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175 終わりへのプロローグ

( ドノバン )


叫び声を上げながら闇の中に消えていった男は、これから自分の ” 世界 ” に則って、それにふさわしい終着点へと向かうだろう。



それに対し、同情も祝福もしない。



「 自分で選んだ道だ。


それをするのは野暮ってもんだろう? 」



ボソッと呟いた後、俺の脳裏には穏やかに微笑む一人の美しい女が思い浮かぶ。



” 世界中の苦しんでいる人達を救いたいの。 ”



総微笑みながらそんな夢を語る彼女は、この世のものとは思えぬほど美しい。


────だが……その後についてくるイメージのせいで、そんなお綺麗なイメージは跡形もなく吹き飛び、思わず震えた。



「 クレアねぇ……。俺、あいつ怖い。


狂人なんだもん。 」



ボソボソと呟き続ける声が聞こえたらしいアントンも、俺と同じくブルッと震えていた。



クレアは、俺とカルパスと同級生で、なんだかんだとつるむことが多かった女だ。



可憐で美しい容姿と、まるで天使の様な無邪気な笑顔を絶やさないクレア。


それでいて、積極的に貧しき人々への救済活動にも力を入れていたため、周りからは『 慈愛の天使 』と言われていた。



そんなクレアと俺たちの三人でいれば、もしかして俺とカルパスがクレアを取り合うのでは?と邪推されるほどだった……が────!



ないない!


クレアだけはぜ〜〜〜ったいっにないっ!!!!



想像だけでドバッ!と大量の汗が吹き出し、俺はクレアという女の事を心の中で全否定した。



クレアは出会った当時から、突き抜けた異常性を持っていた。



本人曰く物心ついた時から、己の中に眠る加虐嗜好と、それに伴う性的趣向があったそうで、人の死というものに大層興味があったそうだ。



だが、同時に慈悲深い思考と強い正義感を持っていたクレアは、困っている人々を助けたいと願い、自分の持つ資質 < 学医士 >の特化している能力、怪我、病気、欠損などの治療についての知識を、貪欲に吸収していった。



そして、その過程の中で気づいたのだそうだ。



あぁ、世の中にはこんなにも ” 使い切らずに ” 捨てられるものもあるのか────と。



そしてクレアは、死刑が確定している死刑囚や ” 悪 ” という存在を片っ端から ” 使う ” 事を覚える。



すると、どうだろう?


クレアの両極端ともいえる欲望は、全て満たされてしまったのだ。



慈悲の対象は ” 善 ” 、加虐嗜好は ” 悪 ” に対してのみ。



自分で決めたルールに従い、クレアはニコニコと天使の様な笑顔で、善者を救うため……悪を ” 使う ” 。



” 私は苦しんでいる人々を救いたいの。 ” 



そう口癖の囁かれる言葉を聞く度、俺はクレアの『 愛の実験場 』とやらを思い出し、背筋が凍る。



クレアは、そうして日々医術の進歩に今日も貢献し続けているのだ。



人を苦しめ蹂躙することしかできなかった奴らが、人を救う糧となって死ぬ。


これほど皮肉な終わり方は、他にないと俺は思う。



” ひえっ……! ” と小さく叫び、二の腕を大げさに擦ると、にっこり笑ったカルパスが俺に話しかけてきた。



「 そういえばドノバン、先ほどアントンになんていったのだ?


よかったら、後でお茶でも飲みながらゆっくり話を聞こうではないか。 」



笑顔とは裏腹に物騒な雰囲気を醸し出すカルパスに、慌てて首をブンブン横に振ると、俺はふっと気づく。



────あ、俺の周り、そんな奴らしかいねぇじゃん。



焦る俺を見て、やはりニコニコと笑顔を見せるカルパスだったが────急にフッと真面目な表情に戻り、胸元から懐中時計を取り出した。



「 ────ふむ。冗談はこれくらいにして、そろそろ向かわねばな。


では、後は頼んだぞ。 」



「「「 了解しました 」」」



三人の良い返事と共に、俺は「 へいへ〜い。 」と軽く返事を返す。


するとカルパスは、完璧とも言える笑顔を顔に貼り付け、” ある場所 ” に向かうため、闇夜の道へと消えていった。


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