194 ニール始動
( リーフ )
その後、少し時間を置いてニールの出場する〈 食通王大会 〉が開催された。
この大会はスプーン一杯分盛り付けられた料理を食べ、その料理名を当てるクイズ方式。
さっきのモルトの時とは違い、最初から横一列に参加者全員がズラリと並び、参加者達の前には一人につき一つ小さなテーブルが置かれている。
クイズは早押しで、食べ終わったタイミングでテーブルの上にあるボタンを押してその料理名を答えるというシンプルなもの。
食に対する知識の他にも、それを瞬時に思い出す瞬発記憶力も必要となってくる様だ。
俺はまたレオンに持ち上げて貰ってステージの方を見ると、そこにはスッと目を閉じたまま口元を隠すように両手を組み肘をつく……そんなポーズをとったまま動かないニールの姿があった。
「 ニール緊張してんのかな〜?
さっき蟻の視線も気になるほど恥ずかしがり屋だからって言ってたし……。
────あ、もしかしてあれ、気絶?? 」
するとモルトは、はっと鼻で笑う。
「 恥ずかしいという概念が存在していない世界の住人ですから大丈夫ですよ。 」
「 心拍数、呼吸バイタル問題なしです。 」
モルトに続きレオンは、ニールがキチンと気絶していない事を教えてくれた。
「 そっか〜。 」
大丈夫らしい事が確認できて安心していると、参加者たちの前にスプーン一杯ほどの肉料理?が運ばれて来て、とうとう大会がスタートした様だ。
全員が運ばれてきた物を直ぐに口に入れたが、ニールは一人とても落ち着いていてゆっくりと口の中にそれを運んでいた。
あんなにちょっぴり口に入れた程度で、どこのお店の料理なんて分かるものなのかな……。
心配しながらニールの様子を見れば、これまたゆっくりと咀嚼している様子だったが、その間に、食べ終わった参加者が早くも ” ピンポーン ” !!とボタンを押す。
「 ” 楽々キッチン ” の仔牛のステーキ!! 」
そのボタンを押したちょっとふくよかな男性が自信満々にそう答えると、ブッブ────!!!という不正解音が鳴り、彼の真下の床がパカリと開いた。
「 うわあぁぁ────!! 」
そして、その男性は叫び声とともに下へ落下!
その直後べチャリという不穏な音が聞こえた。
「 おおっと────!!!!残念ながら不正解────!!!
答えを間違えた野郎は、下のスライムプールに真っ逆さまだぜ!
答える時は慎重にな! 」
司会者の説明後、ステージの横からスライムの粘液でベチョベチョになった男がヨロヨロと出てきて、俺も観客たちも、うへぇ〜と顔をしかめた。
勿論明日は我が身の出場者達は全員が汗を掻き、ゴクリと唾を飲み込んだが────ニールだけは落ち着いたまま咀嚼を続ける。
そしてゴクリと飲み込むと、突然カッ!と目を見開き、手元のボタンを勢いよく押した。
────ピンポーン!!!
押されたボタン音に司会者は振り返り、ニールに向かってビシッとマイクを向ける。
「 おおっと!!ボタンを押したのは、本日街の外から来てくれたミニポチャボーイ!!
さぁ!あんたの答えを教えてくれぇぇ────!!! 」
「 ” 七色食堂 ” の ” 仔牛のキノコソテー ”
ちなみに仔牛は ” モーモーファーム産 ”
キノコは ” ライキーきのこ産 "
タレは木苺と醤油をベースにした甘じょっぱい秘伝の濃厚ソース。
予約は一年先まで取れないとされる最高級オーダー品だ。 」
シーンとした会場でドヤ顔でふっと笑うニール。
一瞬の静寂の後、司会者の男が慌てて喋りだした。
「 せっ、正解だぁぁぁ────!!!!
まさかの料理名だけではなく、産地とソースまで当てるとは文句ナシの大正解だぜ!!
