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126 無情な世界

誤字のご指摘本当にありがとうございます陳┏○┓謝


助かりま〜す!( ꒦ິ꒳꒦ີ)

( リーフ )


悪役に相応しい高笑いをしながら、レオンの方に視線を向けると、目を見開いて呆然としているレオンの姿が目に入る。


それにズキリと胸は痛むが、今更引き返すことなど出来ない。


胸の痛みを隠す様に笑い続けていると、借金取りの三人はすぐに袋の中身をテーブルに出し、その数を数え始めた。



「 こっ……こんなによろしいんですか?


倍の200枚はありますよ! 」



硬貨を数え終わったリーダーの男が、汗をかきながらそういうと、俺は良き良き〜と手を振ってそれに応える。



実はコレ、カルパスがくれるお小遣いをこの約四年間で全て貯めたもの。


子供にはちょっと……と思う金額だが、なんとこれでも貴族としては下の下だと言うのだからビックリして腰を抜かしそうになった。


ちなみに衣食住が揃っている今、使い道は全くなし。


だからこのお金を使って俺がレオンを買い取ってしまえば、鉱山に行かなくてすむし、最終的に俺の奴隷にするという目的も達成できると考えたのだ。


しかし────……。



「 …………。 」



さっきから一言も言葉を発しないレオンが心配で、チラッと様子を伺うが、ひたすら何かを呟いているだけ。


それを見て、俺の気持ちはズンズンと落ちていった。



実はお金を貯めながらも、もっと他にいい方法はないかとずっと考えてはいた。



レオンにとって、何が一番最善なのか?



沢山考えて────いっそ借金だけ俺が返し、奴隷にするのはレオンが落ち着いてから……なども考えた。


しかし、そうすると多分レオンの母親は、レオンが生きている限り借金を繰り返すと思われる。



" 親と子の絆は尊きものとされ、何人たりとも侵害してはいけない "


このイシュル神の教えは、そのまま法律に適応されていて、尊き絆を守るため、楽も苦も半分こ。


つまりは、親が犯した犯罪も子供が犯した犯罪も仲良く半分に分けなさいって事だ。



これには心底参ってしまって、ひたすら頭を抱えてしまった。



確かにその法律のお陰で全体的に見れば犯罪率はガクンと減ったが、その一方でレオンと同じ様な状況に陥る子供達も一定数いる。


その絆はどちらかが死ぬまで切れることはなく、一生悪い親の尻拭いをして生きていかなければならないのだ。


しかし、その絆には抜け道がある。



その一つが " 奴隷 " になる事。



奴隷は ” 人 ” と見做されない。


そのため親と子、どちらかが奴隷になった時点で、人同士が大前提のその絆は切れることになる。


つまりレオンが俺の奴隷になった時点で、母親との絆は切れ、この先どんなにレオンの母親が借金をしようが、他の罪を犯そうが、俺の所有物であるレオンにはそれを負う義務はなくなるというわけだ。



奴隷になることは、そういった親子関係の救済処置でもある。


そんなことでしか救えないなんて、なんだかやりきれない気持ちになってしまうが……。



どうにもできない憤りを感じながら、だからこれが今の最善何だと自分に言い聞かせる様に心の中で呟いた。


しかし、俺がレオンの唯一大事にしていたもの、それを完膚なきまでに壊してしまう事に変わりはない。



下を向いたままのレオンを見るのが辛くて、視線を逸らした。


レオンにとって今日は、本当の意味で一人ぼっちになってしまった、人生でもっとも最低最悪のとても悲しい日だ。



レオンは泣くことも叫ぶこともしない。


賢い子だから、状況は理解できていると思う。


それがなんとも悲しくて、思わず胸元を強く掴んでいると────……。




────ポタッ……。




一粒の水滴が、レオンの足元に落ちた。



ハッ!としてレオンの方へ視線を向けると、レオンは泣いていた。



" 母親に捨てられた悲しみ "


" 追い打ちを掛けるように俺の奴隷にされる憎しみ "


” 世の無情さに対する悔しさ "



その全てが絶望になってレオンを襲っている。



「 ────っ……! 」



ぐわっ!と襲いくる激情を必死に堪え、またレオンから目線を逸らした。



俺の人生を支えてくれたヒーロー、生涯変わらぬ憧れの人。


その人を今一番苦しめているのは……俺だ。



その事実は、俺の心をズドンッと傷つけた。



レオンを悲しみのどん底に叩き落とした俺に、何も話しかける資格はない。


ただ黙る事しかできない俺に、突如借金取りのリーダーの男がおずおずと話しかけてきた。



「 あの〜……【 奴隷陣 】はどうします?


