表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/805

117 レオンの日常

( リーフ )


そうして街の中に到着すると、そこは既に大騒ぎとなっていて、昨日の夜中からぶっ通しで騒いでいる人もいる様だ。


至る所で肩を組んで踊る男達に、華麗にクルクル回るきれいなお嬢さん達。


様々な楽器を用いた演奏に笑い声と手拍子が合わさり、更に美しい歌声が重なると、歓声が四方八方から上がった。



「 う、うわぁ〜……。 」



日本のお祭りではちょっと見れないレベルの盛大なお祭りに、思わず感動して声が漏れる。


そしてキョロキョロと辺り一面に視線を回していると……そこら中に大量の大樽がボンッ!ボンッ!と置かれているのが見えた。



「 ……?なんだろう?あれ。 」



売り物かと思ったが、特に近くに店員さんらしき人はいないから違う様だ。


では一体……?


その答えは意外とあっさり判明した。



「 おめでと〜! 」


「 おめでとう!乾杯しようぜ! 」



友達同士らしい男女が、マイコップを持って大樽のひとつに近づき────そのまま中のお酒を掬って、ゴクゴクと美味しそうに飲み干したのだ。



ほほ〜う?


まさかの無料飲み放題か。



その光景を見ながら、思わずゴクリと喉を鳴らす。



前世は酒好きのおじさんだった俺……死ぬほど飲みたい!



ブルブル震えながら手を伸ばそうとしたのだが、理性がその手をはたき落とした。



今の俺の体は12歳……お酒解禁にはまだまだ時間が必要だ。



悲しみと絶望に肩をガックリ落としながら、" あと何年……? " と指を折って数える。


その間なんとなくチラリと隣に立つレオンを見上げると、その様子は心なしか嬉しそうに見えて、今度は罪悪感に心をチクチクされた。



考えてみれば、こうしてレオンを連れて遊びに出かけたのは初めてのこと。


なんと言ってもこの約四年間、勉強!修行!勉強!修行!の毎日で、子供らしい遊びなどしてこなかったからだ。



それは良くないなとは思ってはいたものの、なにせレオンの才能を開花させるのが俺の役目なわけだし、俺だって強くならなければ悪役失格になってしまう。


その為、ついつい修行を優先してしまったわけだが……結局のところそれも上手く行っている気がしない。



「 むむ〜ん……。 」



頭の中で、レオンと共に過ごした修行漬けの日々がモワモワ〜と浮かんできた。


 

そもそもレオンに率先して取らせたいと考えているスキルの発動条件< 何度も瀕死になる >や< 瀕死攻撃をくらう >。


これがあんまり……いや、全然成功しているように見えない。



いつも涼しげな顔で無表情なんだよね……。



動揺一つせずに、淡々と修行するレオン。


たまに顔が赤くなる時があるので、多少カウントされているとは思うが、多分回数的には全く足りていないと思われる。


なんといっても、とにかくレオンが圧倒的すぎるのだ。



俺は、はぁ〜……とため息を漏らしながら、緩〜く首を振る。



ドノバンとの本気の打ち合いだって、汗一つかかずにクールな顔。


もちろんそれより弱い俺が、あの手この手で挑んでも、全て完膚なきまでに叩き潰される。



────やっぱり未知のスキルが作用している……?



そうとしか思えないのだが、問題はこの未知のスキルが物語で取得するスキルに匹敵するものかどうか。


ようは現在のレオンがいかに強かろうと、結局は物語のレオンハルトより弱ければダメだということだ。


 

