12 英雄と王
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早速王との謁見をすることになった名前のない彼は、ただ黙って案内する王宮騎士達についていった。
そんな彼を見て、王宮騎士達は『彼こそ神託の英雄レオンハルトに間違いない』と確信していたが……そのあまりにおぞましく醜い姿に、とてもではないが言葉をかけることも近づくこともできない。
そのため名前のない彼は、ボロボロの格好のまま王と会う事になってしまったのだ。
王のいる謁見の間には英雄の姿を一目見ようと駆けつけた高位貴族たちで溢れていて、沢山の人がいたが、その場の全員が一斉に震え上がった。
禁忌とされる『黒』
それに加えて醜く黒ずんだ左半身と、その上にびっしりと刻まれた判別不能の文字。
呪われているとしか思えぬ、その恐ろしい姿に全員が青ざめ、口を閉ざす。
もちろん王も皆と同様、思わず悲鳴を上げそうになるほど恐ろしかったが、必死にその気持ちを押さえつけ彼に言った。
「貴殿が神託の英雄で間違いはない。今この瞬間より、貴殿こそが英雄レオンハルトであると王の名の下に認めよう。」
そうして名前のない彼は、今この瞬間から『レオンハルト』になった。
しかしそれを聞いたところで彼の心は1mmたりとも動くことはなく、王を目の前にしているにも関わらす、無表情、無感情で佇むだけ。
真っ暗で虚無の空間を漂い続ける彼にとって、今更名前が与えられたところで何一つ変わる事などなかった。