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被験体

「こいつの性能を試してみるのも良いだろう。一号よ、奴らを倒せ!」

 日向(ひゅうが)の指示により、美少年は目を開いた。直後、彼は己の頭を抱え、苦痛に満ちた声をあげ始める。

「うわぁ! 痛い! 痛い! 怖い……怖いよ!」

 まるで、美少年は悪夢にうなされているかのようだった。日向は深いため息をつき、不穏な一言を呟く。

「おっと、まだ自我を統合できていないようだな」

 その言葉に、ヒロたちは耳を疑った。緊迫した空気が立ち込める中、紅愛(くれあ)は己の知る情報を語り始める。

「コイツを生み出すまでに、日向は幾度となく人体実験を繰り返してきた。数多の被験体は皆、過酷な殺し合いを強いられてきた。言うならば、この少年には、そいつらの記憶が全て移植されている。そして、オレたちが苦しんできた記憶も……な」

 やはり日向の所業は、正気の沙汰ではない。

「そんなの、許せねぇッス! 日向の奴は、一体、どこまで人の道を踏み外せば気が済むんスか!」

 押し寄せる怒りにより、鈴菜(すずな)の声は半ば掠れていた。その横で握り拳を震わせつつ、逢魔(おうま)も憤る。

「日向……俺はヴィランとして生まれ、今まで数多くの人々を苦しめてきた」

「ああ、そうだな。おかげで、私の私腹も肥えたというものだ」

「……だが、そんな俺から見ても、お前のしたことは許されない! もはやお前はヴィランでもウィザードでもない! 悪魔だ!」

 声を張り上げた逢魔は、瞬間移動によって間合いを詰めた。直後、日向は彼の背後を取り、そして刀を突き出した。その切っ先に背中を貫かれ、逢魔は吐血する。彼の身に、その限界を告げるノイズが走り始めた。その光景を前にしてもなお、彼らは戦意を失わない。

「キミの愚弄してきた命は、どれも美しかった。キミに、人の命を否定する権利なんかない! そんな権利は、誰にだってないんだ!」

 そう叫んだ天真(てんま)は、両手から糸の束を放った。その攻撃すらも避けた日向は、天真のすぐ後ろに姿を現す。

「命が美しい? とんだ寝言だな」

「何っ……?」

 見えない力に切り傷を負わされ、天真はその場に崩れ落ちた。震える両腕で上体を起こそうとする彼を見下ろし、日向は語る。

「私がほんの少し火種を撒いただけで、あの戦争が起きた。数多の市民が命を落とした。生命の邪悪さを知り、自らの悪を背負って生きている私にはわかるのだ……命は決して、美しくなどないと!」

 確かに、人々に優しさがあれば、あの戦争が引き起こされることもなかっただろう。それでもヒロは、彼に真っ向から反論する。

「ヴィランとして生み出された晴香(はるか)や逢魔ですら、輝かしい友情を学ぶことが出来た。生命は決して邪悪なわけじゃない。ただ、学ばなければならないことが多すぎるだけなんだ!」

「果たしてそうかな? 君が迷い続けてきたのも、己の正義を信じ切れなかったのも、君が身勝手な愚民どもに心を揺さぶられてきたからではないのかね? 思い返してみろ……君が目にしてきた人類が、どんな生き物であったのかを」

「そっ……それは……」

 この時、ヒロの脳裏には、今まで経験してきた様々な出来事が巡っていた。彼は人間の業によって生み出され、捨てられ、そして数多の憎しみを目にしてきた身だ。

「何か、反論はあるかね?」

 そう訊ねた日向は、悪意に満ちた微笑みを浮かべていた。しかしヒロは、己の考えを変えようとはしない。

「それでも俺たちは、心を一つにしてここまで来た。死なれたくないと思える仲間に囲まれて、俺は命を美しいと思えるようになった。だから俺は、より多くの命を守るために……君を倒す!」

 その言葉には、確固たる信念があった。そんな彼に半ば呆れつつ、日向は時間を停止させる。

「君たちはもう用済みだ」

 そんな一言を呟いた日向は、手に持っていた刀を勢いよく振り下ろした。

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