これはすげぇ奴が現れたぞ────!!!! 」
わあァァァ〜〜〜〜!!!と盛り上がる会場内。
俺も興奮しながら、下で死んだ魚の様な目をしているモルトと、涼しい顔で俺を持ち上げ続けているレオンに話しかける。
「 ちょっとニール凄くない?!
食べることが好きって言ってたけど、まさかここまでとは……! 」
「 ……ちっ、ミニブタめ……。 」
モルトが何か言ったようだが、レオンが俺をゆっくり降ろしムッとしたままステージに向かおうとしたので、止めるのに必死で聞こえなかった。
レオンの負けず嫌いスイッチ押しちゃった、押しちゃった〜!
レオンの腰にしがみつきズリズリと引きずられながら、何とかしなければと、俺は力の限り叫ぶ。
「 レオンのかっこいいとこ見たいな────!
腕相撲が一番かっこいいな────!! 」
両足で踏ん張ってレオンを引っ張り続けながらそう叫ぶと、不意にある絵本の挿絵が思い浮かんだ。
” はい、うんとこさ〜♬どっこいしょ〜♬
それでもカブは抜けません〜♬
あれ?俺、今抜けないカブを引っこ抜こうとする童話みたいじゃない?
そんな事をフッと考えると、思わずぶぶーっ!!と吹き出してしまったが、レオンはその瞬間ピタリと止まる。
「 一番は俺……腕相撲ですね? 」
意味不明に笑っちゃったからてっきり怒って止まったのかと思えば、どうやら大丈夫な様だ。
それにホッとしながら「 そのとおり!! 」と伝えてあげると、レオンは心得たとばかりに頷いて、また俺を持ち上げてくれる。
「 程々にしないと出ますよ?……死人が。 」
モルトがボソッと俺に向かって呟いたが、その声は再び完璧な答えを出したニールへの歓声によりかき消されてしまった。
そうしてニールは他の参加者達を遥か下へと置き去りにし、見事優勝。
トロフィーと優勝賞品のカラフルなきのこを持ってドヤ顔でこちらに戻ってきた。
「 まっ!俺の実力だとこんなもんすかね!
俺はどっかの誰かさんみたいなスケコマシではなく、しっかりとした実力ある男なので! 」
トロフィーをフリフリと振りながらモルトに向かって、鼻で笑って話しかけるニール。
そして迎えるは、フッと心底呆れ果てているようなモルトの冷笑だ。
「 ははは。牛やブタの世話をしているミニブタの唯一の特技だからな、食べることは。
女性の扱い方など知らなくて当然。
気にしては駄目だぞ、ニール。 」
ニールの言葉にモルトが反撃!
途端にピンッと張り詰める空気に周りにいた人達が、なんだ?なんだ?と興味津々でコチラを見てくる。
「 なんだとっ!もういっぺん言ってみろ!
スケコマシのむっつり男!! 」
「 なっ!!そっちこそふざけたことを言わないでくれ!
ミニブタ野蛮人!! 」
ぎゃーぎゃーと罵り合いながら、とうとう取っ組み合いの喧嘩になってしまった2人に、周りの観客達はピューと口笛を吹きだした。
「 頑張れースケコマシ〜♬ 」
「 そこだ!負けるなミニブタちゃんー! 」
そして、あちらこちらから野次を飛ばす。
「 ……やれやれ。 」
俺は持ち上げられてレオンの腕の中で、抱っこちゃん人形のように大人しく抱っこされながら、喧嘩を見守った。
しかし、ニャーニャーじゃれつくネコちゃん達がヒートUPしてきたのを見計らい、そろそろ引き離そうかとレオンから降りた、その時────ボボォ〜ンという鐘の音が耳に入る。
『 間もなく< ダンス大会 >が始まります〜。
参加の方はステージの裏手に集合して下さい〜。 』
来たるべき時が来た!
「 やっときたぞ!俺の出番だ!
皆、いってきま〜す♬ 」
俺は喧嘩している2人とレオンにご機嫌でそう告げて、足早にステージの方へと向かった。




