169 決着後
( ランド )
一体何が起きたのか?
私はピクピクと力の入らぬ身体で、無様に倒れ込みながら考える。
私のスキルは完璧に奴を捉えていた。
なのに、なぜ私が地面に倒れ、カルパスが平然とした様子で立っているのだ?
一切自分の意志で動かぬ身体、視線一つ満足に動かせない────そんな私のところまで奴はゆっくりとやってきてフフッと笑う。
「 何が起こったか分からないってところですかね? 」
「 ────いっ……一体私になにをっ……! 」
唯一自由な口でそう問うと、カルパスはパチンと指を弾く。
すると奴の影から大量の< モスキート・ビービー >が姿を現した。
< モスキート・ビービー >
体長1cm程度の蜂型Gランクモンスター。
縄張りと指定した場所の近辺に魔力を徐々に減らす毒を撒き散らし獲物が倒れるのを待つ。
解毒薬で簡単に治る、かつ縄張りに近寄らなければ特に攻撃はしてこないため危険度は低いが、もしも捕まってしまった場合は巣に持ち帰られ長期間卵の寄生主、兼幼虫の餌にされるため注意。
「 ば……ばか……な……耐状リングを装着している……毒は……。 」
「 耐状リングは、装着後に状態異常耐性をつけるものですから。
あなた達が配置に付く前に、この子達を向かわせてたんです。
この毒は強度としては最弱レベル……しかも効果が出るまでタイムラグもあるため、人間相手では使いづらいのですが、想像以上のお馬鹿さん相手であっさりと勝負がついてしまいましたね。 」
カルパスはニコニコと笑いながら、宙を飛ぶモスキート・ビービーに向かって指を向けると、モンスターたちはブンブンと羽音を鳴らせながらその指の周辺をくるくる回る。
私はその様をガタガタと恐怖しながら見つめ、執事の男に向かって大声で叫んだ。
「 ひ……ひぃっ……!わっ、私をどうするつもりですか!?
私はまだ死にたくない!!私は選ばれた人間なんです!!
────!!そうだ!!
私をリーフ様の護衛として雇って下さいよ!
全力をもって必ずや守ってみせましよう!! 」
「 いい加減その汚らわしい口を閉じてくれないか?
虫酸が走る。 」
カルパスは突然怒りに満ちた目でこちらを睨みつけると、思わず口を閉じた私に向かって淡々と話始める。
「 あなたのコレクション部屋……ですか?
すごいですね。まるでこの世の悪が集結したこのようなひどい部屋だ。
一体どれほどの人間で ” 遊んだ ” のですか?
苦痛に満ちた顔、中には明らかに幼い若者のものもあった。
もう十分遊んだのですから、今度はあなたが誰かに遊ばれないと ” 不平等 ” ────ですよね? 」
そう言い終わると、カルパスはモスキート・ビービーに指示を出す。
すると、モンスターたちは直ぐに倒れている仲間達の元に群がり、ズルズルと森の奥へと引っ張っていく。
私はヒィッと短く悲鳴を上げると、涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながらカルパスに謝罪を繰り返したが────それを見下ろしながら、奴はなにかを思い出したかの様に言った。
「 そうそう、あなた達の不正を見逃して金を受け取っていたギルド職員達が、そちらで待っているので沢山お話できると思いますよ?
この子達は、子供の大事なベッドとして、とても長〜くあなた達を使い込んでくれるでしょうから。
これからしっかりベビーシッター兼ご飯として、役に立ってくださいね。
まぁもっとも?苦痛のせいで、殆どの会話は悲鳴になるとおもいますけど。 」
絶望に覆われ思考が真っ白になったところで、森の奥から大量のモスキート・ビービー たちがこちらに飛んできて私の身体に纏わりつき、先ほどの仲間同様、私をズルズルと森の奥へと引きずっていく。
それに必死に抵抗しようとしても────私の身体は動かない。
「 ひぃっ!!ひぃぃぃ────!!!!!
い、いやだぁぁぁぁ────!!!!!虫の餌になんかな”り”だく”な”い”────!!!!! 」
泣き叫ぶ私の声は空に消え、そのまま向かうは闇の中……。
────こうして私の ” 世界 ” は終わりを告げたのだった。