こんなに大金を叩いて買っていただいたんですから、最高級の奴隷陣を責任をもって刻みつけますよ。 」



【 奴隷陣 】は奴隷である証であり、人ではなく主人の所有物になったという新しい身分証でもある。



これを刻むことで、レオンの所有者は俺。


つまり、これからは俺の身分証に所有奴隷:< レオン >という項目がプラスされるというわけだ。



そうなることでかなり偏りがある関係性ではあるが、親子の絆同様、奴隷がしでかした事は主人が保証しなければいけないという責任が生じる。


今後、その所有物がおこした損害はその所有者が払わなければならないため、主人は奴隷にしっかりとした上下関係を徹底的に教え込むのが普通だ。



そして、その時に必要な効果が【 奴隷陣 】には練り込まれている。



それに対し複雑な気持ちを抱き、更に心は深く沈んでいった。



契約魔法が使える資質持ちの人が、その【 奴隷陣 】という特殊な魔法陣を描ける。


それに< 奴隷になる者 >と< 所有者になる者 >の名前を書き込むことで、奴隷が逆らえば、耐え難い痛みを与える効果を創り出すらしい。



多分、このリーダーぽい人が、その資質を持っている人だ。



話しかけてきた厳ついリーダーらしき男の人を、俺はジロジロと見つめた。



物語の中でもレオンハルトはすぐに【 奴隷陣 】が刻まれていたことから、現在ほぼほぼ物語通りに事が運んでいるらしいと分かる。


それにはホッとしながら、俺はリーダーの男に言った。



「 そうだね。【 奴隷陣 】、お願いするよ。 」



そう答えると男たちは、ニコニコと上機嫌で用意を始めたが、何故か時折レオンの方を見ながら気にしている素振りをする。



泣いてしまった子供に対し、流石に良心が痛んでしまっているのだろう。


自業自得で借金をしてしまった人とはわけが違うし……。



その気持ちに共感して、涙ぐみながらウンウン……と頷いた。



彼らの仕事はとても辛いものだ。


こんな事をやれと言われても、俺にはできない。



何とも言えぬ気持ちで準備をする彼らの様子を眺めていると、準備が終わったのかそれぞれの配置につく。



「 おまたせしました。では、契約を始めます。おいっオメェらも準備はいいか? 」



「「 へいっ! 」」



リーダーの男は、分厚い魔導書を片手に持って真ん中に立ち、残りの2人はその両脇に、やはり魔導書を持って立つ。


そしてリーダーの男が詠唱を始めると、残りの2人もそれに続き、やがて地面に大きな魔法陣が出現した。



「 では、リーフ様はこちらに……────ばっ……化け物はそっちだ! 」



やはり特殊性の高い魔法は緊張するらしく、リーダーの男は、震える手で俺とレオンに指示を出す。


俺もレオンもそれに大人しく従い、向かい合うように魔法陣の両端に立った。


レオンは今だ下を向いている為、その表情は伺えない。



「 では始めますので、俺の言葉に答えて下さいね。 」



「 うん。分かった。 」



「 …………。 」



俺が即答すると、レオンも頷く事で了承し、契約の儀式が始まった。



『 汝は、母親であるリアの借金、金貨100枚を返済するためその魂をかの者に捧げると誓うか?   』



「 ……はい……。 」



レオンが答えを返すと、リーダーの男は人差し指で宙に文字を描き、それが光の文字となって現れ地面の魔法陣に吸い込まれる。



『 汝、金貨100枚と引き換えにかの者の魂を買い取るか?  』



「 はい。 」



俺が答えた時も先ほどと同様に、宙に光の文字が浮かび上がり魔法陣に吸収されると、地面に描かれた魔法陣はカッ!!と強い光を発し始めた。


眩しさに手で軽く顔を隠すと、リーダーらしき男は更に続けて言った。



『 それでは最後に主人となる者の名をここに示せ! 』



ここで俺の名前を宣言すれば契約は終了。


レオンは今日から俺の奴隷になる。



「 …………っ。 」



ここで俺は、前世で精一杯に生きてきた記憶を思い出した。



辛いこと、悲しい事、悔しい事……。


もういっそ立ち止まってしまおうか、全て投げ出してしまおうか、そう思う度────レオンハルトの強さはずっと俺に寄り添ってくれた。



世の無常と戦い続ける力を、進み続けるための希望をくれたヒーロー。



俺はそんな恩人を奴隷に……所有物にするのか。



────ズシッ!と心にのしかかる重圧に押しつぶされそうになりながら、俺はグッと足を踏みしめ、正面からレオンを見つめた。



その通り。


俺はそんな非道なことをこれからレオンにするのだ。



だから目は絶対にそらさない。


この罪から俺は決して逃げたりしまい。


一生かけて俺はこの罪と生きていこう。



レオンに断罪された後も────……。



俺は悪役にふさわしい精一杯の悪い顔をして、ニヤリと笑った。



「 はーっはっはっ!!


