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143 嵐の前兆

( ザィール )


白いタバコの煙が辺りに充満し、視界が霞む。


更にそれに混じってタバコの匂いと酒、香水のキツイ匂いが漂って来たが、嗅ぎ慣れた匂いを誰も気にする奴などおらず、仲間達はひたすら賭け事に投じていた。



カラカラとルーレットを回る玉に一喜一憂する仲間達を視界の端に捉えながら────俺は退屈で手の中のチップを弄ぶ。



ここは傭兵が集まる、とある酒場。



俺はその一角でダラッと椅子にもたれ掛かり、足を机の上にダンッ!!と乗せた。



全くまとまりがなく同じ方向を向いてくれない乱れた天然パーマ。


切れ長で鋭い眼光は直視すれば震え上がるほどらしいが、長めの髪たちによって隠されほぼ見えない。



20代半ばを回った頃だが、顔の半分が隠れているせいか多少歳が下に見えるらしい少し細身のやや痩せ型の男、それがこの俺、< ザィール >だ。



資質は戦闘系資質の【 切断士 】



切ることに関しては結構自信があって、その能力を使って敵を " 踊らせる " 事が、最高に俺を興奮させてくれる。



自分の血を撒き散らしながら命のダンスを踊る姿は、そんじょそこらの女には出せねぇ色気がある。


そう思わない奴なんているのかね?



その最高の瞬間を思い出し、思わずククッと笑いが漏れて口元を隠した。



そんな俺にとって傭兵業は最高の仕事だ。


なんてったって自由だし、金も簡単に手に入る。


そして何より暴力も殺しも全て正当化されるのだから、俺にとって傭兵は天職と言えるものであった。



一向に止まらぬ笑いを諦め、結局口元から手を外す。



どうせ全員同種なんだから、何で笑っていようが誰も気にしねぇもんな。



思う存分笑いながら鼻歌を歌い、グルリと周りの仲間達を見回した。



そんな天職と言える傭兵職で " 真面目 " に働いていたら、あれよあれよと同じような仲間が集まり傭兵パーティーが出来上がる。



【 レジェンド・ウルフ 】



今やここらじゃ敵なしのCランクパーティー。


そのリーダーに、いつのまにかなってしまっていた。



「 〜♫〜〜んん〜♫ 」



最近聞いたお気に入りの曲を口ずさみ、しけたコインをピンっと弾いて飛ばす。



傭兵のCランクパーティーといえば、晴れて上級傭兵の仲間入り。


それこそどの戦場でも引っ張りだこなパーティーになったが、最近は国境付近の他国との小競り合いが少なく、割りの良い仕事がないためこうして暇を持て余している。


そんなつかの間の平和を真っ当な奴らは喜んでいるが……俺達みたいな人種には大いに不満だ。



────だって殺しが出来ねぇじゃん?



「 ……ハァ。 」



せっかくの良い気分に水を差され、今度はため息をついた。



モンスターをぶっ殺すのもいいけど、やっぱり殺すなら人間の方が断然面白い。


人の肉を切り裂き骨を砕くと、先程まで光が灯っていた目が徐々に輝きを失う。



その光景は、なんて自分を肯定してくれるものなのだろうか!



()()()の光景を思い浮かべると、ゾクゾクと快感が身体中を巡っていった。


            

足元で力なく転がっている()()より、自分の方が優れているから、俺はこの場に立っている。


それこそ、俺という存在を確立してくれる最上級の行為だろう?



染みる快感の記憶を存分に味わうため、俺は静かに目を閉じた。



あぁ〜……最高かよ……っ!



