171 VS ザイール
( ザイール )
「 ……なんでてめぇがここにいやがるんだ。
元第二騎士団団長のドノバン様よぉ。」
俺が内心の焦りを隠しながらそう言うと、ドノバンは人を茶化すような腹が立つ顔でニタアァァと笑う。
それにイラつきながらも、慎重に後ろに控えている仲間達に視線を送る。
元第二騎士団団長の実力の程は知らねえが、このまま全員でバカ正直に正面からぶつかっても良いことなんざない事は確実なため、とりあえず俺が時間を稼いでいる間に屋敷の非戦闘員の誰かを人質として確保する。
そうすりゃ〜第二騎士団なんつー偽善の騎士様は、俺達に手も足も出すことは出来なくなるだろう。
俺は即座に仲間達に、自分のスキルを掛けてその姿を消した。
<切断士の資質>(ノーマルスキル)
< 闇のベール >
人の持つ物理的気配と魔力的気配の両方を薄めることのできる気配遮断系スキル
術者の魔力操作によりその精度は上がり、魔力量により継続時間が決定する
(発現条件)
一定以上の魔力、魔力操作を持つこと
一定回数以上気配を遮断し生き物の生を奪うとこ
一定以上の残忍、冷徹を持つこと
自分の姿が消えたのを確認した仲間達は、直ぐに散り散りに散り闇夜に溶け込む。
流石に姿が全く見えない中、数十人いる人間一人一人を追うことは難しいはずだ!
「 ふわぁ〜……。 」
すると、予想通りドノバンは横をすり抜けていった仲間に気づかず、ボケっとした間抜け面で欠伸までしている。
流石に一人くらいは気づいてヤラれるかと思ったが────もしかしてこいつ、噂に尾ひれがついただけの無能野郎か?
生存の可能性がグンと上がり、密かに口端を上げると、欠伸をし終わったドノバンは自分の肩を揉みながらブツブツと文句を言い始めた。
「 あ〜……眠ぃな〜くっそ〜……。
そもそも、こんな夜中に襲撃してくんなよな。
もう年だから夜遅いと、朝きついんだわ。
俺が夜通し起きて付き合うのは女だけって決めてるんで〜。
なのによ〜────……。 」
「 へぇ〜……俺たち気が合うな。
俺もあんた相手じゃ気分がのらねぇから、このまま帰ってもらってもいいんだぜ? 」
ブツブツ文句を言い続けるドノバンに警戒は緩めず軽口をたたくと、奴は面倒くさそうに小指で耳をほじくり、そのあとその指にフッと息を吐く。
「 そうしてぇのは山々なんだが、大人にゃ〜やむを得ない事情ってぇやつがあるからな〜。
子供の快適な安眠を見守るのも、大人の役目ってやつよ。
……まぁ、一匹はバッチリ起きてこちらを静観しているけどな。 」
こわぁ〜!!と、ドノバンは二の腕をさすりブルブルと大げさに震えた。
何を言っているのかは分からないが、チャンスとばかりに俺は冷静にヤツを観察する。
奴の資質は確か< 魔法剣士 >という、圧倒的なパワーにプラスして、魔法まで駆使して戦う非常に厄介な戦闘系の上級資質だ。
滅多に出ない上級資質の奴らなんざ、ほとんど反則だろうと言いたくなるような厄介な能力持ちの奴らばかり……。
しかも目の前のドノバンに至っては、他国との小競り合いの中、赤い炎の大剣を振り回し、いくつもの戦況を変えてきたとされる伝説の男であると言われている男。
恐らく正面からぶつかれば俺の負けだと思われるが────……。
「 もしかして、てめぇ……ホントは大した事ねぇんじゃねえの?
実はよくいる、噂だけやたら回っちまった無能野郎だろう。
俺の仲間達の存在にも、ちっとも気づかねぇし……。 」
「 あ〜今入ってった奴らの事か? 」
全く動じていない様子に違和感を感じて、少々警戒を強めた。
侵入を許した時点でピンチのはずだが……?
俺は慎重にドノバンとの距離を読みながら、最適とも言える距離までジリジリと下がっていく。
「 ……くそっ、とんだ貧乏くじを引いちまった。
こんなことなら別の奴を担当すりゃー良かったぜ。 」
俺が舌打ちをしながらそう吐き捨てると、ドノバンは青ざめブルブルっと震えた。
「 いやいや、お前が一番運がいいからな?
あいつらの恐ろしさを知らねぇから、そんな事言えるんだ。
……まぁ、でも────こんな化け物屋敷に来ちまった時点で、全員運がねぇか。 」
しみじみといった様子で、わけの分からぬ事を言うドノバンを横に、俺は必死に考える。
ドノバンを相手するには少なくともボブやランド、他の精鋭員達の力が必要。
なら俺は時間を稼ぎつつ、奴の体力を少しでも削っておく。
自分の持つカードを頭の中で確認しつつ、ドノバンを睨みつけた。
ドノバンが団長を退いたのは、自身の息子に無様に負けて追い出されたからだと聞いている。
つまりは、奴は現役の時より確実に衰えているということ。
体力なら若い俺に武がある!
俺は後ろのホルダーに手を伸ばし、丸い黄色い玉を取り出すと、瞬時に魔力を流し奴に投げつけた。
「 おっ? 」
すると、ドノバンが間抜けな声を上げた瞬間────その場はカッ!!!と強い光に包まれ、一瞬何も見えなくなる
< 閃光玉 >
光属性の魔力を封じた魔導具
魔力を流すと強い光が発し目眩ましになる
「 ククッ。ば〜か! 」
俺は間髪入れずにスキル< 闇のベール >を発動し、来た道の方へ全力で駆け出す。
俺はスピードだけならAクラス傭兵にも引けはとらねぇ。
このまま障害物が多い森の中で、魔導具とトラップを駆使して、ドノバンの野郎の体力を少しづつ削ってやる!
そうしてトラップを仕掛けるのにちょうど良さそうな場所を探しながら、全力疾走していると────……。
「 おーい、まだ鬼ごっこを続けるつもりか? 」
ドノバンののんびりとした声が、耳元で聞こえた。
「 ────っ!!!?? 」
ぎょっ!!として声のした方へ視線を向ければ、直ぐに目の前に、俺と並行して走っている余裕そうな顔のヤツの姿が……。
「 なっ!!? 」
直ぐに奴から大きく間合いをとって止まると、心臓はドッドッドッと大きく跳ね、額からは汗がいくつも伝っていった。
い、いつの間に横に……?!
ドノバンは、動揺している俺に構うことなく、のんびりと足を止め大剣に魔力を流す。
すると、瞬く間に大剣は炎に包まれ赤く染まり……辺りはまるで熱砂のような風が吹き荒れた。
「 さぁ、そろそろ遊ぶのはお終いにしようぜ。
祈る時間はいらねえだろ?
俺は騎士、お前は傭兵、お互い何時でも死ぬ覚悟はとっくにできてる。
────なぁ、そうだろう? 」




