132 レオンの新居
( リーフ )
─────は、早っ!!
そのスピードに驚きながら下ろしてもらうと、正門にカルパスとイザベル、そしてジェーンが立っているのが目に入り、また驚く。
三人は俺達の姿を確認すると、ホッとした様子で息を吐いた。
「 ジェーンから、突然リーフ様がいなくなったと聞いて心配いたしました。
今後はきちんと行き先を伝えてからお出かけして下さいね。 」
カルパスは本気で心配してくれてた様で、若干の怒りまで滲ませている。
それはジェーンもイザベルも同じだ。
「 皆、心配かけてごめん。
俺、慌ててたから忘れちゃったんだ。
今度から気をつけるね。 」
「 え〜?そんなに慌てて一体どこにいってたんですか〜?
─────って、あれ?レオン君じゃないですか〜。 」
ジェーンが、俺の斜め後ろ、いつものレオンの定位置を指さしてそう言うと、イザベルの目が釣り上がる。
「 リーフ様!なぜそいつとご一緒なんですか!
─────!!さては貴様がリーフ様を誑かしたのだな!? 」
ギャンギャン!
イザベルがレオンに噛みつき出し、更に剣を抜こうとしたところで……カルパスのげんこつが炸裂した。
カルパスは、痛みに思わずしゃがみ込んだイザベルを呆れた様に見下ろし、その後直ぐにレオンに非礼を詫びる。
「 いつもすまないね、我が娘が……。
は〜……。イザベル、毎日毎日いい加減にしなさい。
リーフ様はレオン君のところへ行かれていたのですね。
……おやっ? 」
カルパスはレオンの【 奴隷陣 】に気づき、それが描かれている首筋を凝視すると、ジェーンと涙目のイザベルも同時に気づいたようで、そこへ注目が集まった。
「 ふむ??
リーフ様はレオン君を奴隷にする為に、こんな時間に彼の家に行ったのですか?
ならば明日でもよろしかったでしょうに……。 」
「 ─────へ?いや、ちっ、違うよ!
レオンに渡し忘れたものがあったから、たまたまなんだ。
奴隷陣は、ええっと……おっ、面白そうだったから! 」
もう何を言ってるのか自分でも分からない。
面白そうだったら奴隷にするの?ってツッコミたい。
オロオロと慌てふためく俺に、カルパスは何でもないかのような態度でそれに答える。
「 はぁ……左様でございますか。
承知いたしました。
では、レオン君は今日からこちらで暮らすのですか? 」
” うん!家、なくなっちゃったからね!
レオンが燃やして! ”
─────とは言えず、とりあえずここは黙って頷いておこうと、コクコクと首を縦に振った瞬間、イザベルがこの世の終わりのような表情になった。
「 まっ、まさか、そいつをこの屋敷に住まわせるおつもりですか!?
─────いっ、いやです!
こいつと同じ敷地内など、ぜーったいに嫌です!!
リーフ様!どうかお考え直して下さい!!」
すごい勢いで食って掛かってくるイザベルに、どうしようかと考えるその前に……非常に素早い動きでカルパスがイザベルの背後に移動、またもゲンコツして黙らせる。
「 ─────っ?!〜っ〜っ!!! 」
痛みにしゃがみ込むイザベルと、にっこり笑顔のカルパス。
ジェーンはニコニコしながら、イザベルの頭に薬草を乗せていた。
俺はゴホンッ!と咳払いをして、みんなの注目を集めると、そのままこれからの予定を説明する。
「 仕方がないから、レオンには、゛あそこ ゛に住んでもらおうと思っているんだ。
奴隷にはあの小屋で十分だからね!
