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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
プロローグ(大輝、レーニャ、死後の世界にて)
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19   決意

学院に着いたアーサーは、早速レオンハルトに会うため実技の授業を行っている闘技場へと急ぐ。


そして闘技場へたどり着くと、その場には報告通りの『世界』が広がっていた。



楽しそうに笑い合う教員に生徒達、そしてその中心に立つのは光り輝くような笑みを浮かべた美しい青年────リーフ。


そして唯一、その世界に存在していない青年がレオンハルトだ。



その姿を初めて自身の目で確認したアーサーは、他の者たちと同様に恐怖を覚えたが────彼はそれを自身が持つ数々の経験と知識による柔軟性で抑え込み冷静に考えた。



なるほど……確かに彼は恐ろしい。



一切の光も通さぬ黒髪、この世の何も写していない空っぽで真っ黒な瞳、そしてまるで呪いそのものであるかのような左半身……。


その姿は、この世を滅ぼす邪悪な存在の様にも見えた。



それと同じ様な印象を抱いたのか、普段はけして感情を表に出さぬアルベルトでさえ、その顔に恐怖を滲ませてレオンハルトを見つめている。



この国の第2王子であるアーサーの突然の来訪に、教員はもちろん生徒達にも緊張が走ったが、その中で唯一リーフだけは違った。


アーサーに、自分の実力を見せつける絶好のチャンスだと、そう考えたのだ。


誰も彼もが黙ってアーサーに膝をつく中、リーフは1歩前に進み出て挨拶と自己紹介を始めたが、アーサーはそれを途中で遮りこう伝えた。



「英雄レオンハルトと話をしにきた。」と。

 


その言葉を聞いたリーフは、一瞬片方の眉をピクリと挙げレオンハルトを睨みつけた後、見惚れるような笑みを浮かべる。

 

 

「失礼ですが、我がメルンブルク家の奴隷ごときにアーサー様ほどのお方が何の用でしょうか? 

()()はアーサー様が気にかけるようなものではありません。

英雄とは皆のお手本となるべき美しさと気品、そして相応の身分と実力を兼ね備えた者を言うのです。

そういう点では、()()より私のほうが英雄にふさわしいかと……。」




それを静かに聞いていたアーサーは、それに反論することなく、無表情で立つレオンハルトに目を向けた。



「君自身はどう考える?

先程からこちらの様子を見ていたが、君は奴隷という点を除いても、あまりに無抵抗だし表情一つ変わらない。

死を望んでいるのか?」



その問いに、レオンハルトは表情一つ変えずに「分からない。」と答える。



「では生きて自由になりたいのか?」



立て続けに問うアーサーに、レオンハルトの答えは変わらず『分からない』。


すると、アーサーは少し考えた後でこう言った。



「分からないと言うことは、その答えを導くための知識と経験が足りないということだ。

それは君自身の意志を持って行動しなければ、決して手に入らないよ。」



アーサーの言わんとする事が分からず困惑するリーフと他の者達。


そしてやはり何一つ心に響いてなさそうなレオンハルトに対し、アーサーはレオンハルトに描かれた奴隷陣と同じ場所である首筋を指で指す。



「それにはまず、君は君自身を取り戻さなければならないだろう。

他の誰のものでもない、君は君のものなのだから。」




その時レオンハルトの瞳に宿ったのは、小さな興味であった。



自身の持っている小さな疑問、それに答えが出るかもしれない。


────だが……きっとその答えが出たところで、何かが変わることなど無い。



小さな興味は、自分にとっての『あるがままの世界』によって否定される。



自分という存在は、やはり絶対的な孤独の中を漂うだけ。

それが俺の居場所だと理解しているのに、こんなことにいつまでも執着していても……。



その時、ふと誰かに呼ばれた気がした。




…………一体誰だ?




レオンハルトはその方向に視線を向けたが、誰もいない。


突然ぼんやりと何もない宙を見つめるレオンハルトの側で、リーフの我慢は限界を超える。



この美しく、全てにおいて完璧な自分をさておき、レオンハルトなんかに話しかけるアーサーに、そしてそれすらもどうでも良いと言わんばかりのレオンハルトの態度に。



リーフは今まで誰かにこんな屈辱的な態度を取られたことなどなく、その怒りは一瞬で燃えあがる。


するとその激情のまま、リーフは自身の靴を片方脱ぐと、それを力いっぱいレオンハルトの顔に叩きつけた。



「お前はこの俺、リーフ・フォン・メルンブルクの奴隷だろう!俺の命令に従うこと、それだけがお前が唯一手にする事ができる最高の幸せだ! 

さぁ!!さっさとその場で跪き、その靴を舐めてきれいにしろ!!」



リーフの不快な気持ちに反応した奴隷陣はレオンハルトの全身に痛みを与え、彼の膝を地面につけさせたが、それでもレオンハルトはリーフの靴を拾おうとはしない。



それに対しさらに激昂したリーフはレオンハルトに魔法を打ちこんだ。


────が……。



一瞬でレオンハルトの前に移動したアルベルトが、魔法を剣で弾き飛ばしリーフを前にして立ち塞がる。


それにリーフは、ぐっ……と忌々しげに顔を歪め、異議を唱えようと口を開こうとした瞬間、それを傍観していたアーサーが先に口を開いた。



「リーフ、君はとても優秀な生徒であると聞いている。決して無抵抗の者にしか攻撃できないような腰抜けではないはずだ。

だから良ければその実力を私にも見せてくれないか?

方法は…そうだな、レオンハルトとの一対一の決闘ではどうだろか?それもただ戦うだけではなく、お互いの望みをかけた正式な決闘で。」



自身の勝利を確信しているリーフは、アーサーの提案に喜んで承諾した。


そうして、リーフが勝てばレオンハルトは未来永劫彼の奴隷のまま過ごし、更にはリーフこそが真の英雄であると王家は認める事、レオンハルトが勝てばリーフの奴隷である事から解放され、彼は自由を手にする事ができる事、それがアーサーの名の下に約束された。



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