187 ポッポ鳥とレオンと俺と……未来
( リーフ )
ポッポ鳥は4匹いるので、そのうちの2匹に乗せてもらえる事に気づきテンションは急上昇する。
勿論乗ったことはないが、俺は屋上遊園地にあったロデオマシーンの歴代最高スコアを叩き出した男────問題ない!多分!
キラキラした目でレオンを見上げれば、レオンは何やら複雑そうな顔をした後「 では、少々お待ち下さい。 」と言って、ゆったりしているポッポ鳥達の方へスタスタと近づいて行った。
「 クピャァァァ────!!? 」
ポッポ達はレオンの接近に気づくと、鳴きながらビクビクーン!!と震えたが、レオンは全く構うこと無く、先程俺を鼻で笑った凶暴なポッポ鳥の前に立つ。
「 ク……クピィ……。 」
凶暴だったポッポは地面に横たわり、お腹を見せてレオンを見上げたが、レオンはそのままガッ!!!とそのポッポ鳥の首を掴み何かを囁いた。
するとポッポ鳥は強い意志を持った目でこくりと頷くと、シュタンッと素早い動きで飛び俺の前に着地する。
” さぁ、どうぞお乗り下さい。
全てこの私めにお任せを。 ”
まるでそう言っているかの様な真剣な眼差しで、背中を見せてきた。
「 …………? 」
何だかよく分からないが、乗せてくれるらしいので有り難く、その背に飛び乗る。
すると────……。
────フワッ……!
その瞬間、お尻以外の太ももなどに触れるフワフワ極上の感触に、俺は「 うおっ! 」と短い悲鳴を漏らしてしまった。
鞍の乗り心地は、屋上遊園地にあったロデオマシーンと同じ……しかし、触れる箇所の羽毛は未知の感触。
これは凄いぞ!
アントンのフワフワオムレツに負けず劣らず……!
うほ〜い♬と喜んでいると、ストンと後ろにレオンが乗り込んできた。
え?一緒に乗るの??
疑問を感じ、俺は残されている残りの三匹のポッポ鳥君達へ視線を向ける。
あと三匹いるからそっちに乗ればいいんじゃない?
────と言うより早く、レオンは当然とばかりに俺を後ろから抱き込み、まるで転落防止の柵の様にガッチリと支えてくれた。
どうやらレオンなりに俺が落馬……いや、落鳥?しない様に気を遣ってるつもりらしいが、俺とて身体は準成人、中身は還暦越えのおじさんだ。
まだまだ転落防止の柵を取り付けるには早い!
ワクワクした気持ちから一転、なんだか複雑な気持ちになってしまった。
「 あ……ありがとう……? 」
しかし、これはレオンなりの親切の様なので、とりあえず御礼を告げて後はスルーする事にする。
「 じゃー先程教えてもらった道で向かいますね〜! 」
俺達の馬車の御者さんが白いお馬さんの手綱を引いて出発すると、それを俺とレオンが乗っているポッポ鳥、そして残りの三匹がそれについていく。
二本足でシュターンシュターン!と軽々しくついていく様子から、まだまだ本気で走っていない様だ。
風をビュンビュン受け、とにかく乗り心地は最高!凄く気持ちがいい!
「 う、うひょ〜!!! 」
楽しくなってきて、両手を挙げて思わず歓声を上げた。
すると、それに応える様に乗せてくれているポッポ鳥が「 クピョ────!!! 」と大きな声で鳴くと、残りの三匹のポッポ鳥達が「 クピョピヨピョ〜♬ 」────と、まるで合唱するかの様に鳴き声をあげ、俺たちの後ろに三匹並んで走り出す。
そしてポッポ鳥達はさらにスピードを加速させ、何故か近くの大きな木に向かって直進し始め、スピードは一切緩めない。
このままでは────その木にぶつかってしまう!
「 わっ、わーー!!ぶつかる!ぶつかる!! 」
焦る俺に全く構う事なく、むしろスピードを上げたポッポ鳥に、俺はもうダメだ!と目をギュッと瞑った────が?
「 ────っうわっ! 」
予想された衝撃は一向に来ず、後ろに向かって引っ張られる重力のままレオンの胸に頭をぶつけた。
な、何だ何だ??!
驚いて目をパカリと開ければ、何とポッポ鳥が木をそのスピードのまま駆け上がってるではないか!!
