宿敵との決着
振り下ろされた刀は今まさに、ヒロの頭上に迫っていた。
その時だった。
突如、ヒロの剣が電流を放ち、日向の魔法石を狙撃した。そして周囲の空間にノイズが走り出したのを目の当たりにし、日向は驚く。
「まさか……ヒロの魔術が自動的に発動したのか……?」
彼がそう呟いたのも束の間、その周囲の者たちは一斉に動き出した。鈴菜は凄まじい火力の光線を放ち、彼を爆発に包み込んだ。直後、彼の身には紅愛の強烈な飛び散りが炸裂する。それから抵抗する間もなく、日向は逢魔の右ストレートを正面から食らってしまう。この時、クロノドミネーターは火花のような電流を帯びていた。
「時間を止められない? あの電撃で、クロノドミネーターの信号が上書きされたというのか!」
時間停止を封じられた日向の身に、その体の限界を告げるノイズが走り始めた。そんな彼の眼前に、今度は炎の剣を構えたヒロが飛び込んでくる。
「これで終わりだ! 日向!」
ヒロは剣を勢いよく振り、その刀身から円弧型の業火を放った。日向は激しい爆発に呑まれ、変身を解かれながら崩れ落ちる。
――ヒロたちの勝利だ。
たった今、彼らは全ての因縁に決着をつけたのだ。ヒロは日向の方へと歩み寄り、そして魔法石を奪い取った。あの強敵も、魔法石がなければ凡人と何ら変わらない。安堵を覚えたヒロたちは、一斉に変身を解除した。その光景を前にして、日向は怪訝な顔をする。
「私に……トドメを刺さないのか?」
彼が満身創痍となった今、ヒロたちはまたと無い好機を目の当たりにしている。しかし彼らに、宿敵を殺める意志はない。ヒロはその旨を説明し始める。
「日向。俺はウィザードになって、命の重さを知った。君がどんな悪人であっても、俺は不必要な殺生を拒む。君だって、生きていて良いんだ」
「ヒロ……君は、ウィザードの鑑だな」
「俺だけじゃない。俺たち全員が、誇り高きウィザードとヴィランだ」
そう語った彼は、どこか清々しい空気を感じ取っていた。そんな彼の言い分に補足するように、鈴菜も発言する。
「日向! 今までの罪は、刑務所で償ってもらうッスよ! 一生をかけても償いきれるような罪じゃねぇッスけど、それでも贖罪に生きてもらうッス!」
彼女に続き、紅愛、天真、逢魔の三人も、各々の考えを口にする。
「オレたちは、命の美しさを信じている。アンタだって、これから多くを学べば変われるはずだ」
「結局、キミも人間なんだよ……日向。人間は未熟で、数多の過ちを生みながら息をしているけど、それでも仲間を思いやれる美しい生き物なんだ」
「ま、俺は小難しいことはわからないけど、コイツらの言ってることは正しいと思う。生きることと、生かすことは、上等だ」
この時、ヒロたちは一つの可能性を信じていた。それは日向が改心し、命の重さと向き合って生きていく可能性だ。
しかしその希望は、思わぬ形で絶たれることとなる。
「変身……」
先程まで取り乱していた美少年が、突如ウィザードの衣装に身を包んだ。彼は日向を指差し、一筋の細い荷電粒子砲を放つ。
心臓を撃ち貫かれた日向は、唖然とした表情で息を引き取った。
突然の事態に、ヒロを初めとする五人は絶句した。そんな彼らの方に目を遣り、美少年は言う。
「無駄だよ。その男は改心しない。わかるんだよ……僕の『記憶』には彼の自我が眠っているからね」
そう――彼の脳には、日向の記憶も移植されていたのだ。それゆえに、美少年はあの男の露悪的な性根を理解していた。続いて彼は、天井に向かって高火力の荷電粒子砲を放った。激しい地響きと共に、天井が崩れ始める。
「マズい……逃げるぞ!」
咄嗟の判断により、逢魔はその場にいる全員を連れて瞬間移動した。その場に残された美少年の横顔は、どことなく妖しい雰囲気を醸し出していた。