです。
彼は今までの経験から『生きること』『死ぬこと』、その2つを分ける必要は無いと考えました。
今を生きる人々が存在する世界も、死ぬことでその世界から消え去る事も、それを分けてしまうから様々な問題が生じている。
ならそれを全て無くしてしまえばいいだけだと、レオンハルトは全く迷う素振りも見せずに淡々とそう答えたようです。
そうして彼のいた世界は、『生』と『死』すら存在しない『無』になったのです。
『生きるとは何か?』、レオンハルトが出した答えは────『無価値』……でした。」