「 えっ?えっ??……えええぇぇぇ────!!? 」
俺は目ん玉が飛び出るのではないかと思うくらい驚いて目を見開いたが、更にその先……木の頂上が目に入り、一気に血の気が引いた。
「 そ、空!!ねぇねぇ、あっち!空しかないよ!? 」
「 ────クペェ! 」
その先に見えるのはお空のみ。
だから焦ってポッポ鳥にそれを訴えたのだが、ポッポ鳥は力強い返事を返してくれて、何一つ戸惑いもなくそこからポポーン!と空高く飛び上がったのだ!!
「 お、落ちる────!!! 」
そんな悲鳴をあげたのも束の間、ポッポ鳥達はババっと小さめの羽を両手一杯に広げ、パラグライダーのように空を飛び始める。
「 …………へっ?? 」
驚愕に目を見開きながら、周囲を見回す俺の目に映ったものは────青く澄み渡った空と、どこまでも続く様に見える地平線であった。
「 うわぁー……凄く綺麗だ……。 」
言おうと思って言ったというよりは、勝手に口から出て来たという表現がピッタリな言葉に、レオンは「 そうですね。凄く綺麗です。 」と呟いた。
本当に世界は広い。
そしてこの広い世界に沢山の人がいて、その数だけ人生がある。
そんな中で、俺とレオンは出会いこうして同じ時間を過ごしているんだ。
それを思うと改めて今一緒にいれる事が不思議で、ジワジワと喜びが心から飛び出てきた。
この時間はきっと奇跡で、たとえこの先この世界がなくなり、俺という存在が消えてしまっても……俺の一番の宝物である事は変わらない。
近い将来、俺達の人生は別れ、きっとレオンとは二度と会う事はないと思う。
それを思うと心に少々の痛みが走り、ソッ……と自分の胸に手を当てたが、直ぐにトンッと叩いた。
今の所、ちょっとした心配はあれど、大筋としては物語通りの未来に向かっている。
レオンは母親に捨てられて奴隷になった。
だから、このままいけば、俺は数年後にボコボコにされ────レオンは英雄として覚醒する。
そこで俺の役目は終わりだ。
「 …………。 」
叩いた胸を今度はギュッとつかみ、目の前の広がる世界を真っ直ぐ見つめた。
その後の人生はどうしようかまだ決めていないが、レオンがどんな選択をしたとしても、いつか世界が無くなろうとも、俺はその時まで精一杯人生を謳歌する!
世界は広い、だから何だって生きていける。
俺は遠くからこの宝物の様な思い出を持って、レオンの幸せを願って生きていこう。
だからこれから起こるレオンの心を殺す事件だけは、ちゃんとぶっ壊していくからドンと任せてくれ。
決意を改め、ふんふんっと鼻息荒く気合いを入れ直してると、不意にレオンが小さく呟いた。
「 綺麗な景色……これからも沢山見たいです。
────……一緒に……ずっと……。 」
風の音と俺の鼻息の音でちょっと最後の声は聞こえなかったが、とりあえずレオンはこの景色に感動したらしい。
そんなふうに綺麗なモノを見て心を動かしてくれた事が嬉しくて、俺は笑顔で「 うん!これからも沢山見れるよ! 」と答えた。
すると、レオンは後ろから ” おやおや、絞め落とすおつもりかな? ” というくらい強くギュッ──と体を抱きしめてきたため、笑顔のまま固まる。
死ぬほど苦しい。
しかし何やら嬉しそうなレオンに離せとも言えず、めちゃくちゃ我慢しながら、レオンのこれからの事を考えた。
これからレオンは、人として尊敬できるような沢山の人達と沢山の美しい景色を見ることがきっとできる。
そしてその出来事は最後の選択の時、レオンの選ぶ答えの助けになってくれるはずだ。
それが何であれ、俺はレオンがその心のまま沢山の選択肢の中から悩み、答えを選び抜いてくれたのなら────俺の人生は、またまたハッピーエンドだ!
……そう、ハッピー……ハッピーなの……。
────ミチミチ……!!
カッコつけてる間に、締め付けられる俺の体がちょっとヤバくなってきたのを感じていると、何と空を悠々と飛ぶポッポ鳥君は空から馬車の場所をちゃんと確認してくれてたみたいで、見事旋回しゆっくりゆっくりと馬車の隣に降り立ってくれた。
た、助かった〜!
レオンのとんでもない締め付けによって、またまた九死に一生を得た俺。
ご機嫌で馬車の方を見て、最初に見たモノ……それは、止まっている馬車の隣で土下座している冒険者の4人の姿だった。