我の名はリーフ・フォン・メルンブルク!!


レオン、今日から君は俺の忠実なる奴隷だ!! 」



大きな声でそう宣言すると魔法陣は強く輝き、俺とレオンを包み込んだ。


そして、微量な魔力でこちょこちょされる感覚があった後、光は収束していき、また元の蝋燭の淡い光に照らされた室内に戻る。


目の前のレオンは呆然としていて、首筋に刻まれたゴルフボールくらいの赤い【 奴隷陣 】を何度も何度も撫でていた。



「 レ……レオ……。 」



そのあまりにも悲しい姿に、つい声をかけたくなったがグッと堪える。


そして逸らしたくなる目を必死にレオンに固定し、悔しい気持ちに耐えた。



レオンは何も悪いことなどしていない。


なのになんでこんなにも過酷な人生を歩まないといけないんだ。



その時、突然ふっと脳裏に浮かんだのはレオンハルトに呪いをかけた人物────< 邪神ゼノン >の姿だった。



ゼノンはレオンハルトに辛い体験をさせることで、人の本質の一部を見せたかったのかもしれないが……そんなものだけを見せても判断なんてできないじゃないかと思う。



心が壊れてしまえば、考える事はできなくなるのに。



「 …………。 」



もしかしてそれが目的だったのか?


心を壊してその答えを選ばせる事が……?



俺はムカ〜っと怒りの感情が込み上げ、心の中で ” そんな事はさせないぞ! ” と改めて誓った。


そんな事のせいでレオンは俺なんかの奴隷になっちゃったんだぞ!


更に全ての怒りをゼノンにぶつける勢いで叫ぶ────が……?



あれ?一番追い詰めて悪い事するのは、俺か……n。



それに気づくと、しゅ〜……と怒りは鎮火し、罪悪感にブッスリと刺される。



そのままレオンの方へ視線を向ければ、レオンはまだ首筋の【 奴隷陣 】を触っていた。


その表情の程は読めないが、きっと深い絶望感とそれに伴った俺に対する怒りで一杯になっているだろうと思われる。



とりあえず俺は一旦、レオンの目の前から消えるべきだ。



「 レオン、外で待ってるから準備しておいで。


俺は夜空を見たいから、ゆっくりでいいよ。 」



「 ……準備??ですか??」



ボンヤリした様子で呟くレオンに、俺はしっかりと ” レオンは俺の奴隷になった事 ” 。


そして、今後は ” 奴隷としてお屋敷で一緒に暮らす事 ” を、わかり易く丁寧に教えた。


するとレオンは目を見開いた後、またも下を向いてしまう。


よく見ると手も震えている為、俺はこれ以上怖がらせない様、そのまま黙って部屋から出て行った。



外に出た後、思考が停止したままボンヤリと夜空を見上げていると、直ぐに借金取りの男達が出てくる。


それに気づき、俺は先程言えなかったお礼を告げて、そのまま彼らを見送ろうとしたのだが────なぜかあのリーダーらしき男が引き返してきた。



??なんだ??



一体何事かと思っていると、その男は俺の前に立ち、後ろの扉を気にしながらポツリと呟く。



「 ……その……余計なお世話かもしれませんが、これからくれぐれもお気をつけ下さい。 」



それだけ言うと、男はそそくさと去って行った。



彼の言いたい事、それを俺はとっくに理解している。



無理やり自分を奴隷にした主人に対し、レオンは殺したいほどの怨み、憎しみを持った。


だからいつか復讐されるぞ!そう、先程の男は俺に忠告したのだ。



更にズーン……と心が重くなり、これ以上重くなれない!というところまできて俺は、無理やり夜空を見上げた。



その通りだ。


俺はそう遠くない未来にレオンに完膚なきまでに叩き潰される。



その復讐を正面からしっかりと受け止めるのも俺の義務。


そして当て馬になるのが、大事な俺の役目だ。



見上げた空の先には、大きな月と無数の星達が以前と変わることなくキラキラと輝いている。


そんな夜空に向かって俺はパンッ!!と手を合わせそのまま祈った。



神様、どうかレオンが奴隷から解放された後は、沢山の良いこともありますように!!



すると、まるでそれに応えてくれたかのように、夜空に輝く星が一つ、スッと流れ落ちていった。



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