物騒な言葉のオンパレードに不安しかない……。



ブルッ!と体を震わせてしまったが、もう発現してしまっているモノに関してはどうしようもない。


今後も物語通りのスキル取得を目指しつつ、俺自身のレベルを上げてレオンのステータス情報を少しでも増やすくらいしか今の俺に出来ることはないだろう。



それに鑑定のレベルを上げておけば将来は鑑定士として働くこともできるかも!……な〜んて密かに思ったり〜。



明るい未来を思い描くとそのまま笑い声が漏れそうになったので、直ぐに口元を抑えてレオンの様子を伺う。


すると、俺と目が合った瞬間、それはそれは、上機嫌です!と言わんばかりの楽しげオーラが漂ってきた。



休日出勤しているのにこの態度……。


社畜精神は本日も絶好調の様だ。



その恐ろしさに、今度は別の不安によって体は小さく震える。


レオンはずっと前に一日だけ一人の休日をとって以来、例え、雨が降ろうが風が来ようが、嵐が来ようが毎日俺の家へやってきた。



もちろん週に一回の休日だろうと、変わらずにだ。



朝日が登る前に家の門に来て、そこから二人でラジオ体操、ストレッチから修行、修行、その後残飯と称して一緒に朝ごはん。


そしてそのまま修行、残飯ランチ、そしてレオンに御包みされて昼寝。


その後も修行、修行、残飯夕食……。



それでやっと終わりが?と思いきや、更にその後は二人でひたすら座学の勉強をし、お外が真っ暗になる頃やっとレオンは帰宅する。



前世の記憶を持つ俺としては、週休2日は与えるつもりだったのだが・・。


なんとレオンはせっかくの休日も一日壁を見ているだけだったらしく、それからは休日も喜んで出勤してくるようになった。



ま、まぁ、そのうち休みたくなるだろう……。



そう放置していたのが余計にまずかったらしく、今では俺が声を掛けないと帰宅すらしなくなってしまった。


もしかして母親を待つ家が辛くて帰りたくないのだろうか……?とも思ったが、それでも暴君の様な俺の側よりは良いだろうと、一応はレオンを家に帰している。


────が、やはり壁を見ているか、体を横たえるかの二択らしい。



「 ……壁見るの楽しいの? 」



ある日、タイミングをみながら恐る恐るそう聞くと、「 いいえ。 」とハッキリ答えたレオンに背筋は凍る。


プライベートを過ごせなくなっている事を危惧し、これはいかん!と俺なりに様々な策を巡らせてはきた。



無駄だったけど。



努力の日々を思い出し、レオンのキラキラ笑顔に向かってニッコリ微笑み返す。



そんな俺の苦肉の策、その1。



「 好きに使っておいで。 」



そう言いながら、レオンに小遣いを渡し、” 初めてのお使い ” まがいの事をさせてみた。


マントを深くかぶれば、簡単な買い物は出来るということに気づき、試しにショッピング体験をさせてみようと考えたのだ。


興味を持たせるためには、やはり情報から!


同世代の若者がキャピキャピ買い物をしている姿を見れば、レオンも想う所ができるだろう。


そう目論んでやらせてみたのだが……レオンはピカピカ光る硬貨をジッと見つめ「 わかりました。」と返事を返した後、ふっと消えてまたすぐにふっと帰ってきてしまう。



────早くない?



これは作戦失敗か……とガッカリした瞬間、レオンの手にピカピカに光るご立派な平たいお皿と、キラキラ光る美しいバラの花束が握られているのが目に入った。


レオンが買い物してきた!


それが目に入った瞬間、俺はカッ!!と眼を見開く。



つまりこれが欲しい。


初めてお仕事以外で意志を出すことが出来たんだ!



俺はとても喜んだ────が……それもつかの間。


レオンは突如俺の目の前にそのご立派なお皿を置き、その横を囲うようにバラを飾り付けた後、お皿の上に先ほど渡した硬貨をちょこんと乗せた。


まるで小さな祭壇のようなものに首をかしげていると、レオンはすぐに膝をつき祈り始めた。



俺に向かって。



「 …………。 」



…………いや、なんで???



ハテナがぴょんぴょん飛び出す頭で、俺はハッ!っと思い出す事があった。



『 俺のモノは俺のモノ〜♫


レオンのモノもぜ〜んぶオレのモノ♬ 』



このメチャクチャな理論は、某いじめっ子の有名理論で、俺がレオンを虐める際に言い放った言葉の一つだ。



多分レオンは、これを下僕として守らなければならないルールの一つとして認知。


結果、手に入れた硬貨はリーフ様のモノ!と考え、俺にそれを献上したと…………そういうことか!


震える手でお皿の上の硬貨を摘み、光り輝くそれをジッと見つめながらガックリしてしまった。


そんな俺をキラキラした目で見上げてくるレオンに何も言えず、結局は────……。



「 ……ありがとう。 」



それしか言えなかった。



しかもこの仰々しい渡し方……。


恐らくレオンなりに考え、直に返すのは失礼に当たると思ったのだと思う。


だから、こんな渡し方をすることにした様だが、実はこの渡し方は教会のお布施の仕方を真似したものであった。



教会はお布施という形で募金を募り、それを活動資金にしているわけなのだが、その資金の使い道は────。



< 各地に設置されている教育機関や孤児院の運営 >


< 貧しき人々への救済活動 >


< 慈善事業 >


< 教会運営の病院 >



────などなど、全国で幅広〜い活動のために使われている。



その為、この国に籍を置く貴族には、毎年必ず利益から計算されたお布施を教会に支払う義務があるのだ。


その際は、神々しいお皿の様なものにお金を乗せ、イシュル神像に祈りを捧げながらお布施をするのだが────どこで知ったのかレオンはこれを忠実に再現した様だ。


ちなみにお皿はニールの家に、バラはモルトの家に行って貰ってきたらしく、その詳細を後日なんとも言えぬ表情を浮かべた両名から聞いた。



" 主人に失礼の無いようお金を捧げる "



────駄目だ、これはお仕事のカテゴリーだ……。



そしてその後も、ちょこちょこと同様の試みを行っては全て失敗に終わっている。



惨敗ともいえる思い出達を振り返り、スゥ〜と身体は冷えきったが、そんな失敗を引きずり、本日に悪い影響を及ぼすわけにはいかない。


俺はギリィ……と唇を噛みしめ、気合いを入れるため、鼻息を強く吹いた。



今回ばかりは失敗は許されない。


おそらく今日がレオンの最大の分岐点だ!



慎重に……慎重に……。



そのままガチガチに緊張しながら歩いていたのだが、街の中心街にたどり着いた瞬間────俺のトリさん頭から、そんなモノはポポーンと飛んでいってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