今から案内してくるよ。 」
実はこの四年間、毎日毎日レオンが帰宅した後コツコツ作った小屋が裏の広場、森に続く入り口近くに建っている。
俺がレオンを奴隷にしようと考えた時、同時に住む家はどうしようかと考えた。
広いお屋敷だし空いている部屋でも……と思ったが、それでは虐めにはならないし、従業員さん用の離れの別邸は恥ずかしがり屋のイザベルと毎日戯れ合いになってしまうし……で却下。
じゃあ、新たに建てるかーと思っても、建築をゼロからは流石に未体験……。
どうしたものかーと思ってた時、守衛さん用の住み込み小屋を偶然発見したのだ。
その小屋は、森に面してる扉を見張るための小屋であり、本来守衛さんが交代制でそこにお泊りして見張りをするらしいのだが、とにかく汚い。
まず木の壁がボロボロで隙間風が凄い。
それにより、常にガタガタ木が鳴って大合唱が響き渡るし、寒いしで熟睡は難しいと思われる。
そしてトイレも結構ハードで、なんとバケツが一つ置かれているだけで使い終わったら自分で洗わないといけない仕様になっている。
ちなみにお風呂は、外で水浴びときたもんだ。
イザベルに「 これはちょっとキツイね。 」と笑い話として話を振ったが、キョトンとした顔でコレがスタンダードであると教えられた。
そ、そうなの?!
目を丸くする俺に、たまにここに泊まり込みをしている事、そして平民のスタンダードな暮らしをレクチャーしてくれたのだが、なかなかのハードっぷりの様だ。
年頃の若いお嬢さんにここで過ごせと言うのは、ちょっと……。
いや、そもそも一応イザベルは貴族のご令嬢だからこれはアウトなのでは?
そう思って横にいたカルパスに「 ねぇ〜? 」と同意を求めた。
するとカルパスは、キリッとした表情でイザベルを睨みつける。
「 イザベルとて、守衛としての覚悟がございますので!!
勿論私もたまに住んでいます!!
イザベル、異論などないな? 」
カルパスが突然熱血武士道みたいな事を言い出し、イザベルはそれに便乗。
「 勿論です!!」などと言う始末……。
確かに、たまに裏庭で明かりがついてるときがあったな〜とうっすらした記憶が頭の中に浮かび上がる。
あれは二人でこの小屋で見張りをしてたからだったのか……。
汗をタラッと流しながら、俺は伝家の宝刀【 公爵家令息の命令 】を発動し、以後イザベルとカルパスは別邸でのみ生活をする事を命じた。
こうして無人の小屋をゲットした俺は、コレを改造してレオンの家にしようと企んだ。
勿論めちゃくちゃ大変だった。
下地があるとはいえ、初めての建築。
しかも修行ですでにボロボロの体に鞭を打ち、木を切り、削り、釘打ちして毎日コツコツ、コツコツ……。
ヒィヒィ言いながら頑張っていたら、カルパスに見つかり、アントンに見つかり、結局イザベル、クラン、ジェーンにも見つかって全員集合。
手分けして手伝ってくれる事になった。
そんな皆で作ったNEWレオンの家。
まずキチンと板を打ち付け、隙間風と大音量で鳴り響く木の大合唱をゼロに。
そしてトイレは洗浄用の魔道具を取り付け、魔力を流すと汚物が消える仕組みのものを作り、部屋の中は常に快適な温度を保ってくれる魔道具を取り付けた。
夜のお勉強には困らない様、テーブルの上には魔力を流すと明かりがつくランプを。
そしてベットの布団は< サンダー・バードルー >の胸毛をむしってきたもので作った最高級品!
ちなみにジェーンが作ってくれた。
< サンダー・バードルー >
体長10mほどの鳥型Eランクモンスター。
大型のモンスターを主食とするため、空から鋭い爪で電光石火の攻撃を仕掛けてくる。
胸元に生えた大量の毛を媒体に雷属性の攻撃を繰り出してくるため注意が必要だが、胸元の毛は非常に柔らかく、クッションなどの材料として高値で取り引きされる。
お風呂は元々お金持ちの貴族宅にしかないそうなので、五右衛門風呂用の大きな桶を用意して小屋の外に設置したので、一人で暮らすには十分な環境のはずだ。
素晴らしい出来栄えで、完成した時は思わずオギャン泣きしながら皆にお礼を言っちゃったよね。
その時を思い出して、ふふふふっと満足げに笑みを浮かべていると、カルパスが胸元から懐中時計を取り出し、ふむ……と頷く。
「 では、私もご一緒しましょう。
そろそろ夜道が暗くなってきますので……。 」
パチン!とカルパスが指を鳴らすと、直ぐ下の足元の影の中からピカピカ光る子犬くらいのキノコ型モンスターが姿を表した。
 




