16 疑問
その後レオンハルトは、自力で崖を飛び越え無事生還を果たしたが、左目はナイフで切り裂いたため完全に失明。
その上、縦一線の傷がクッキリと顔に残ってしまった。
その顔を見て、リーフは腹を抱えて大笑いし、周りの者たちはクスクスと楽しそうに笑う。
ここは何一つ変わらぬ世界であったが────以前とたったひとつだけ違うのは、レオンハルトの心に小さな疑問が芽生えた事だった。
そしてそれはいつまでも燻り続け、やがて彼の運命を動かすきっかけになる。
それからしばしの時が経ったある日の昼休み、レオンハルトは古い大樹のそばに立っていた。
人目につかない裏庭にどっしり立っているその大樹は、他の場所の大樹達とは違い、色鮮やかな葉を持たない。
そのためわざわざ見に来る者はおらず、ここだけが唯一追い払われずに過ごせる場所だったが、今は少し違う。
レオンハルトは、そこで沢山の事を考える。
『生きる』とは何か?
一瞬で無くなってしまうものに人はなぜ執着するのか?
『生きる』こと『死ぬ』ことを隔てる必要はあるのか?
そんな出せぬ答えを、永遠と考える場所になった。
レオンハルトの心情は確かに変わり始めていた。
しかし、その疑問に対し、何をすべきかは思いつかない。
そのため結局何も抗おうとしないレオンハルトに対し、リーフの虐めは更に加速していき、実戦向きの授業が多くなってきた今や、レオンハルトはリーフ専用のサンドバックと成り果てていた。
それが今の…レオンハルトの『当たり前』の日常だ。
レオンハルトは大きくそびえ立つ大樹を見上げ、自身の物思いを終了させると、そのままその場を離れていった。