そんな最高の気分のまま、お次は手に入れた金をぱあっと使う。


すると俺は────まるで、神にでもなったかの様な気分になれるのだ。



その時の高揚感を思い出し、目を開くと……そうではない現状に嘆く。


────ハァ……。


大きなため息をつくと突然背後から声が聞こえた。



「 リーダー、腐ってますねー。 」



声がした方へ振り向けば、まだ20代前半くらいの大男が、酒を片手にテーブルに近づいてくるのが見える。



こいつの名は< ボブ >。



熊を連想させるような大きく筋肉質な体に、髪は俺のようにパーマかがっているが、ワックスで前髪は全て上げて後ろに流していることで、スッキリとした印象があった。



ニヤつき顔の仮面が顔に張り付いている様な……常にニヤニヤと笑っているボブは、今、目の前でもその表情を浮かべたまま、断りもなく同じテーブルにつく。


ボブの言っていた事が図星だった俺は、面白くなさそうにチッと舌打ちをした。



「 そりゃ〜腐りもするだろうよ。


最近大きな戦いがねぇから、暇で暇で仕方がねぇ。


かといって、ここいらでは ” 楽しみ ” しすぎて、第二騎士団に嗅ぎつけられるとやっかいだしな。 」



「 あー、あいつらマジうぜえっすよね。


この間もやりすぎた傭兵パーティーが1つ潰されたらしいですよ。 」



「 ……らしいな。


やっぱり多少リスクを犯しても、お貴族様の後ろ盾が欲しいよな。


そうすりゃ〜多少の無茶はもみ消して貰えんのによ。 」



傭兵を使いたがる貴族は多く、上手く取り入れば専属契約をしてもらえることもある。



そうすれば、毎月高額の契約料と依頼を達成すれば追加報酬、更に面倒なことは権力を使ってもみ消して貰えるっつーまさに無敵の特典付き。



貴族様からしても金さえ積めばすぐ動いてくれる便利な駒、兼正規のお抱え私兵にはやらせられねぇような仕事も、傭兵なら喜んでやってもらえる。


まさにウィンウィンな関係ってわけだ。



特に薄暗い秘密が多い貴族にとっては……な?



ふんっと不満げに鼻を鳴らす俺を見て、何故かボブはニヤついた口元を更に上に上げてニタァと笑った。



「 そんな暇を持て余しているリーダーに、耳寄りな情報を持ってきたんですが……聞きます? 」



こいつがこんな顔をする時は、かなりの自信がある時と────…………デカい ” お楽しみ ” が期待できる時だ。




ボブは圧倒的パワーを誇る< 重圧士 >の資質を持つ、このパーティーの古株の一人。



巨大ハンマーを使い、生き物をミンチにするのが大好きなイカレ野郎だ。


特に若い女をミンチにしてこねるのが特に好きで、戦場では手足から一つ一つゆっくりとミンチにするのが最高なんだとか。



人のことは言えないが趣味が悪い。



「 二人で内緒話ですか? 私も混ぜてくださいよ。 」



また一人、酒を片手に勝手に相席してきた。



ボブとは違いヒョロリとした痩せ型、高身長に長い髪を無造作に垂らした姿は、まるで幽霊の様な不気味さを醸し出している。


さらにコチラをギョロリと見つめてくる目と、その下を飾る隈がそれをさらに助長し、まだ20代後半にも関わらず一回りは上に見える。



こいつは< 結界人 >の資質をもつ、古株最後の一人ランド。



結界を使い、敵を中に閉じ込め様々な拷問をするのが趣味のサディスト野郎だ。



こいつの結界は一度捕まれば脱出は不可能で、しかも伸縮自在の為、戦地では敵を死なないギリギリで圧迫しながら……最後はグチャリと派手に潰している姿をよく見かける。



なんでもじわじわ潰していくときの恐怖に歪む顔に堪らなく興奮するんだとか。


俺は少しづつ切り刻む方が好きだけどな?



────まぁ、楽しみ方は人それぞれってことで♡



「 なにやらボブが、またろくでもない話を持ってきたらしいぞ。 」



「 ────ちょっww 


なんすか、ろくでもない話って!


絶対の絶対に面白そうな話なんで、絶対リーダー気に入りますって! 


聞いてくださいよ〜。 」



ランドに話を振ってやると、ボブはニヤついた笑みを浮かべたまま食い下がる。


するとランドは、ボブに対しジトッとした恨みがましい目を向けた。



「 ……この間、絶対面白いからって言って、私に人肉入りハンバーグ食べさせようとしましたよね?


ボブさんの話は、いまいち信用が……。 」



「 この間のは悪かったって〜!


今回は本当っすから! 」



ランドは相当その時の事を根に持っているらしく恨みがましい目をボブに向けたが、当の元凶は悪びれもせず軽い調子で返事を返す。



いたずら好きのボブは、こうしてよくランドにしょうもないいたずらを仕掛けては文句を言われているので、俺はいつもの事だと忍び笑いをしながら、ボブの話に付き合う。



「 ────で?ボブ、結局その話っつーのはどんな話なんだ? 」



「 さすがリーダー!話を真面目に聞いてくれるんですね?!


実は傭兵ギルドに暗殺の依頼が入ったんですよ〜。


” 化け物 ” の殺害依頼が。 」



「 ” 化け物 ” ? 」



なんかのモンスターの比喩か?



そう予想した俺は、問いただそうとしたのだが────それより先に、ランドが口を開いた。



「 もしかして、公爵家の子息が数年前から飼いだした奴の事ですか? 」



「 そうでーす!ランド先輩、よくご存知で〜。


レガーノでは有名な話らしいんですがね。


なんでもその ” 変わり者のリーフ様 ” が呪われた化け物を飼って遊んでいるっていう話は。 」



ニヤニヤと笑うボブに対し、ランドは呆れた様に息を吐き出す。



「 それは有名にもなるでしょう。


その ” 変わり者のリーフ様 ” は、呪いが怖くなかったんですかね?


それかその恐怖が分からないほど頭が悪いのか……。


まあ、なんにせよそのおかげでその呪いは伝染性のものでは無いと証明されたわけですが。 」



ポンポンと飛び交う二人の会話を聞いて、俺も以前その話を小耳に挟んだ事を思い出す。



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